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D4C.のだれかれ vol.4


安永は、奥さんが好きだ。
20代前半から、およそ10年間付き合って結婚した彼女。2018年に結婚するまで、毎日のように会う時期もあれば、400kmちかく住まいが離れた時期もあった。そんなに裕福ではなかったけれど、わりと楽しく暮らしていたし、いまもやっぱり楽しいらしい。散歩へ行くときも、買い物へ行くときも、ほぼ必ず手を繋ぐし、重いものは持たせないそうだ。「奥さん以外は、最悪、別になくなってもいい」とまで言う。とにかく、安永は奥さんが好きだ。たぶん、本当だと思う。


安永は、カレーが好きだ。
「カレーが好き」と聞いたときは、ああ、わりと普通だね、と思ったが、どうやら本人なりにこだわりがあって、ようは「給食のカレー」が好きらしい。「給食のカレー」と言われても、地域も違えば素材も違うだろうし、コピーライターという肩書きなのにそんな曖昧な答えで大丈夫なのかと思うが、とにかく「給食のカレー」が好きだそうだ。「麦ごはん」が入っているとなおよいそうだが、詳しく聞くと面倒くさそうなので、そうなんだ、とだけ返しておいた。


安永は、ビートルズが好きだ。
大学時代、友人とバンドをつくった。パートはギター。周囲はそれなりに演奏技術があったそうだが、彼は、ほぼ素人。どれだけ弦を触っても、音が鳴らない。指が痛い。GもBも、もちろんFも弾けない。あんなにワクワクしたギターだったのに、いつしか嫌いなものになっていた。「でも、やめられない」。友情と意地で、痛む指を動かし続けると、少しずつ、まともな音が響きだした。数ヵ月後、ギターが『I Saw Her Standing There』を覚えて以来、安永はビートルズが好きだ。


安永は、“投資”が好きだ。
実際に、投機をする訳ではない。「分散投資のような感覚で、色んなものをやってみる」ということらしい。たとえば、釣りは“損切り”した趣味だ。学生時代は続けていたが、「これ以上、得るものがないな」と感じて止めたらしい。逆に、読書は“買い増し”た趣味だ。学生時代はもちろん、コピーライターになったいまも折にふれて新刊を買い、目を通す。最近はじめたゴルフは健康やコミュニケーションに役立つからだし、好きな麻雀は戦略を学べるからだ。やっぱり、安永にとって“趣味は投資”なのだ。


安永の社会人生活は、営業からはじまった。
2010年、安永は大学を卒業した。リーマンショック後の当時、求人倍率は1.3倍未満。就職自体できない同級生もいた。安永自身、「とにかく、入れるところを」という一心で企業を探したという。ようやく見つかったのは、テーブルクロスの専門商社だった。メーカーから糸を買い、生地を織り、縫製して、売る。企画から営業までこなし、やがて年間数億円のテーブルクロスを売れるようになった。そしてふと、思った。「もっと、したいことをしたい」。


安永は、コピーライターになった。
お金がないから、転職は大変だった。半年間の失業手当支給期間。その中で、なんとか仕事を探さなければならない。世の中に「コピーライター」という職業があることを知ったが、どうすればなれるのかも分からなかった。50社ちかく応募をし、49社くらい落ちて、1社だけ、自分を買ってくれる面接官に出会えた。制作職としての採用。したいことができる。夢中でコピーを書き続け、どんな文章で人の心が動くのか、試行錯誤した。そんな日が2年半ほど続き、あるとき、先に会社を辞めていた面接官から、今度は誘われた。『D4C.』というその名前はほとんど初耳だったけれど、良い投資先のような気がして、入社を決めた。


安永は、コピーが嫌いだ。
そしていま、安永は、コピーが嫌いだ。どれだけペンを走らせても、納得できるコピーが書けない。いいアイデアが出ない。朝日広告賞も宣伝会議賞も、もちろんTCCも取れる気がしない。あんなに夢中になったコピーだったのに、いつしか嫌いなものになっていた。「でも、やめられない」。この会社に入って2年半、少しずつ、指名で仕事をもらう機会も増えている。「あれ、いいね」と褒められるコピーも、いくつかは書けた。数ヵ月では難しいかもしれないけれど、数年すれば、ひとかどのコピーライターになっているかもしれない。そして、僕は、安永がもういちどコピーを好きになったとき、彼の新しい代表作が生まれるんじゃないかなと思ってる。


安永 亮一
コピーライター。2010年、大学を卒業後、都内にある専門商社へ入社。営業として企画・販売を担当し、年間数億円を売り上げるまで成長する。その後、一念発起し、コピーライターとして転職を開始。求人広告を専門でつくる制作会社へ入社し、数年経験を積んだ後、D4C.へ参加、いまに至る。

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