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UXデザインを実際のプロダクト開発に繋げるためには

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◇プロフィール

Yoshihiro Suzuki
鈴木 嘉洋(ガラム)
Senior Product Manager

女性向けライフツール、求人サービス、AIデバイス、ファンコミュニティなどのWebサービスの立ち上げからグロースまでをプロジェクトマネージャーやプロダクトマネージャーとして関わる。事業会社のプロダクトに関わるだけでなく、今までの経験を活かして幅広い領域のプロダクトの課題に向き合いたいと思い2022年6月にConcentrix Catalystへ入社。


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背景

近年、UXデザインは企業や組織において、ますます重要視されるようになりました。プロダクト開発においても、UXデザインのプロセスを経てからプロダクト開発をする企業が増えています。

しかし、実際にUXデザインのプロセスを経ても以下のようなことが起きてはいないでしょうか?

  • UXデザイナーをチームに入れてユーザー体験を設計したのに、実際に開発されたプロダクトにはUXデザインが反映されていない
  • UXデザイナーのアウトプットから何を作っていいのか開発メンバーがわからない状況に陥り、コミュニケーションが多く発生して開発が進まない

プロダクトマネージャーがペルソナなどのような抽象的なUXデザインの中間成果物から具体的なプロダクト開発内容に落とし込む際に、適切な情報が伝達がされていないと上記のような問題が起きてしまいます。

本記事では、UXデザインから提供される成果物をどのようにプロダクト開発に繋げるかを実際のサービスを作るケースを元に説明します。


(上記イメージ:DALL・Eにて編集部が作成)


提供すべき体験が複数あり何が主軸となる基本のユーザーフローか決まらない

「ランチの検索サービス」を例にしてみましょう。以下はプロダクトを開発するメンバーへ共有されたペルソナと提供すべき体験です。Why(達成したいユーザー体験)>What(なにを作るか)>How(UIデザイン・実装)と体験設計を元にプロダクトの要件を定義し、その後のUIデザイン・実装のフェーズにつないでいくためのステップの中でWhy(達成したいユーザー体験)が定義された状態です。

ペルソナ

  • 20代後半から30代前半の男性
  • オフィス街で働く会社員
  • ランチの時間は近場の外で食べるのが楽しみだが、ランチ時間帯に混んでるお店が多く、1時間のランチの時間内で行けるお店を探すのが難しい
  • ランチ提供をしていないお店もあり、事前に知りたい
  • 週に一回くらい近場でチームランチに行くことがあるが、5人、6人で入れるお店を探すことが難しい
  • オフィス街でお店の入れ替わりが激しく様々な新しいお店ができるが、見つけることができない

提供すべき体験

  • 話題のお店や最新のお店の情報により、行きたいお店の選択肢が増える
  • 時間のない中、近場で行きたいランチのお店を決めることができる
  • 会社のチームメンバーと一緒に今入れるランチのお店を決めることができる

Why(達成したいユーザー体験)にあたる上記の提供すべき体験をプロダクト開発チームにそのまま渡すことはできません。なぜならば、主軸に置く提供すべき体験によってプロダクトの主軸となる基本のユーザーフローが違うからです。

例えば、主軸に置く体験が「周辺のランチについての最新の情報を得たい」ならば、主軸となる基本のユーザーフローは最新コンテンツの閲覧になります。

主軸に置く機能が「近場でのランチのお店を決めること」になるならば、主軸となる基本のユーザーフローは近くのお店の表示になります。このように主軸となる基本のユーザーフローが決まらない状態の時にプロダクト開発メンバーは何を作っていいのかがわからなくなります

プロダクト開発メンバーが主軸となる基本のユーザーフローを決めることができるように、提供すべき体験には優先順位をつける必要があります。

今回のケースでは以下の要素から優先順位を決めました。

  • ランチの時間に近場のお店を調べる
    • 毎日なので重要度高くメインケースとなる
  • ランチの時間にチームで入れるお店を調べる
    • 探す時にチームで入れることがわかればいいのでランチを探すのサブケース
    • 週に一回なので重要度低い
  • 最新のお店の情報を見る
    • 探す時に新しいお店を知るなので、ランチを探すのサブケース


(上記イメージ:DALL・Eにて編集部が作成)


提供すべき体験が抽象的すぎて、具体的な要求事項がわからない

提供すべき体験の優先順位付けをすると以下のようになりました。

  1. 時間のない中、近場で行きたいランチのお店を決めることができる
  2. 会社のチームメンバーと一緒に今入れるランチのお店を決めることができる
  3. 話題のお店や最新のお店の情報により、行きたいお店の選択肢が増える 

主軸となる基本のユーザーフローは近場で行きたいランチのお店を決めることです。しかし、これだけでは具体的にどんな機能で体験を満たしたらよいのかわかりません

そのため、一般的にはユーザーストーリーマッピングを作ることで、具体的にどんな機能を提供するかを定義します。今回は以下のユーザーストーリーマッピングを作成しました。

