デザイン・アート
27卒|クリエイティブ業界ってどんなところ?一緒に業界研究しましょう!
株式会社スタジオディテイルズ
幼少期から絵を描き続け、美大で広告表現に触れ、長い下積みを経て、いまはクライアントのブランド全体を背負うアートディレクターへ。彼女が語るのは、才能やセンスの話ではない。『自分のエゴをどうやって誰かの力に変えるか』という、とても実務的で人間的な話だった。
スタジオディティテルズの現場には、言葉になりにくい価値がある。“とにかくつくるのが好き”という衝動と、“相手のために届けたい”という責任感が、同時に燃えている。その象徴のような存在が、小倉 裕香だ。
幼いころから絵を描くのが当たり前で、進路も迷わず美大を選んだ。広告表現に惹かれ、制作会社での下積みを経てディテイルズへ。動画編集の“便利屋”と言われながらも、ひたすら現場に食らいつき、今はアートディレクターとしてデザイン領域のリードを担う。
彼女は、なぜそこまで続けられたのか。そして、これからディテイルズに入ってくる人に、何を期待しているのか。
――まず、デザインを仕事にしようと思ったのはいつ頃からですか?
「ずっと絵を描くのが好きだったんです。幼少期から自然に手が動くというか。高校生くらいのときには“好きなことを仕事にしたい”と思って、美大に進む道を決めました。」
幼少期からの“描きたい”という感覚は、そのまま多摩美術大学 グラフィックデザイン学科へとつながる。いわゆる“多摩グラ”での1〜2年目は、徹底した基礎の繰り返しだったという。デッサン、構成、絵画の技法。徹夜で課題に向き合う日々。3年目以降は、広告、グラフィックなどそれぞれの関心に応じて専門性が分かれていく。
――多摩美では広告分野を選んだのですね。なぜ広告だったのでしょうか?
「正直、その時点で“広告がやりたい”っていう強い動機はなかったんです。でも『デザインを広く扱える場所ってどこだろう?』と考えたときに、広告ならいろんな表現に触れられるんじゃないかと思って。」
ただ、その選択は小倉にとって1つの転換点になった。
「私は“絵が好き”からスタートしている人間なんです。でも広告って、自分の表現を自分のためだけに出す場所じゃない。相手に伝わらないと意味がない。そこで初めて“好きな絵を描くだけでは成立しないんだ”と痛感しました。」
“自分がつくりたいもの”と“相手が求めているもの”。2つをつなぐ翻訳の難しさに、学生の時点で直面している。
――そこに、今も続いている楽しさと苦しさの境界があるのでしょうか?
「あります。デザインって、やっぱり自分の投影でもあるんですよ。『これがいい』っていう自分のエゴが絶対に入る。でも、そのままでは自己満足で終わっちゃう。クライアントや社会が求めるものに変換しなきゃいけない。その“変換の仕方”で、いつも悩み続けてます。」
“エゴを押し殺す”のではなく、“エゴを他者の力に転換する”。小倉は、そこをずっとチューニングしてきたと笑いながら言う。「まず自分が“これがベストだ”と思う形を出す。そこからクライアントやチームの声を受けて、もう一度チューニングする。その往復の中で、毎回ちゃんと苦しんでますよ。」
多摩美を卒業したあと、小倉はすぐにまっすぐ社会に出たわけではない。
就職活動では大手企業の最終面接まで進んだが、結果は不採用。「正直、驚いたんです。『私、こんな大企業の最終面接まで行けるんだ』って。同時に『じゃあもう1年、本気でやってみたい』と思って、就職留年しました。」
制作会社でのアルバイトを続けながら、広告やイベント演出の現場に入り、そのタイミングでスタジオディテイルズと出会ったのが、2017年頃。「“めちゃくちゃかっこいいものをつくってる会社がある”と思って応募しました。それが最初の印象です。シンプルに、かっこいいって。」
当時のディテイルズは、いまほど“ブランドファーム”とは名乗っていない。けれど、Webサイトや映像、演出、モーションを組み合わせて、企業の存在そのものを表現するような案件を手がけていた。「アルバイト先は素晴らしい広告制作会社で、紙も広告も本当に強い。でもWebはそこまで強くなくて。“もっと最先端で幅広いの表現ができる現場に行きたい”と思ったんです。」
