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最悪のシナリオ(1)

その日、私は異様な轟音で目が覚めた。次の瞬間、あらゆるものがその上下を失い、体の自由が失われた。どれくらい時間が経っただろう。どこかで目覚まし時計の音が鳴り、隙間から光が漏れて来た。朝だ。

すぐそこに救助隊がいる。実用化された蛇型探索ロボットによって、私が瓦礫の下にいることは発見してもらえたようだ。しかし、瓦礫の質量は如何ともしがたく、激痛と寒さと空腹で意識が朦朧としてきた。交通も混乱しているのだろう。重機は入って来れないようだ。たとえ混乱がある程度収拾したとしても、この地域は住宅の密集地で路地も細く、やはり重機を入れることは困難だろう。私の研究は何だったのか。こんなことなら、もっと努力して、あと数年早く人型重機を市場に出せていたら、今ここに助けに来ていたかもしれないのに。人型重機なら、この程度の瓦礫は容易に取り除けるのに。後悔の言葉を百万回繰り返しているうちに、意識は途絶えた…

ロボット工学者としての私にとって最悪のシナリオです。事故や災害のニュースを聞くたびに、このシナリオが脳裏をよぎります。しかし、今ならまだ間に合うと信じています。クリスマスの朝のスクルージのように、このシナリオに真摯に向き合い、自分に今できることをします。

→ 2013 年の改訂版「最悪のシナリオ(2)
人機ウェブ:人機一体社 公式

▶ 2008/09/19(金)15:08:00 = uploaded 
▶ 2013/05/27(月)14:23:00 = revised 
▶ 2018/01/03(水)10:06:04 = last revised
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