3月8日は「国際女性デー(ミモザの日)」。1904年3月8日にニューヨークで女性労働者が婦人参政権を要求してデモ集会を開催したことに由来し、これまでの女性の勇気と決断を称え、女性の地位向上や女性差別の払拭を考える日とされています。性別の壁を超えて誰もが活躍できる社会を目指すこの日を記念して、私たちは京都のコーヒースタートアップ Kurasu で輝く女性を紹介します。
グローバルなカスタマーサポートの最前線で活躍するBaker(Yuko Baker)は、多様な文化的背景を持つKurasuのお客様に、持ち前の語学力と想像力で寄り添い続けています。彼女は、オフィスにいつも明るい空気をもたらしてくれる、Kurasuの縁の下の力持ちでもあります。今回はそんな彼女の、長年にわたるKurasuでの経験、子育てと仕事との両立、そしてそこから生まれたコミュニケーションのノウハウに迫ります。
「たまたま」から始まったKurasuとの縁
ーーKurasuの実務において、Bakerさんはいろんな顔があると思うのですが、そもそもどういうきっかけで入社されたのですか?
本当にいろいろなことを経験してきましたね。今はカスタマーサポートがメインですけど、昔は店舗のバリスタのサポートもしましたし、パッキング作業をしているうちに、物流関連の事務作業を兼任することになったこともありました。
きっかけは、夷川店舗でのパッキングスタッフのアルバイト募集を見たことです。駅から近い職場で、9:00~15:00の勤務時間も小学校1年生になる長女の帰宅時間と合わせやすく、条件面が合いすぎて「素晴らしい!」と思いました。
その前からKurasuのサブスクリプションに登録しており、Kurasuの存在は知っていました。たまたまコーヒーフェスティバルでKurasuの豆を購入して、おうちで淹れると、パートナーが「美味しい」と言ってくれたんです。さらに、ECサイトには英語のページがありました。私のパートナーはアメリカ出身なので、彼にとってすっと理解しやすかったのでしょう。そのまま「サブスクリプション登録したよ~」と言われました(笑)こうして考えると、本当に「たまたま」の連続でKurasuに出会えたんですよね。
(↑ Bakerファミリーの集合写真)
週に3回、月・水・金という出勤ペースも、ちょうど良かったんです。自分の時間を確保しつつ、子育てもできる。よくある話ですが、子育てをするとどうしても社会との接点が減ってくるので、すごくありがたい機会でした。
正直、不安もありましたけどね。当時40代手前で、新しく就業できるのかなって。でも、バックグラウンド的に海外志向があるので、京都を拠点に海外へ事業展開を見込んでいた当時のKurasuは、本当に「自分のバックグラウンドとピタリとハマる」仕事でした。発送作業は未経験でしたが、チャレンジするのが好きなので、かえってある種の自己実現につながる感覚がありました。
入社2日目にMr.Yozoに「Bakerさんは、英語できますよね?」と声をかけていただきました。当時、カスタマーサポートのポジションが空いていたこともあり、「ぜひやってほしい」と言われて、やることになりましたね。社会との接点を求めて始めた仕事だったので、内容もぴったりでしたし、せっかく鍛えてきた英語力をさらにビジネスレベルに引き上げる良い機会だと思いました。
その時期はちょうど2020年、コロナウイルスが流行し始め、不必要な出勤や外出を控えることが推奨され、在宅勤務が推奨されるようになった時期でもありました。CSの業務はパソコンさえあれば在宅勤務が可能だったため、さまざまな条件がうまく重なったように感じました。
ーーKurasuのカスタマーサポートは、Bakerさんの語学力が活かせる場面でもありますよね。仕事の中で得た気づきなどはありますか?
言葉は文化だなあ、と改めて実感する場面が多いですね。例えば昔、ドイツにいたころ、ドイツ語の「kaputt」という言葉が好きになったことがありまして、「壊れた」という意味で使うのですが、人にも適用できて「Ich bin kaputt. (I am exhausted.)」みたいな使い方をするんです。それを知ったとき、ドイツはモノづくりの国っていうのも関係あるのかな、なんとなくそう思ったんですけど。
あと、英語でパートナーと話すときに「めんどくさい」って日本語は、なかなか英語に訳せないよね、っていう話をするんです。
ーー確かに「めんどくさい」の意味を説明するとなれば「できないことはないけど、するほどでもない。でも、しないと気が済まない。だけど、視界を邪魔する何か」みたいなイメージですよね。
そうそう「化粧しているのに、お風呂入らないといけないからめんどくさい~」とかね。こういう文脈まで訳せない言葉を、英語でどう説明すればいいのかよく考えます。
そんなふうに、言葉は文化だからこそ、Mr.Yozo(Bakerさんはよく「ミスターヨーゾ」と呼ぶ)が話すように、例えば海外展開をする上で、信頼できるローカルパートナーがいることは心強いんだろうなって思います。その微妙なニュアンスを大事にしてすり合わせていくことが、ブランドのこだわりとして大事ですよね。
ちなみに、カスタマーサポートで届くメールは大概 "Hello, Mr. Yozo!" となっているので、いつの間にか私もボスをそう呼ぶようになっていました。(笑)
点は振り返ったら、きっとあとからつながっている
ーーKurasuに入社する前は、どんなことをされていたんですか?
