ナマステ!いつもご覧いただきありがとうございます。iTipsの小西です。
「自分の技術で世界とつながりたい」「海外での挑戦に興味がある」——。
そんな想いを胸に抱く読者の皆様、今回の記事は必見です!
9月1日、インド・バンガロール郊外の訓練校で 「oyakata scrum 電気工事士育成プログラム」の卒業セレモニーが執り行われました。
このプログラムは、中部電力パワーグリッド様と我々iTipsが協働して取り組む「oyakata scrum(スクラム)」としてスタートしたパイロットプロジェクトです。(プレスリリースはこちら)
「oyakata」は、インドでの職人育成から日本企業への就職、来日後の定着までを一気通貫で支援するiTips独自のプラットフォーム。「oyakata scrum」では、専門技術を持つ企業と連携し、その技術や安全文化、仕事への姿勢を次世代へ伝えています。これまでに、コマツインディア様と三菱エレベーター・インディア様などと類似の取り組みが始まっています。
日本の電気工事業界が人手不足と技術継承の課題を抱える一方、インドには、就職口がなく、技術を身につけて新しいキャリアを切り拓きたい若者がいます。そこで、日印双方の労働・就職課題の同時解決を目指すため、中部電力パワーグリッド様が培ってきた技術、安全文化、作業品質と、iTipsの日本語・現場教育のノウハウを組み合わせ、日本の電気工事・電力インフラを支える職人卵の育成に挑みました。
プログラムでは、日本語や安全衛生、5S、報連相などを学んだ後、両社が共同開発したカリキュラムをもとに、第二種電気工事士相当の基礎知識や配線技能、実践訓練を実施。専門技術指導では、中部電力パワーグリッドの技術者2名がインドに滞在し、生徒たちを直接指導しました!
今回は、電気工事士としてiTips訓練校で約半年間にわたり滞在し、インドの生徒に技術と職人魂を直接注入してくださった中部電力パワーグリッドの富田様・山本様にインタビューを行いました。
(メインの写真は、修了式にて撮影(左から1人目 中部電力パワーグリッド富田さん、2人目 山本さん))
プロの技術者が現地に常駐し、技術はもちろん、「職人の精神・姿勢」を直接指導する。これは生徒にとって人生を変える体験であると同時に、iTipsにとっても目指すべき「事業のあり方」の実現そのものです。
日本の技術者、現地スタッフ、生徒が一つになり価値を共有し、同じゴールを目指す。この仕組みをインド現地で形にできることこそが、iTipsが提供できる強みであり、最大の特徴です。
そして何より、中部電力パワーグリッド様が私たちの「志」に共感し、共に歩んでくださったからこそ、無事に完走することができたと感じます。心から感謝いたします。
では、現場で奮闘していただいたお二人にとって、iTipsの掲げた「志」はどのように響き、どのような手応えを感じたのか——。
今回は、現場のリアルと一期生の指導を終えてお二人が今感じる思いに迫りました。それではインタビュースタートです。
目次
お二人が挑んだ「ゼロからのカリキュラム構築」
小西:
改めまして、今回お話を伺うお二人は、中部電力パワーグリッドの富田さんと山本さんです。
富田さんは、日本国内で新入社員への技術研修を長年担ってこられたベテラン技術指導員。山本さんは、電気工事の現場で長年キャリアを積んでこられたベテラン技術者です。「教えるプロ」と「現場のプロ」——このお二人が、インドの教壇に立ちました。
無事に修了式を終えられ、今は少しホッとしているお気持ちかと思います。
異文化の壁や様々なチャレンジを乗り越えた半年だったと思いますが、改めてお二人の役割と参加された経緯から教えていただけますか?
富田さん:
私は日本で、新入社員に電気工事の基礎を教える技術指導員をしていました。今回の赴任は、会社からの辞令です。自ら手を挙げたわけではありませんが、会社から託された重要な役割だと受け止め、「これは会社からの使命だ」と腹をくくって臨みました。国内で人を育ててきたやり方が、言葉も文化も違う相手に通用するのか——それを確かめにいく気持ちもありましたね。
山本さん:
私は逆で、社内公募を見て自分から手を挙げました。現場一筋で10年以上やってきましたが、「海外で電気工事を教えるという、ここでしかできない経験をしたい」と思ったんです。海外で、しかもゼロから人を育てる仕事なんて、自分から動かなければ一生巡ってこない機会ですから。
富田さん・山本さん:
本事業における我々の役割は、生徒たちが第二種電気工事士の知識と技能を身につけられるよう、教育の仕組みとカリキュラムをゼロから構築し、現地で実践することでした。プログラムの流れとしては、前半は、インド現地でiTipsの現地講師が日本語や現場教育(安全・5S・規律)を指導し、その裏で私たちが日本でカリキュラム構築に専念。
そしていよいよ後半、私たちがインドへ渡り、電気工事の基礎学習から工事現場を想定した実技演習までを直接指導していきました。
毎日クタクタ~教育システム・カリキュラム構築までの奮闘
小西:
前半の日本での準備期間、そして後半の現地指導と、それぞれに大きな壁があったと思います。まずは前半の「教育システム・カリキュラム構築」について。
海外の方に向けたカリキュラムの構築は読者の皆様も気になっているところだと思います。具体的にどのように進めていったのでしょうか?