面接の日、当時の経営陣と話したその場で合格が決まり、そのまま入社が決まった。スピード感もまた、ディテイルズらしい。
入社後すぐに任されたのは、名古屋の不動産会社の提案用デザインや、案件の演出動画づくりだった。
「本当に最初は、先輩たちの後ろでひたすら手を動かす日々でした。当時“動画といえば小倉”みたいな時期があって、演出動画をお願いされることがどんどん増えていったんです。」
その“動画の便利屋”時代は、およそ3年間続いた。
「正直、長いなって思ってました(笑)。私はWebをやりたい気持ちもあったので、途中で『Webもやらせてください』と相談したんです。そこから徐々に、実際のWebデザインや画面展開も任されるようになっていきました。」
ただ、そこで見えたのは新しい壁だった。「Webをやってみて、完全に舐めてたなと思いました。レイアウトも情報設計も全然できていなくて。ディレクターやアートディレクターに直されまくって、正直めちゃくちゃ泣きました。」
“何を怒られているのかもわからないまま泣く”——。当時の自分をそう振り返る。けれど、その時間で手に入れたものも大きい。
「いろんなアートディレクターの下で仕事をしたことで、表現の幅を吸収できたんです。共通する基礎の上に、各人の感覚が乗るとアウトプットはこんなに変わるんだ、って。『こういうジャンプの仕方をする人』『こういう繊細さでまとめる人』って、自分の中にどんどんストックされていった感覚があります。」
特に印象に残っているのは、あるコンサルティング企業のサイト制作だという。「水のモチーフを使ったCG表現が鍵になる案件があって。大胆なレイアウトで世界観を構築する先輩と並んで作ることで、“これくらいまでジャンプしていいんだ”っていう感覚を身体で覚えました。」
やがて小倉は、1つの案件を実質的にリードする立場になる。大手企業のブランディングなど、いまはほぼ1人でデザインリードしている案件もある。
「あの時の下積みが、本当に全部生きてると思ってます。だから1人で持つこと自体は、そこまで苦じゃないんです。」
でも、困難は別のところにある。
「難しいのは、デザインそのものより“決めること”なんですよ。私はずっとリーダーじゃなくて、リーダーの背中を追う側だった。でも今は、自分で判断しなきゃいけない。『これで行きます』って言い切る責任ごと、自分のところに来るようになった。」
どうやって乗り越えているのかを聞くと、返ってきたのは、とても泥臭い答えだった。
「ひたすら決めて、間違って、PDCA回すだけです。まずは“これがベストだ”と思う案をちゃんと出す。外してもいいから、まず投げる。その繰り返しです。」
――小倉さんにとって、いいデザインとはなんですか?
「広い言い方をすると、人の気持ちとか生活を豊かにするもの。使う人や見る人にとってのプラスの価値になっているものだと思います。」
言葉だけ聞けば柔らかいが、彼女の“いいデザイン”は具体的だ。
「例えばコーポレートサイトって、“会社とは何か”を伝える場所ですよね。でも、役割はそれだけじゃないと思っていて。訪れた人がその会社に愛着を持ったり、応援したくなったりする。目的を達成するだけじゃなくて、プラスアルファの感情を残せるか。それが良いデザインなんだろうなって。」
象徴的な事例として小倉が挙げるのは、スタジオディテイルズが手がけた「NEWPEACE」のプロジェクトだ。
「あの仕事はコーポレートサイトを作るとか、見た目を整えるっていう次元を超えて、ブランドの根っこから一緒に作った案件でした。デザインという枠を飛び越えて、企業の存在そのものを一緒に定義していく。あの辺りから、ディテイルズは“ブランドファームになっていく”っていう旗を立てたんだと記憶しています。」
――スタジオディテイルズはここ数年で、“Webを作る会社”から“ブランド価値をつくる会社”へと舵を切っています。アートディレクターの視点ではどう見えていますか?
