株式会社Codence代表の西野です。
4月も下旬に入りました。新しい現場に入ったメンバーも、受け入れる側のチームも、最初の緊張が少しずつほどけてくる時期かと思います。
私もSES経営者として、毎年この時期になるといくつかの現場を見て回ります。新しく入ったエンジニアのキャッチアップが進んでいるか、チームに馴染めているか、案件の空気が変わっていないか。見ておきたいことはたくさんあるのですが、最近ずっと考えていることが一つあります。
それは、現場で「ちょっと相談いいですか」が軽く言えているかどうか、です。
言葉にすると当たり前に聞こえますが、この一言が出る現場と出ない現場では、3ヶ月後のチームの状態がまるで違ってくる。今日は、現場を選ぶエンジニアにも、受け入れるチームにも、両方に関係する話を書いておきたいと思います。
4月下旬、現場の表情が変わる時期
4月の頭はみんな張り切っています。新しい案件、新しい体制、新しい顔ぶれ。質問も多く出るし、挨拶や雑談も自然に生まれる。慣れていない分、むしろ遠慮なく聞ける空気があるのだと思います。
ところが、2〜3週間が経つと、この空気が少しずつ変わってくる。
業務の流れが見えてきて、みんなが「自分の作業」を抱え始める。キャッチアップ目的のミーティングも減り、一人で黙々と画面に向かう時間が増える。同じチームの人が何をやっているのかが、だんだん見えなくなっていきます。
この時期に、エンジニア個人が抱え始める迷いは、実は技術的な質問ではないことが多いです。設計の意図が分からない、誰に何を聞けばいいか分からない、仕様書と実装がずれている気がするけれど言い出していいのか分からない。こういう、明確な答えのない「ひっかかり」が少しずつ積み上がっていきます。
ここで「ちょっと相談いいですか」が言える現場と、言えない現場では、その後の3ヶ月の動きが全く変わります。言える現場ではひっかかりがその場で解けていき、言えない現場では持ち帰られて、誰にも共有されないまま残り続ける。後で問題が表面化した時、「なぜ早く言わなかったのか」と問われても、本人は答えようがありません。最初の一言を出せる状態になかった、というだけの話なのです。
私が4月下旬に現場を回って確認したいのは、何より「誰かに声をかけやすい空気があるか」です。技術スタックやスケジュールの話より、ずっと重い情報だと感じています。
「聞けない」が、一番しんどい
エンジニアとして現場に入った経験がある方なら、一度は覚えがあるはずです。
仕様が微妙に腹落ちしないまま実装に入ってしまい、後で「あ、そっちの意味だったのか」と気づく。レビューで指摘されて初めて、自分が前提を取り違えていたことを知る。本当は最初の30分、誰かに確認するだけで避けられたはずの遠回りです。
なぜあの時、聞けなかったのか。振り返ると、聞く内容が分からなかったわけではありません。正直に言うと、「こんなことを聞いたら、スキルを疑われるかもしれない」と思っていたのです。
相手が忙しそうだった、空気を読んで割り込めなかった、質問のレベルが低いと思われたくなかった。いろんな理由を並べますが、根っこにあるのは「評価されている自分が、弱みを見せていいのか」という緊張です。この緊張は、新しい現場に入ったエンジニアなら誰でも持っています。
厄介なのは、この緊張が放っておくと強くなっていくことです。最初に一度「聞けなかった」経験をすると、次はもっと聞きにくくなります。自分が把握できていない領域が広がっていくので、質問のスコープも大きくなっていき、ますます聞くハードルが上がる。ループが強化されていくわけです。
そして、この状態が1ヶ月続くと、本人は相当しんどくなります。外から見ても口数が減り、ミーティングでの発言も減る。パフォーマンスは静かに落ちていきますが、本人はそれを自分の能力の問題だと思い込んでいく。SESの現場で「この人、合わなかったですね」と言われて終わるパターンの、かなりの割合がここから始まっていると私は感じています。
技術力の問題ではなく、「聞けなかった」ことから始まる崩れ方。これが、一番もったいないと思います。
AIがいても、相談の必要は減らない
最近は、分からないことをAIに聞ける時代になりました。仕様書の読み解き、コードの意図推測、ライブラリの使い方。ひと昔前なら人に聞くしかなかったことが、いまは手元で調べられる。
私たちも開発の中でAIを日常的に使っていますし、便利だと心から思っています。ただ、AIが進んでも減らないタイプの相談がある。