富田さん・山本さん:
私たちの会社では、第二種電気工事士を体系立てて一から教えるという社内指導制度がなく、社員は皆、経験者として入社するか、現場での背中を見て独学で資格を取得します。
従って、社内にマニュアルのようなものはなく、まずは市販の参考書を元に自分たちで指導資料を作成、それを英語に翻訳することから始めました。
しかし、日本とインドの電気の仕組みの違い、規格の違い、基礎知識の違いなど日本側では想像できないことも多く、「現地でのチューニングが絶対に必要になる」と予測していました。
小西:
そしていよいよ後半の半年、インド現地に渡って教育指導の実践ですね。予測されていた日印の相違はどのように解決したのでしょうか?
富田さん・山本さん:
今回のプロジェクトにおいては、iTipsの現地訓練校にインドで電気工事士の資格を持つVivek(ヴィヴェック)さんという工場長がいらっしゃいました。Vivekさんとともに、インドにローカライズした授業を組み立てることで、より実践的なカリキュラムを構築することができました。
実際どのような現場だったかというと、Vivekさんとは毎日午前中、授業内容のすり合わせと予行練習を行いました。まずは我々がVivekさんに説明し「Vivekさんがすんなり理解できればこの説明でいこう!」「少し難しそうだから説明の順番を変えよう」といった気づきを得ながら、二人三脚でブラッシュアップしていきました。
Vivekさんには、このやり取りを通じて日本の電気工事への理解を深めてもらったうえで、実際の授業に臨んでもらったことで、私たちだけでは伝えきれない細かいニュアンスや日印の文化的な違いを補足しながら生徒に指導してもらい、さらに彼が持つ「複数の現地語を話せる強み」を活かして、すべての生徒へ丁寧に知識を定着させてくれました。
我々とVivekとのコミュニケーションは、言語の壁は多少あるものの、「電気工事」という共通の土台があるため、図面や身振り手振りで十分に意思疎通ができました。
開始当初は、授業に必要な資料を作りながら授業を進める必要があり、まさに自転車操業の状態でした。また、どの順番で教えるべきかを毎日議論し、試行錯誤の繰り返しでした。
クタクタの毎日でした 笑
結果オーライでは通じない。現場の「本質」を根付かせるまでの挑戦
小西:
日本の専門技術と現地スタッフが融合することで、現実に即した再現性の高いカリキュラムが完成したのですね。この仕組みは、iTipsだからこそ実現できる教育モデルの証明になると思います。
授業の進行における課題はどのあたりでしたか?
富田さん・山本さん:
電気工事の深い知識以前に、一番の壁となったのは「安全への意識」「規律」「品質保証への意識」といった考え方の違いでした。
インドの生徒たちは「結果」を非常に重視します。「電気が通ったんだから、途中の配線がぐちゃぐちゃでもいいじゃん?!」という感覚が根底にあるようです。
一方で、日本は結果に至るまでのプロセス・本質の理解にこだわります。
日印の考え方の違いではありますが、日本の建設業においては、本質の理解こそが重要であると考えます。
なぜなら、建設現場には「二度と同じ現場」が存在しないからです。いかに本質を理解し、応用につなげるかが実際の現場では大事になってきます。
授業では我々が一方的に教えるのではなく、「どうしてその答えに辿り着いたのか」を生徒に説明させることで、生徒の本質に対する理解度や指導のポイントの把握に努めました。
また、安全への意識の第一歩として整理整頓があります。今回、道具や資機材を一から準備しましたが、物の定位置を示す看板を準備し、整理整頓の手本を示しました。
こうした日々の実践を通じて、Vivekさんと二人三脚で挑んだこの日々は、「現場の安全と品質という絶対に譲れない軸を、異なる文化背景を持つ生徒たちに正しく根付かせるために不可欠なプロセスであった」と深く実感しています。
小西:
お二人とVivekさんの真剣な姿勢が現場の熱量となって生徒たちに伝わり、引き締まった教室の雰囲気を作り上げていたのではと想像します。
そうした緊張感のある授業の中で、生徒たちとの対話や距離感はどのように変化していったのでしょうか?