ユーザーストーリーマッピング

  1. アプリを立ち上げる
    1. ユーザーは位置情報の取得に同意できる
  2. 現在地周辺のお店を見る
    1. ユーザーは現在地を中心とした地図上でお店がある場所がわかる
    2. ユーザーは地図にあるお店の店名がわかる
  3. 気に入ったお店のサマリー情報を見る
    1. ユーザーは現在地を中心とした地図上で選択したお店のサマリー情報を見ることができる
  4. 気に入ったお店の詳細情報を見る
    1. ユーザーは選択したお店の詳細な情報を見ることができる
  5. 気に入ったお店までのルートを見る
    1. ユーザーは選択したお店のルートを現在地から表示できる

上記のユーザーストーリーマッピングからプロダクト開発を進めることはできます。しかし、それで本当にユーザーに価値のあるサービスを提供できるのでしょうか?

ユーザーストーリーから導けるものが、どこにでもあるようなサービスになっているならば、提供すべき体験を具体に落とし込めていない証拠です。具体的な要求事項につなげるためにも課題ベースで提供すべき体験に問いを立て、よりユーザーストーリーを具体化する作業が必要です。

提供すべき体験をよりプロダクトにダイレクトに繋げるために、改めて「ペルソナ」と「ペルソナの課題」に立ち返ってみましょう

今回のペルソナは以下の通りです。

ペルソナ

  • 20代後半から30代前半の男性
  • オフィス街で働く会社員
  • ランチの時間は近場の外で食べるのが楽しみだが、ランチ時間帯に混んでるお店が多く、1時間のランチの時間内で行けるお店を探すのが難しい
  • ランチ提供をしていないお店もあり、事前に知りたい
  • 週に一回くらい近場でチームランチに行くことがあるが、5人、6人で入れるお店を探すことが難しい
  • オフィス街でお店の入れ替わりが激しく様々な新しいお店ができるが、見つけることができない

 ペルソナから主軸となる基本のユーザーフローに関する課題を抽出してみましょう。

ペルソナの課題

  • ランチの時間が制限されているが、オフィスの外で食べる店を探すのが大変
  • ランチの提供をしているお店を事前に知ることができない
  • 新しいお店を探せない

(上記イメージ:DALL・Eにて編集部が作成)

 これらの抽出した課題を参考に提供すべき体験に問いを立て、より具体の要求まで落とし込んでみましょう。

提供すべき体験

  • 時間のない中、近場で行きたいランチのお店を決めることができる

提供すべき体験への問いと具体化

【問1】“時間がない中、近場で”とは何か?

  • 近場とは?
    • オフィスから移動は往復10分以内
    • 徒歩片道5分以内は地図で400m
  • 時間制限は?
    • ランチの時間は1時間
    • 移動の時間:往復10分
    • 食事の時間:提供から完食まで40分
    • 並ぶことが可能な時間:10分

【問2】“ランチのお店を”とは何か?

  • ランチのお店の定義とは?
    • ランチ時間に営業している
    • ランチメニューを提供している

【問3】 “決めることができる”とは何か?

  • 決める要素
    • 近い:移動時間往復5分以内
    • 早い:並ぶ時間10分以内、提供まで早い
    • 営業形態:ランチメニューがある
    • 評価:レビューが良い、提供まで早い

上記の問いからの具体化の作業を行うことで、ユーザーストーリーマッピングは以下のようにアップデートすることができます。提供すべき体験を具体化する作業によりペルソナの課題が解決され、価値あるサービスを提供する方針ができたのではないでしょうか。

ユーザーストーリーマッピング

  1. アプリを立ち上げる
    1. ユーザーは位置情報の取得に同意することができる
  2. 現在地周辺のお店を見る
    1. ユーザーは現在地から地図上で5分以内で徒歩で移動できるお店がある場所がわかる
    2. ユーザーは地図にある10分以上並ばないランチメニューを提供しているお店の店名がわかる
  3. 気に入ったお店のサマリー情報を見る
    1. ユーザーは現在地を中心とした地図上で選択したお店の提供時間、待ち時間、ランチメニュー、そして新店かサマリー情報で見ることができる
  4. 気に入ったお店の詳細情報を見る
    1. ユーザーは選択したお店の詳細な情報を見ることができる
  5. 気に入ったお店までのルートを見る
    1. ユーザーは選択したお店のルートを現在地から表示できる


まとめ

UXデザインができただけでは完了ではなく、開発チーム全員で定義されたユーザーの人物像やリアルな課題を想像して、プロダクト要件に翻訳することができて初めて“UX中心のプロダクト開発”が実現できます。実際の現場では、プロダクト開発メンバーが一緒になってUXフェーズに入っているため、認識の齟齬がなく提供すべき体験を具体化できるかもしれません。しかし、頭の中で保管している情報をプロセスを持って言語化する作業をしなければ、始めは良くても、プロダクト開発が進む中でメンバー間の認識がずれていってしまいます。そのようなことが起こらないためにも抽象的な事項については解釈のブレが生じないように、具体化をする必要があると言えるでしょう。


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