たとえば「この要件、仕様としては正しいけれど、ユーザー視点で見ると不自然な気がする」という話。あるいは「このタスクの優先順位、本当に今じゃないと駄目なのか」という判断。こういう、前提を問い直す種類の問いは、その場のチーム・そのプロジェクトの文脈を知っている人にしか返せません。
AIに相談できるのは、答えを言葉にできる問いまでです。「何が引っかかっているのかまだうまく言えない」段階のモヤモヤは、人に向かって話しながらでないと言語化できません。
現場で一番しんどいのは、この言語化前のモヤモヤを抱え込むことです。AIで解決できないタイプの問いを、誰にも向けられないまま持ち続けると、パフォーマンスが下がるだけではなく、仕事自体が面白くなくなっていきます。
だから、AIが進む時代でも、人に相談できる現場の価値は下がりません。むしろ、定型的な質問がAIに移っていくぶん、残った「人に相談しないと解けない問い」の重さが、昔より増しているようにすら感じます。
相談できない人は、静かに離れていく
私は経営者として、メンバー一人ひとりの退職理由を本人から直接聞くようにしています。
SES会社を続けていれば、どうしても離れていく人は出る。給与、キャリア、家庭の事情。表面的な理由はいろいろ並びますが、話し込んでいくと、ほぼ毎回出てくる共通点があるのです。
「あの現場では、自分の困っていることを、誰にも話せなかった」
この一言が出るかどうかが、その後のキャリアの納得度を大きく左右しているように見えます。困っていることを話せた人は、仮にその現場を離れることになっても、経験として整理がついています。次の現場で活きる学びが残る。一方で、話せずに抱え込んだまま辞めた人は、「あの半年は何だったのか」という感覚を引きずりやすい。
私たちSES会社の経営者からすると、メンバーが抱え込んだまま辞めてしまうのが一番つらいのです。本人もつらいし、現場の信頼も損なうし、会社としても学びが残らない。「早めに言ってくれていれば、現場を変える選択肢もあった」と思うことが、年に何回もあります。
だからこそ、現場内に相談ルートがあるかどうかは、派遣される側の幸福度に直接効く要素です。プロパーの先輩が声をかけてくれる、チャットで気軽に投げられる空気がある、定例でちゃんと拾ってくれる人がいる。何でもいいのですが、「この人、この場所、このチャンネルに投げれば反応が返ってくる」という導線が一つでもあれば、抱え込みはかなり減ります。
逆に、この導線が一つもない現場は、どれだけ技術的に面白い案件であっても、長期的には人を消耗させていきます。
以前、別の会社からお願いされて案件のセカンドオピニオンをしたとき、現場の方から「困ったことはない」という答えが返ってきて少しだけ引っかかったことがありました。その数週間後、同じ現場で体調を崩された方が出たと連絡がきました。困っていなかったのではなく、困ったことを言葉にする場がなかっただけだったのです。
私が案件を選ぶ、または継続を判断するときに、プロジェクトの単価や技術スタックと同じくらい重く見ているのが、ここです。
言える空気は、偶然では生まれない
「相談しやすい現場ですね」という言葉を、現場のメンバーから聞くことがあります。ありがたい話ですが、それは偶然できたものではなく、誰かが意識して作り上げているのです。
私が見てきた「相談しやすい現場」には、だいたい共通する条件があります。
一つ目は、リーダーが自分から分からないことを口にしている現場です。「この仕様、私もよく分かっていないので一緒に整理しましょう」と言えるリーダーがいる現場は、下の人も安心して分からないを出せます。リーダーが常に完璧に振る舞っている現場は、逆に全員が分からないを隠します。
二つ目は、質問や相談を受けたときに、反射的に否定から入らない現場です。「それ、前に説明したよね」と返される現場では、二度目の質問は出ません。「あ、その話、もう一回整理しておきますね」と返してくれる現場では、質問が次の質問を呼びます。
三つ目は、雑談が生き残っている現場です。業務の話しかしない現場は効率的に見えますが、相談のハードルは跳ね上がります。雑談の延長に「そういえば、あれってどうなってました?」が出てくる。雑談は無駄ではなく、相談の土壌だと私は思っています。
このあたりは、外から見ても割とすぐに分かります。朝会の様子、チャットに流れるやり取りの温度、ミーティングで誰がどんなリアクションを取っているか。3日も観察していれば、相談しやすい現場かどうかはだいたい見えてきます。
