私たちFracta Leapはどんなふうにできたのか。
事業が広がり、ソリューションが形になってきている今、あらためて成り立ちを確かめておくことは、次への礎になるのではないか。そんなふうに考えて、根っこを探る企画を始めます。
CEOの北林さん、Executive Fellowの羽鳥さんに、2020年の会社設立より少し前のことから聞きました。
プロフィール
北林 康弘(写真:左)
Chief Executive Officer
経営戦略コンサル、事業再生支援、ディープテック系スタートアップのCFOなどを経て、Fractaに参画。Fracta米国本社でCFO 兼 日本事業の責任者を務めた後、2020年にFracta Leapを設立し、同社CEOに就任。
羽鳥 修平(写真:右)
O&M Div.
Executive Fellow (Data Scientist) / Senior manager of Corp IT
リクルートでデータ活用の新規開発案件(営業支援ツール、求人原稿自動生成など)に従事した後、Fractaに参画。Fractaの日本オフィスの成長を牽引し、Fracta Leapの創設に貢献。RO膜装置のAI最適運転のソリューション開発を主導。同ソリューションは2022年、オープンイノベーション大賞「環境大臣賞」を受賞。
目次
経営コンサルからロボットベンチャーへ
インフラを支えている人たちの、コミットメントの凄さに触れて
もともとCEOの北林さんは、Fracta Leap設立以前はどんなことをしてきた人なのでしょうか。まずはそこから聞いてみました。
北林:
「30歳くらいまで経営コンサルタントとして、会社の経営課題を解決する仕事をしていました。さまざまな企業の現場に行って、話を聞いて、課題を整理して事業計画などをまとめる仕事を続けてきて、20代の終わりには、ある程度プロフェッショナルとして一人前になれたような気持ちがありました。でも同時に、これでいいのだろうかという気持ちもずっとあって、稼ぐことはできていても、企業の相談役という立場でできることに限界を感じていたんだと思います」。
「そんなとき、以前一緒に働いたことがあって、アメリカでロボットベンチャーを経営していた加藤崇さんから声がかかります。一緒に仕事しないか、日本法人のCFOをやってほしいと言われて、挑戦してみることにしました。
その会社は、高所や狭所、災害現場といった、人間には危険な場所での点検・作業を代わりに行うインフラ向けロボットを開発していました。そのなかでも、アメリカの水道インフラを深掘りしていくなかで、ロボットではなくAI開発の必要を感じ、加藤さんはそのベンチャーの一種の事業分割を進め、自身はアメリカで水道管劣化診断AIのビジネスを立ち上げることになりました。実は、これが後にFracta Leapの母体となるFractaの誕生です。その後、私自身もアメリカに行き、FractaのCFOとして水道インフラ×AIの世界にどっぷり入りこみつつ、並行して水道以外の新規事業の探索を担当することになります。2018年の初め頃だったと思います」。
「その辺りから水道はじめ各種インフラの現場との接点が生まれて、インフラを支えている人たちの存在の重要さや、コミットメントの凄さに触れるようになりました。365日、必ずしもみんなには知られていないところで世の中を守る地道な努力を積み重ね、身を削っている人がいる。事故や災害が起ころうものなら、24時間現場に駆ける。ずっとデスクワークばかりしてきた自分の周りにはいなかった人たちで、この人たちを支えたいという気持ちが強くなっていきます。
まだコンサルタントだった頃、東日本大震災のときに、被災地でボランティア支援の仕組みづくりをお手伝いしたことがありました。被災地で毎日献身的に働いている人たちがいて、同じことを自分にはできないけれど、この人たちを支えたい、一緒に何かしたいと思った。そのときの感情に近いものがありました」。
様々な社会インフラ領域にアプローチしていた頃
倉庫を間借りしたようなオフィスに泊まり込む日々。フル稼働してました
Fracta Leapが誕生するまでにはもう少しかかります。水道以外にもインフラの領域をテクノロジーで支えられるのではないか。当時、北林さんのFractaでの新規事業探索は、交通・環境・エネルギーなどの領域にも及んでいたとのこと。その頃のことを北林さんと羽鳥さんが話してくれました。
北林:
「水道管の劣化診断のように、インフラの老朽化が進むなかで点検が十分にできていないような問題にアプローチして、先端技術で世の中のためになる仕事をつくろうとしていました。ただ、水道でも感じていたことですが、インフラに関わり出すと、インフラ領域のプロジェクトは非常に足が長いという問題に直面します。それこそ設備の更新は10年、20年単位で考えている。今から企画しても実際に新しい設備が入るのは10年後だったりして、そのときにはもう全然違うテクノロジーがあることが予想される。
安全性を第一に考えるので、仕組みやオペレーションを今すぐ変えることは難しく、組織もそれに呼応する形で “重たい”組織風土になっている。そこにスタートアップが後から入っていって、1年間くらいPoCをやっても、なかなかうまく進まず、スタックしてしまう現実が見えてきました」。
その頃に、参画したデータサイエンティストが、まだ20代半ばの羽鳥さん。アメリカにいた加藤さん、北林さんと連携しながら、Fractaの日本の最初のメンバーとして、日本での新規事業探索の最前線を担当。鉄道会社の保線にデータを活用するPoCなどを進めていました。
羽鳥:
「コーヒーショップの上のフロアの、倉庫を間借りしたようなオフィスで、当時の僕はひたすらデータ分析をしていました。いろいろな可能性を模索していたときだったのでフル稼働です。そこに泊まり込む日もあれば、家でお風呂に入ってまた深夜に戻ってくるような日々でしたが、日本では第何次かのスタートアップブーム。アメリカの勢いに負けないぞというモチベーションが自分を駆り立てていました」。