「すごく自然な流れだと思いました。私はずっと“見た目がかっこいいものを作りたい”っていうモチベーションでやってきたんですけど、それだけだと相手や社会のためになっているのか?っていう疑問は、正直ずっとあったんです。だからブランド戦略みたいな、もっと根っこから一緒に考える領域にディテイルズが入っていくのは、すごく嬉しいし、自分もそこにちゃんと入りたいと思ってます。」
組織としての期待は、彼女個人の成長欲求とそのまま重なる。
「私の得意領域はオンスクリーンのデザインです。一方で、企業や製品全体のブランディングにもっと深く入りたい。“存在そのものをどう見せるか”というところまで、責任を取りたいんです。」
――メンバーからリーダーになって、何が一番変わりましたか?
「マインドが圧倒的に変わりました。前は“リーダーに委ねる”側だったんです。いまは『自分が決めて、引っ張っていく』っていう視点で考えるようになりました。」
その変化は、感情面にも及んでいる。
「昔の私は、正直すごく感情的でした。怒られると何が悪いかわからないまま泣く、みたいなタイプで(笑)。でも今は、感情を自分で整えることも仕事の一部だと思ってます。“泣きたい”より先に、“次にどう繋げるか?”を考えるようになりました。」
――これからディテイルズに入ってきてほしい人って、どんな人だろうか?
「まず、“つくることが本当に好きな人”。それはすごくシンプルなんですけど、根っことして大事だと思ってます。自分がつくったもので誰かが喜んでくれる、っていうことを嬉しいと思える人ですね。」
もう1つ、小倉は“自分なりの考えをちゃんと推せる人”と表現する。
「デザインって、少しは自分のエゴが入ってないと前に進めないと思うんです。もちろんクライアントやユーザーの意図は全力で汲み取る。でもそのうえで、“私はこれがいいと思う”と言える芯がないと、最終的に強いアウトプットにはならない。だから“こういう表現を世の中に届けたい”っていう意思を持ってる人は、すごく歓迎したいです。」
最後に、これから入ってくる人に伝えたいことは?と聞くと、彼女は少しだけ迷ってから、こう言った。
「私は下積みが長いんですけど、それを続けられた理由は、ずっと“こうなりたい”と思える先輩がいたからなんです。厳しい瞬間はもちろんあるし、泣くこともある。でも、その背中を追いかけ続けることで得られるものって、本当に大きい。私自身、まだその背中を追いかけてる途中です。」
“その背中”は、もう自分自身になりつつあるのでは? と聞くと、彼女は首を横に振る。
「まだ全然です。追いついてないです。業界への影響力や、社会にちゃんと良い影響を返す力。そういう意味で“食らいついてやる”って思える人には、本当にいい環境だと思います。」
最後にもう一度だけ、小倉は“なぜそこまでやるのか”を言葉にした。
「私は最終的には、人のため・世のためなんです。自分がつくったもので、誰かがちゃんと喜んでくれるなら、それでいい。ただ、その“喜ばせる力”を大きくするには、私自身がもっと強くならなきゃいけない。だからまだやります。もっとやります。」
小倉 裕香(おぐら・ゆか)
スタジオディテイルズ アートディレクター。
多摩美術大学グラフィックデザイン学科で広告表現・ビジュアルコミュニケーションを学ぶ。 広告制作/演出動画制作の現場で経験を積んだ後、2017年よりスタジオディテイルズに参加。 Webデザイン、ブランドのビジュアル開発、コーポレートサイト/サービスサイトのアートディレクションなどを担当。 大型クライアントの案件リードを担いながら、チームマネジメントや若手育成にも取り組む。
4/27(水)の業界研究会にも参加します!