そして、この「空気」を作っているのは、役職ではないことが多いのです。肩書きに関係なく、「自分から分からないと言える人」「人の話を遮らない人」「相手が話しやすいように質問を返す人」がチームに一人いるだけで、空気はかなり変わります。
逆に、その一人が抜けた瞬間に現場が急に息苦しくなった、という経験も私は何度か見ています。相談の土台は、構造ではなく人に支えられている。だからこそ、採用でもチーム組成でも、この役割を担える人を見落とさないようにしたいと常々思っています。
現場選びで、私が見ている一点
私たちが新しい案件の受諾可否を検討するとき、商流の情報や単価条件のほかに、必ず面談で確認することがあります。
それは「この案件で、最初の2週間、誰が新しい人の面倒を見ますか」という質問です。
回答がはっきりしている案件は、ほぼ問題なく走ります。リーダーなのか、先輩エンジニアなのか、PMなのか、誰が一次窓口になるかが明確で、その人が過去にも同じ役回りをしていて、しかも「質問してくれていいですよ」というスタンスが言葉から感じられる。こういう案件は、キャッチアップが早いし、定着もしやすい。
一方、回答があいまいな案件には、入ってから苦労するケースが多いです。「まあ、みんなで見ますかね」「質問してくれれば答えますよ」という回答は、聞こえは良いのですが、実質的には「聞きたければ自分から動いてください」と同じです。この言い方が出る現場は、プロパーメンバー自身がお互いに相談しにくい環境であることが多く、そこに外部のエンジニアが入っても、やはり相談しにくいまま時間が過ぎていきます。
私たちが転職先を考えているエンジニアの方に伝えたいのは、面談のときに遠慮せずこの質問を投げてみてほしい、ということです。「入社後の最初の2週間、誰がキャッチアップの面倒を見てくれますか」。受け入れる側の本気度が、回答の具体性にそのまま表れます。曖昧な答えが返ってくる会社は、入った後も曖昧なまま過ごすことになりやすい。
この質問は、案件受諾時のチェックリストにもそのまま使えます。私はいまも、クライアントとの初回面談で必ず確認しています。
小さい会社だからこそ、拾える声がある
Codenceは創業して1年も経っていない会社なので、制度が整っている段階ではありません。むしろ、これから一緒に整えていく人を探しています。
ただ一つだけ、最初から徹底していることがあります。困ったことがあったら、なるべく早く言ってもらう。現場に私から顔を出す回数も、同業他社よりは多いほうだと思います。現場で「ちょっと相談」が言えなくても、私に投げてもらえれば、案件を変えるなり、クライアントと話すなり、動かせる手段はいくつかあります。
私たちはまだ数名のメンバーで動いている組織ですが、逆に言えば、一人のメンバーの声が私のところまで届きやすい距離感です。大きな会社では埋もれてしまう「ちょっと相談」が、ここではちゃんと拾える。これは、規模が小さい会社の明らかな強みだと感じています。
4月はとくに、新メンバーの入社や案件の立ち上がりが重なるので、私からメンバーに声をかける回数を意図的に増やしています。雑談7割、業務3割くらいの短い会話を、なるべくこまめに入れる。これだけのことで、引っかかっていた話がふっと出てくることが本当に多いです。
逆に言うと、この距離感は組織が大きくなっていくほど維持しにくくなります。だからこそ、創業期の今のうちに「相談が通る会社」を前提として作り切ってしまいたい。これから加わるメンバーと一緒に、その土台を固めていきたいと思っています。
転職を考えている方へ
技術スタック、年収、働き方。転職を考えるときに見るべき項目はたくさんある。どれも大事ですが、その全部が揃っていても、「相談できない現場」に入ってしまうと、半年後のあなたは確実に疲れている。
逆に、条件が満点ではなくても、困った時に声をかけられる人がいる現場は、長期的に見て絶対に伸びる。スキルも増えるし、社内での信頼も積み上がるし、キャリアの選択肢も広がっていく。
私たちCodenceは、Javaを中心にしたバックエンドエンジニアを募集しています。実務経験3年以上の方を想定していますが、それ以上に大事にしているのは、「困った時に、早めに言える人」「相手が困っていたら、軽く声をかけられる人」です。
創業1年目の熱量の中で、一緒に会社を作っていく仲間を探しています。
もし少しでも興味を持っていただけたら、まずは気軽にカジュアル面談からでも構いません。「ちょっと相談いいですか」から、始めていきましょう。