大学在学中に、一度ドイツに留学しました。その後、日本に帰国して日本の大学院で修士号を取得したあと、学習塾の塾長として働いていた時期に現在のパートナーと出会い、間もなく出産。その後、子育てに専念していましたが、子どもが2歳になったころ、「私は子育てだけでは生きていけません」と宣言し(笑)、パートナーの了承を得て、国立京都国際会館でコーヒーのケータリングの仕事をパートで始めました。
ーーえっ、そこでコーヒーが登場するんですね。
そうなんです。会議場なので、会議の合間によく「コーヒーブレイク」があります。そこで、業務用のバッチブリューのマシンを使って、何千杯ものコーヒーを次々と提供しました。
ーー著名な方も多く訪れる場所ですよね。
はい、天皇陛下が来られたこともありますし、ノーベル賞を受賞された京都大学の先生にコーヒーをサーブしたこともあります。また、次にノーベル賞を受賞するかもしれないと注目されている方を表彰する「京都賞」の式場も国際会館で行われているので、そういった方々とも話す機会がありました。意外とコーヒーって、立場や階層を超えてみんな飲むんですよね。それがすごく面白くて、結果的に社会とのつながりを持ちたいという目標も達成できましたし、興味深い経験をたくさんしました。
ーーコーヒーって、バッハやベートーヴェンのような偉人も飲んでいたわけですし、階層を超えてスーパーフラットな存在として機能していますよね。ところで、学生時代はどのようなことを勉強されていたのですか?
大学院では、歴史遺産の研究をしており、特に煎茶の空間について学びました。修士論文は「江戸後期の煎茶空間ー茶の湯空間に及ぼした影響ー」というテーマで書きました。懐かしいなぁ。
母が煎茶の稽古をしていたので、幼いころから身近な文化でした。ちょうど進路を考えている時期に、建築史家の中村利則先生と親しくなり、その流れで修士課程では先生の研究室に入ることになりました。振り返ってみると、人生の転機はいつも人との出会いから始まっているなと思います。
実はこの喫茶文化というのも、Kurasuとのつながりを感じる部分です。Mr.YozoがKurasuを通してつくりたいコーヒーカルチャーは、ある種の「間(ま)の文化」なのではないかと、個人的に想像することがあるんです。歴史学者の熊倉功夫先生は、「茶の間力(まりょく)」という言葉を用いて、恥ずかしがり屋の日本人が茶道というルールを通して心を開く、そのようなコミュニケーション効果を説明しています。Kurasuの当たり障りのないスモールトークや、京都の雰囲気を楽しんでもらうための絶妙な距離感には、この「間力」が感じられることがあります。
ーーなるほど、興味深いつながりですね。ちなみに、ドイツにはなぜ留学されたのですか?
