目次
はじめに
株式会社 Elastic Infra 執行役員 CAO(最高管理責任者)兼 経営管理部長である 土屋 圭 のインタビューをお届けいたします。
今回は主に、SRE・インフラエンジニアとしての業務の傍ら、経理・労務・総務を担い、最終的にその経理業務を AI で自動化するまでの話です。
Elastic Infraは、「AI で効率化しましょう」と号令をかけている会社ではなく、全員がすでに AI を前提に働いている会社であることがよく表れた内容になっていますので、ぜひ最後までご覧ください!
プロフィール
ーー まず、土屋さんは趣味が "走ること" ということですが・・・
はい(笑)昔長距離をやっていて、今でも 1 回 5km を目安に毎月欠かさず 100km 走っています。Elastic Infra がフルリモート勤務だからこそ続けられているのだと思います。
本当に毎月キッチリ 100km 走る土屋さん
ーー ストイックですね。Elastic Infra に入る前は何をしていたのですか?
大学、大学院では電子情報学を専攻し、2014 年に新卒で株式会社ディー・エヌ・エーに入社しました。そこでインフラエンジニアとしてキャリアを始め、途中からはチームリーダー、グループマネージャー、最後はインフラ部門の副部長として、全社のインフラ基盤管理を担当していました。
ーー メガベンチャーで、エンジニアやエンジニアリングマネージャーとして様々な経験や実績を積まれたのですね。
はい、7 年ほど在籍し、技術と組織の両方を見る経験を積ませていただいた期間でした。その後、2021 年に転職し、ラクスル株式会社で行われていた Elastic Infra 事業へ参画しました。
ーー 転職してみてどうでしたか?
インフラは多くの会社で社内の裏方ですが、ここではそれを「事業」として提供するという、これまでにない経験をしました。
この Elastic Infra 事業を継承する形で、2025 年 4 月に株式会社 Elastic Infra が立ち上がり、そのタイミングで執行役員 CAO(最高管理責任者)兼 経営管理部長となり現在に至っています。
ーー コーポレートの管理責任者でありながら、これまでと変わらずエンジニアでもありますよね。
はい、肩書としてはコーポレートの責任者ですが、インフラエンジニアとしての責任範囲は全く変えていません。
二足のわらじ "エンジニアリング × 経営管理"
ーー まず、現在どのような業務を担当されているのか教えてください
実は、業務の大半はいまも SRE・インフラエンジニアとしての仕事です。インフラの設計や運用に、コーポレートの責任者になってからも変わらず工数を割いています。
それと並行して、経理、労務、総務などのバックオフィス全般も担当しています。
我々には「必要なことは全部自分たちでやる」という考え方が根っこにあり、会社を立ち上げるにあたって、バックオフィスも一部の外注を除いて原則自分たちで回すことにしました。前職の経験から管理業務には適性があると思い、真っ先に手を挙げました。Elastic Infra は技術力に非常に長けたメンバが多く、そういうメンバに管理業務を担ってもらうのはもったいないという思いも正直ありました。
ーー バックオフィス業務は、具体的にどのようなことをしているのですか?
月次の締めの仕訳を打ち、勤怠を管理し、各種会社規程を整備し、ときには監査にも対応し・・など、会社運営に必要な様々なことを行っています。
ーー 初めてやることも多そうですね。なかでも大変だったのはどの領域でしたか?
なかでも経理はいちばん骨が折れました。Elastic Infra は、上場企業だったラクスルで行っていた事業を引き継いだ会社なので、経理もその水準を維持する必要があったんです。
ーー なんとなく・・では許されないわけですね。
そうなんです。しかも、会計の専門教育を受けていない人間(= 私)がこれをやることになったので、すぐに日商簿記も取得しました。
ーー インフラエンジニアが簿記を取る、というのはなかなか聞かない話ですね(笑)
そうかもしれませんね。久々に図書館に丸一日籠もって勉強しました。
弊社には資格取得を勉強面・費用面で支援するスキルアップ支援制度があり、インフラ以外のスキル向上も後押ししてもらえます。全部自分たちでやると決めている会社なので、そのための投資は惜しまないという方針です。
Elastic Infra のカルチャー・制度を知る / 各種データ | 株式会社Elastic Infra
SRE・インフラエンジニアの真骨頂 その 1「運用の徹底的な定型化」
ーー 経理の引き継ぎはどのように行っていったのですか?
ラクスルの経理部門から丁寧に引き継いでいただきました。やることを列挙してもらい、疑問にも根気よく付き合っていただきました。
ーー では、割とスムーズにいったのでしょうか?