富田さん・山本さん:
事業スタート当初は、テストの最中に勝手に話し出したり、水を飲みに行ったりと、日本の感覚では驚くような授業態度に驚かされ、「怒られている意味すら伝わっていないのでは?」と頭を抱えることもありました。
そのため私たちは「明確な線引きと、時には厳しさをもって挑むメリハリのある指導が必要不可欠であると腹をくくりました。
特にインドの文化では上下関係や「講師・先生」という立場の威厳が重んじられるため、指導者として毅然とした姿勢を意識的に作っていきました。
もちろん、厳しく指導するだけではなく、生徒一人一人の育った環境や事情に寄り添うことも大事にしました。根気強く向き合い続けた結果、最終的には「小さいことでも分からないことは先生に聞けば教えてくれる。」という信頼関係が構築できました。
我々日本の技術者としての誇りを、生徒たちは肌で感じとってくれていたのではと思っています。
生徒たちへ指導の先に込めた思い
小西:
半年間の指導を経て、最終的にどのような変化や結果が生まれましたか?
富田さん・山本さん:
彼らの知識・技術は第二種電気工事士に十分合格できるレベルまで到達しました。そして、生徒の約3分の1が日本企業への就職内定を獲得しました。仲間の内定が決まったことでクラス全体のギアが一気に上がり、大きな刺激となっていたようです。
小西:
今後、日本やインドで電気工事士として働く彼らに、どのような期待を寄せますか?
富田さん:
「お金のためだけじゃない。仕事は相手や地域社会に役立ってこそ、本当の『価値』が生まれる」ということを知ってほしいです。職人の仕事は一人では完結しません。お客さまや地域に貢献して初めて、品質やお金がついてくるのだと伝えたいです。
山本さん:
日本で電気工事士として働く期間、人とのかかわりや視野を広げてほしいと思っています。将来インドに戻った時にも、ここで学んだ経験と視野の広さは、彼らの人生にとって大きな可能性になるはずです。
組織の課題解決と、一人の技術者として変化と学び
小西:
インフラ業界で外国人登用が進む中、今回の現場指導は中部電力パワーグリッド様にとってどのような意義がありましたか?
富田さん・山本さん:
会社としては、日本の電気工事・電力事業を衰退させず、未来へ向けて発展させていくための「労働力の確保」と「技術の継承」に大きな意義があったと思います。
AIやロボットが発達したとしても、二度と同じ条件がない現場において、誰もいない場所で勝手に工事が進むことはありません。人間同士のコミュニケーションが絶対に不可欠です。そしてそのコミュニケーションは、インドと日本、文化の違いや環境・認識のギャップがあっても、携わるメンバーと価値を共有することで克服できると確信しました。
また、海外事業への初挑戦を通じて、会社としても「グローバルに活躍できる人材育成の場」が広がったと実感しています。
小西:
それでは最後に、技術者として「お二人ご自身のキャリアや仕事への向き合い方」にはどんな変化や学びがあったか教えてください。
山本さん:
グローバルな視野が身についたことと同時に、日々四苦八苦する中で「誰のために、何のためにやるのか」という目的意識の重要性を改めて実感しました。また、状況に応じてスピード感のあるPDCAと、じっくり熟考するPDCAを使い分けるバランス感覚が養われたことも、今後のキャリアにおいて大きな財産になりました。
富田さん:
これまでは「出来上がったものの品質や効率を高めることを目的とした業務」が中心でしたが、「ゼロから新たな仕組みを作り上げる挑戦」ができたことが自身のキャリアのプラスになりました。
現場では「結果」だけでなく「何を理解し、どう考えたか」という本質をコミュニケーションを図りながら教えていく大切さを再認識しました。
そしてチャレンジ精神と検証をもって拡大していくこと、さらに時には、細かいことは気にせず、周囲を巻き込んでとにかく動くこと!タフなマインドが必要であることも学びました。
編集後記
無事に半年間の現地指導を走り抜けたお二人ですが、インド好きの私(小西)として密かに気になっていたのが「現地でのリアルな滞在生活」でした。
仕事以外の生活ぶりをお伺いしたところお二人は毎日自炊し(食事担当は山本さん!)
多少の腹痛は「あるある」だったようですが、大きな体調トラブルもなく元気に過ごされたとのことです。
週末の楽しみは、訓練校のある郊外からバンガロール中心部へ移動し日本食を食べること!渡航直後は毎日が驚きの連続だったお二人も、1週間も経つ頃にはすっかりインドの空気感に馴染み、想定外のことが起きても「まあ、インドだしこんなこともあるよね〜!」と受け入れる「インド流の許容マインド」が自然と身についたようです。
(キャプション)バンガロールでの日本食。
(キャプション)iTipsメンバーと共に。
私自身、インドは「圧倒的な多様性、その多様性を認め合い受け入れる寛容さ」を持った素晴らしい国だと感じています。
「インドでの挑戦に興味がある」「自分の技術で世界とつながりたい」——そんな想いを少しでも抱いた方は、ぜひiTipsの扉を叩いてみてください。