中学生のころ、突然、母が「ドイツの親友に会いに行くから」という理由で、母と私の2人で2週間ほどドイツに行くことになったんです。そのとき、フライブルクの大聖堂を見て感動したんですよ。それで、「フライブルク大学で建築を勉強するんだ!」って決意しました。
その影響もあって、高校では英語に力を入れている学校に進学し、大学ではドイツ語学部に入学して、大学3年生までに単位を取り終えて、そのままドイツに留学しました。でも、外国語大学ではなかったので、周りにはいろんな人がいて、海外に興味がない学生もたくさんいたんですよね。そういう環境だったからか、いつの間にか「目的に一直線じゃなくても、回り道を選ぶのも悪くない」という感覚が身についたのかもしれません。
(↑ ドイツ留学時代の写真。フィルムで撮ったため画質が荒く、時代を感じさせます。)
ーー夢を抱いて挑戦するけれど、現実の壁にぶつかることもありますよね。
まさにそうです。人生って、やってみないとわからないものだと痛感しましたね。22歳のYuko Bakerは憧れだけでドイツに飛び込みました。でも、実際に生活してみて、文化に触れてみると、「思ってたのと違うな……」って感じることも多かったです。結局、半年で帰国することになりました。
(↑ 常連のクリスさん。同じシャツだったのでパシャリ。)
その理由は単純で、「自分は日本のことを知らなすぎる」と気づいたからです。ドイツには日本文化に興味を持っている人が多くて、ディスカッションをする文化も根付いています。でも、その場で「英語ができるから国際人になれる」というわけではないと痛感しました。言語を超えた感覚やセンスの部分での理解が必要なんですよね。だからこそ、ときどき「英語よりも、まずは日本語や日本の文学に触れることが大切なんじゃないか」と感じることもあります。
(↑ 娘さんと出かけた福田美術館の展示で、顔をはめて撮った写真)
それに、当時は若かったのでクラブにもよく行っていたんですけど、フライブルクはベルリンのような都会ではなかったので、クラブもなくて窮屈に感じることもありました。結局、刺激を求めてパリに遊びに行くことが多かったですね(笑)振り返ってみると、若気の至りというか、波乱万丈な日々でした。
ーー淹れたてのコーヒーみたいな熱々な人生を歩まれてきたんですね。
そうかもしれませんね。今、子育てをしながら思うのは、情報があふれている中で、五感で感じられる経験を大切にさせてやりたいということです。だから家族で美術館に行ったり、追体験でもいいので、さまざまなことを経験させたいと思っています。
「点と点をつなぐ(Connecting the dots)」という話がありますが、あまり先々のことを考えすぎず、後から振り返ったときに「ああ、そうつながっていたんだ」と気づくことが大事なんじゃないかと思うんです。子どもの頃に「なぜあれをしたんだろう?」と思ったことが、大人になって自己省察の材料になることってありますよね。
まあ、長女はエネルギッシュな子なので、美術館やお寺巡りをしていても「面白くないなぁ」と思っているかもしれませんが(笑)自分もドイツにいたころはそうだったので、気持ちはわからなくもないんです。
(↑南禅寺に出かけたとき)
ーー長女さん、大人になったときに、知らず知らずのうちに、お寺巡りが好きになるのかもしれないですしね。さて、ドイツ留学、大学院での研究を経て、一度、塾で勤め始めたわけですが、その頃の記憶で何か印象に残っていることはありますか?
「鋼の錬金術師になりたい」と話す子がいたんですよ。そんな話をすると、大体の親御さんは「何を言っているの?」と否定することが多いんです。もちろん、子どもの将来を考えて、ある程度現実的なアドバイスをしたい親の気持ちも理解できます。
でも、一方で、子どもたちの突拍子もない夢や希望をちゃんと受け止めることも大事だと思うんです。だから、錬金術師になりたいという子には、「それなら『算数』と『理科』はできた方がいいよね」と、夢を否定せずに、それを支える学び方を提案するようにしていました。自分がクッション役になって、現実と夢の「間」をつなぐような役割ですね。
(↑佐川美術館の『あ!展』に娘さんと行ったときの写真)
特に、子どもたちの世界は親によって範囲が決められてしまうことが多いんです。家か学校かという狭い世界しか知らない子どもにとって、ちょっとした出来事が大きな影響を与えることがあります。
以前、社内のSlackで バリスタのKuriが、Kyoto Standに中学生が母親と一緒に来店したことをシェアしてくれていました。その子はお店ではゲイシャコーヒーを飲んで、家ではエアロプレスでコーヒーを淹れているらしく、豆も購入していったそうです。明らかに自分のお小遣いから買ったんだろうなという感じで、なんだかほっこりするエピソードでしたね。
夏休みの自由研究って、ああいう感じであるべきだなと思ったんです。自分で選んで、自分で体験して、感じたことをまとめる。大人が押し付けるものではなく、子ども自身が興味を持って進められることが、一番の学びになるんじゃないかなと思います。
ーーこれって、組織内でのコミュニケーションの柔軟性を考える上で、とてもいいヒントですね。「Yes」か「No」で判断するだけではなく、「Why」と「How」を大事にするというか、痒いところに手が届くような「間」の答えを導いていくことができそうです。
そうですね。私自身、良い意味でKurasuの中で特別な権限があるわけではなく、表に出ることもあまりない立場だからこそ、スタッフの話をじっくり聴くことができると思っています。休憩中に相談役になったり、ちょっとした悩みを聞いたり。特別なポジションにいないからこそ、逆に「間」の役割を果たせるのかもしれません。
異文化に触れているからこそとれる生の共感コミュニケーション
ーーBakerさんのこれまでの多彩な経験が、今のKurasuの実務にどうつながっているのか、具体的に教えていただけますか?