いえ、それでも実際に自分で回してみると一筋縄ではいきませんでした。手順は分かるけど、意味が腹に落ちていないという状態です。
教わったとおりに操作すれば数字は出ます。ただ「なぜこの金額になるのか」「なぜ仕訳の日付が前月末なのか」などを根本から理解できているわけではありませんでした。
ーー 経験者なら前後の文脈から補完できる部分ですね。
まさにそうです。経験のある人なら背景を補って判断できますが、初心者にはそれができない。そして意味が分からないままやってしまうと、間違えても自分では気づけません。ここがいちばん怖いところでした。
ーー そこから、どう手をつけていったのですか?
真っ先にやったことは明文化・定型化です。ラクスルの経理部門からの聞き取りを元に、実際の伝票を 1 件ずつ照会して、Notion に手順書として書き出しました。
何営業日に実施するか、対象はどの月か、勘定科目は何か、どの数字をどこから取るか、終わったことをどう確認するか。書いてみると自分の理解の穴がはっきり出るので、そこは会計システムの実データを見て埋めていきました。
ーー 愚直な作業ですが、書き出してみて気づくことも多そうですね。
そうですね。「作業日は 4 営業日だが仕訳の日付は前月末」「この摘要が後続の処理の判別に使われている」といったことは、実際の伝票を見て初めて分かったことです。
余談ですが、インフラエンジニアは手順書を作ることに慣れているので、この作業自体は全く苦になりませんでした(笑)
ーー 職業の特性がこんなところで活きたのですね(笑)手順書ができた時点で、すぐ自動化に向かったのでしょうか?
いえ、そこから 1 年近くは手で回しました。繰り返し回していくと手順書の間違いやイレギュラーケースが見つかるので、その都度直す。
地味な期間でしたが、手作業の反復がそのまま業務仕様の検証になっていたと思います。もしこの工程を飛ばして自動化から入っていたら、間違った手順を高速に実行する仕組みができていただけでした。
エンジニアとして抱いた違和感
ーー 実際、経理業務はどれくらいの量だったのですか?
Notion に並べてみたら、経理の定型業務は 30 件以上ありました。実施タイミングは月初・月中・月末と散っていて、月の中でずっと何かが発生し続けます。
しかもタスクの間に順序の依存があります。給与の計上が終わっていないと社会保険料の処理ができない、消費税の相殺は他の全部が終わってからでないと計算できない。
ーー その依存関係は、どこかにドキュメントとして存在するものなのでしょうか。
どこにも書かれていないんです。なので毎月「今日は何をやる日で、その前提は揃っているか」を思い出すところから始まります。
ーー なるほど。それらを全部手作業でやるのですね。例えばどんな手作業があったのでしょうか。
前払費用が分かりやすいと思います。SaaS などを年払いで契約すると、お金が出るのは一度きりですが、費用は 12 か月に分けて計上する必要があります。
使っている会計システムにはこれを自動でやる機能がなかったため、契約ごとに「取得価格・開始月・終了月・月数」を並べた Excel の管理表で管理していました。
毎月やることはこうです。Excel を開き、当月分の按分額を計算し、満了した契約を落として新しく契約したものを足す。そのうえで会計システムにアップロードして登録する。
ーー エンジニアとしては、聞いているだけで気が重くなります(笑)
ですよね(笑)これが単純に面倒でした。やっても何も積み上がらない作業に、毎月同じ時間を払い続けている感覚がありました。
SRE・インフラエンジニアの真骨頂 その 2「定型作業のシステム化」
ーー 自動化に踏み切れた理由はどこにあったのでしょうか?
2 つあります。
1 つ目はタイミングです。ちょうど型が固まってきたころに、AI の進化が来ました。Claude Code が実務で使えるレベルになり、会計システムの MCP も公開されたことで、API を AI から直接叩ける環境も整った。
ここで Notion に書き溜めた手順書を、Claude Code の「スキル」として実行可能な形に落としました。現在 20 本以上のスキルがあり、それらを束ねて月次の流れを統括するスキルが 1 本あります。
ーー 会計システム側の API の観点で物事を考えられるのもエンジニアならではですね。そして、手順書がそのまま AI のスキルになった、と。
裏を返せば、最初に行った明文化がなければ何も作れませんでした。意味が腹に落ちていない状態では、AI に何をさせるべきかを書けません。手順書を書いた 1 年が、そのまま自動化の設計書になりました。
ーー 2 つ目は何でしょうか?