模索し続けていたパートナー企業との出会い
水処理インフラを支える人たちのため、デジタルで何かできないか
羽鳥さんに各企業とのPoCを進めてもらいながら、北林さんは一時的なPoCで終わらない方法を模索し続けていました。自分たちがインフラ設備を所有しているわけではないため、データの取得やAI活用で深く入り込めないことも悩みだったそうです。
北林:
「インフラ領域に取り組むなら、インフラを担うパートナーとしっかり組まなければ難しいと感じていました。アメリカから日本に行って、日本の鉄道会社、環境ソリューション企業、総合商社などを訪問してディスカッションしたり、PoCを進めたりしていましたが、必ずしも思うように進みませんでした。そんな頃、2018年からFractaが資本業務提携をしていた栗田工業から、「水処理インフラに対して、デジタルで何かできないか」という相談があったんです。2019年の夏前くらいだったと思います」。
「栗田工業に出資を受けるまであまり知りませんでしたが、産業分野にも、欠かせない水の管理を24時間、365日担っている人、水処理インフラに強くコミットメントしている人たちがいます。この人たちを支えるために、自分たちならデジタルでこういうことができるという企画提案を半年ほどかけて行ったんです。すると、栗田工業からも予算や体制を整えて、しっかり取り組みましょうということになりました」。
栗田工業には運転や設計のデータ資産もある。開発に取り組む予算も確保できる。深く入り込んでインフラ・産業の変革を目指すには不可欠だと思っていた念願のパートナー企業が見つかったことで、新規事業は水処理インフラにフォーカスすることを加藤さんと北林さんは決断。幅広い分野で取り組んでいたPoCを中止することを、羽鳥さんに相談します。
水処理インフラにフォーカスする意志を固める
人がやろうとしないことに取り組む人が、世の中を変える起点をつくる人
線路脇に足を運んでデータを取り、オフィスに泊まり込みで鉄道会社の保線に関わる診断アルゴリズム開発に取り組んでいた羽鳥さんは、水処理インフラの変革にフォーカスするという方針を、すぐに受け入れることはできたのでしょうか。
羽鳥:
「僕自身は鉄道の保線のことを中心に考え続けていた時期だったので、水処理インフラにフォーカスしようと思うと相談を受けたときは、「えー!」というのが正直な感じ方でした。電車の進路を変える転轍機の状態を判別できる診断アルゴリズムを2カ月ほどかけてつくれたところだったので、この領域で引き続きいろいろつくれそうだと思っていました。それに対して「水処理」は得体が知れず、明らかに難しそうで、何が自分にできるのかさっぱりわかりません。最初は気持ちが切り替えられませんでした」。
「ただ、ここまでやっていることは「自分じゃないとできないことか」と自分に問うてみたんです。できそうなテーマに取り組んで、小さなヒットを打とうとしていないか。もっとワクワクして人生が変わるかもしれないと思ってスタートアップに来たことを思い出しました。ちょっとした前進は多くの人がつくれるけれど、世の中を変える起点をつくることができる人は限られている。人がやろうとしないところに取り組む人が、その起点をつくることができる」。
「加藤さん、北林さんと話しながら、水処理の意義や栗田工業とのパートナーシップのことを知って、その難しい分野に取り組んでみようと気持ちを切り替えました。会社にとって重要な分岐点だったと思いますが、自分の人生的にも精神性が変わる分岐点だったと思います」。
0→1に取り組む新会社Fracta Leap設立
自由闊達なR&Dの組織として、私たちは跳び出すべきだ
羽鳥さんの合意を得て、ちょうど少し前にFractaに入社を表明してくれていた村井さんにも水処理インフラにフォーカスする方針を伝え、ついに今の事業の方向性が創業メンバー間で共有されました。そこで北林さんは、さらに考えを進めます。
北林:
「当時のFractaは、水道管劣化診断ソリューションが製品としてあり、それを日本に販売していこうというフェーズ。マーケティングや営業にフォーカスが当たっている段階でした。一方で、水処理インフラに関する新事業は、これからR&Dをやってゼロからポテンシャルをつくっていくフェーズ。事業推進に必要な人材や熱量が全く違うわけです」。
「少し先を見据えて自由闊達にやるR&Dの勢いを、短期勝負の営業のチームの真横でつくろうとしても、どちらかに引きずられるか、最悪両方がおかしくなってしまう。熱湯と水を同時に入れるようになって、一緒にいる意味がなくなってしまう。数千人の大きな会社なら、部門が独立性を持って「両利きの経営」的に進めることもありえますが、数十人の会社で部門を分けたところで、なかなか独立性は確保できない。そうであれば、積極的に会社自体を分けてしまった方がいいというのが私の考えでした」。
「加藤さんとも相談しつつ、栗田工業とも話をつけて、新会社Fracta Leapを設立することにしました。私はアメリカから日本に帰り、この会社の代表になることに決めました。社名は自分でつけました。“leap”は「跳ぶ」ということ。水資源・水インフラに貢献しようというFractaの姿勢は受け継ぎながらも、そこからも跳び出し、独立する意志を込めました。花から種子が跳び出して、また芽を出し、次の花を咲かせることをイメージして付けた名前です」。
こうして、2020年5月、Fracta Leapが誕生します。
その後、栗田工業との共同プロジェクト「メタ・アクアプロジェクト」が立ち上がり、共同開発がはじまりますが、その話は次回の記事でご紹介します。
※ 記載内容は2026年10月時点のものです