たとえばカスタマーサポートをしているとき、アメリカやヨーロッパに渡航した経験があるので、少しでもお客様の状況を思いやったコミュニケーションが取れる点でしょうか。
例えば、発送先が北欧の地域だったら、「今の季節は寒くて夜が長いのかな」と想像して、文末に「暖かく過ごせますように」と一言添えたりしています。
今は「ChatGPT」をはじめ、AIを使えば簡単に翻訳はできますが、相手の状況を思いやったり、それに対してどのような言葉を選ぶか、文脈を読み取ったり、作ったりすることは、まだ人間にしかできない仕事だと思っています。
また、Kurasuのカスタマーサポートチームでは、対応するメンバーの名前を出さずに「Kurasu Team」として対応するようにしています。個人名を出さないことで、例外を作らず、一貫性のあるサポートを心がけているんです。
これにより、良いカスタマーサポートができたときには「Kurasu」として評価されますし、逆に課題があったときも「Kurasuの対応」として改善を考えることができます。そうすることで、Kurasuのカスタマーサポート全体のトーンや文化を話し合ういい機会にもなります。
ポリシーに沿った「一貫性」を大事にしながら、例外が出てきたときには、ポリシーをベースにしつつ、最大限に柔軟に寄り添う姿勢を取っています。
(↑ Bakerさん曰く、心強いCSチームのガールズ。普段は在宅勤務の2人ですが、忘年会をきっかけに久しぶりの出社したとき撮影したとのこと。)
ーーKurasuのカスタマーサポートって、特にお客様が世界各国にいるからこそ、想定外の状況が多くて大変じゃないですか?
そうなんですよ。だからこそ、一貫性を保つ必要がある一方で、変数が多いというチャレンジングな環境なんです。でも、そういう中でも柔軟に対応できるのは、これまでにいろいろな経験をしてきたからだと思います。
メール越しとはいえ、相手の文化や背景を少しでも想像できることで、ただの機械的なコミュニケーションにはならないんです。自分が逆の立場だったら、そういう気配りが感じられるやり取りのほうが嬉しいですからね。アナログでもデジタルでも、伝わる文章はちゃんと伝わります。だからこそ、相手が「人」であることを意識することが大事だと思っています。
チャレンジする母の背中を見せたい
ーーそれがBakerさんのコミュニケーションの温かさにつながっているんですね。
意識はしていますね。最近、友人が「会社に入って、10年後に自分もああなりたいなと思える先輩がいる会社って、自然と離職率も下がるよね」と言っていて、すごく共感しました。
Kurasuに限らず、コーヒー業界って20代が多いんですよね。そんな中で、肩書きだけ切り取れば「40代」で「女性」で「子育て」をしながら働いているという、一見、世間的にはマイナスと思われがちな要素しかないかもしれませんが、だからこそ「KurasuにはBakerさんみたいな働き方もある」と感じてもらえる存在になれたらいいなと思っています。
(↑ チームになってから、有給を使って家族旅行に行ったときの写真。)
「こうじゃなきゃいけない」という固定観念にとらわれず「その人らしく働けること」が、次の世代にとっての希望や安心感につながれば嬉しいですね。
ーー次の世代への影響力があるというのは素晴らしいですね。
ありがとうございます。自分自身の目標としては、子どもたちに「チャレンジしている母の姿」を見せたいと考えています。また、カスタマーサポートの経験が長くなってきているので、そのノウハウをしっかり残していきたいとも思っています。
今、カスタマーサポートチームは順調に稼働していますが、それに満足せずに新しいことも学び続け、常に柔軟性を持っていたいです。
(↑ 入社当初。パッキングチームでパシャリ。)
Kurasuのメンバーには「Yuko Bakerができることがあれば、何でも声をかけてください!」というスタンスでいたいですね。チームの「姉」のようでもあり、「母」のようでもありたいと思っています。
インタビューを終えて
「40代になるとね、アップデートするのが本当に大変!」と笑うBakerさん。「でも、40歳を期に念願のHip Hop Danceを始めたんです!数年後にはシニアのHip Hop Dance大会に……」と冗談半分、本気半分の言葉にはどこか楽しさがにじんでいて、仕事を心から楽しんでいる様子が伝わってきます。
Kurasuの中で、表には出ないけれど、スタッフを陰ながら支える存在。誰かのために動ける強さと優しさを持っているからこそ、チームの大事な柱になっているんだなと感じました。
Bakerさんの話から学んだのは、キャリアに「正解」はないということ。周りと助け合い、対話を重ねて築き上げていくものなんだな、と改めて思いました。
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