組織として AI を使うのが当たり前になっていたことです。弊社は全員がエンジニアの会社で、全員が AI を前提に日々仕事をしています。会社としても「ExAI」という形で AI 活用を推進しています。
"年次を無視した広い裁量" の中で最年少取締役が推進する Elastic Infra × AI の取り組み「ExAI」 | 株式会社Elastic Infra
だから「AI に業務を任せる」ことへの心理的なハードルがなく、逆にどこまで任せてどこから人が判断すべきかの勘所を持っている人が多い。今回も、金額の登録は必ず人が承認する、証憑の添付は人がやる、という線を最初から引けました。
ーー ちなみに、最初に伺った前払費用はどうなったのでしょうか?
やり方そのものを変えました。按分に必要なパラメータを、会計システムの伝票の備考欄に埋め込むようにしたんです。翌月はスキルがその備考を読んで自分で計算します。Excel の管理表は廃止しました。
所要時間だけみたら 90% 以上の短縮になったと思います。
ーー 劇的な効果が出ていますね。最終的に、月次の締めはどのような流れになったのですか?
月初にコマンドを一つ実行すればその月にやるべき仕訳が洗い出され、依存関係の順に処理されていきます。各仕訳は登録前に計算の内容と検算結果が提示され、私が承認して初めて帳簿に入る。
判断材料をそろえる部分と計算する部分は全部 AI 側で、私の仕事は「これで正しいか」を見ることだけになりました。
ーー 「AIは作業を、人間は承認を」という、AI利用の理想的な状態ですね。
そうですね!
AIを利用した業務改善で、何が変わったか
ーー 効果として実感されていることを教えてください
作業時間が減ったのはもちろんですが、それ以上に大きい効果が 3 つありました。
まず、属人性がなくなりました。 手順・判断根拠・検算方法がすべて文章として残っていて、しかもそれが実際に動くスキルになっています。担当者が変わっても同じ品質で回せます。上場企業基準の内部統制という観点でも、「誰かの頭の中」より圧倒的に説明しやすい状態です。
次に、間違いに気づける構造になりました。 各スキルには検算処理も含めたので、数字が合わなければ AI は止まって理由を報告します。以前は間違っていても気づかず、後の月や決算で発覚するリスクがありました。
ーー 「気づけない」のがいちばん怖い、という最初のお話につながりますね。
そうですね。加えて、業務を洗い出す過程でどの手順にも属していなかったり、曖昧だったりする処理がいくつか見つかりました。自動化の副産物として、業務そのものの穴が埋まりました。
最後に、少人数で経理の品質を維持できています。これが本質的な価値だと思います。管理部門を厚くすることなく、精度を落とさずに回せている。捻出した時間は、インフラ事業そのものに回せています。
これから
ーー 今後の展望はいかがでしょうか?
経理は形になってきましたが、まだ半分弱は手作業です。まずはそこを埋めていきます。
そして同じやり方は経理以外にも効くことが分かってきました。バックオフィス全体を、「手順が文章になっていて、検算があり、人が判断すべき箇所が明示されている」状態に持っていきたいと考えています。
ーー 振り返ってみて、今回の取り組みはご自身にとってどういうものでしたか?
振り返ると、今回やったことは「必要なことは全部自分たちでやる」をそのまま実行しただけでした。
経理を外に丸ごと出さず、自分で簿記を勉強し、業務を理解し、最後はエンジニアリングで解いた。専門外に手を出したからこそ、専門の道具で解ける問題として見えたのだと思います。逆に、経理の専門家に閉じていたら「毎月やるもの」として受け入れていたかもしれません。
最後に
ーー 新卒でエンジニアを目指すみなさんに、メッセージをお願いします!
私からお伝えしたいのは、職種で仕事の範囲を区切らない会社があるということです。
私は SRE・インフラエンジニアとして 10 年以上やってきた人間ですが、いまはそれに加えて会社の管理部門を管掌しています。弊社には年次や肩書で仕事を割り振る文化がなく、必要だと思ったことに手を挙げれば任せてもらえます。資格取得の支援もあり、知識がないところから始めても大丈夫です。
AI が担う仕事が増えていく中で、代わりに増えるのは「AI に何を任せるか決める仕事」です。その判断ができる領域を増やしておくことは、これから確実に強みになると思います。
ーー AI 前提で働ける環境が整っているという点も大きいですね。
AI がめまぐるしく進歩する昨今、AI が使える前提で仕事を組み立てられる環境が重要であることは言わずもがなです。「AI で効率化しましょう」と号令をかけている会社ではなく、全員がすでにそうやって働いている会社が Elastic Infra です。
自分の専門の外側にも手を伸ばして、目の前の面倒を仕組みで解いていきたい人には、間違いなく面白い場所です。皆さんのご応募をお待ちしています。