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生きるを取り戻す「食べる通信」コミュニティ

完成された消費社会でリアリティに枯渇し、生きる実感を持てずに漂流する都市生活者に、「食べることは生きること」を伝えたくて、このメディアを2年半前に立ち上げました。かつて、私自身も11年間に渡り、東京、横浜で暮らしていましたが、リアリティに飢え、「生」を持て余していました。その欠乏感を埋めてくれたのが、東北の土と海を舞台に食べものを育てている人々の世界でした。私は、「食べることは生きること」を実感し、「生きる」スイッチをオンに切り替え、力強く生きることができるようになりました。

東北から始まったこの食べる通信のモデルが現在、全国26地域に広がっています。

今、生産者と消費者は大きな流通システムに分断され、消費者は食べ物の表側の世界しか知りえません。値段、見た目、食味、カロリーなど、そこで得られるのは、すべて消費領域の情報です。そこでは食べ物はあたかも工業製品のように取り扱われ、食べるという行為がまるで車にガソリンを給油するかのような行為に貶められています。食べ物の裏側にある、生身の生産者が、人間のコントロールできない自然に働きかけ、他の命を育て、その命を殺め、そうして初めて私たちの口に運ばれてくることを多くの都市生活者に実感してもらいたいと思い、この食べる通信を創刊しました。

食べる通信は、史上初の食べ物つきのマガジンです。おそらく世界のどこにもありません。

定期購読サービスで、毎月、東北のひとりの生産者にクローズアップし、その半生、哲学、世界観、生産現場での苦労や感動、生産物を育む自然などを特集記事にまとめ、その生産者が育てた食べ物をマガジンとセットでお届けします。読者は、食べ物の背景を頭と舌で理解しながら食し、その後、生産者とSNSでつながり、ごちそうさまを伝え、コミュニケーションを深めます。さらに、生産現場に足を運び、土をいじり、波にゆられ、食べ物の裏側にある命の脅威の世界を体感します。そうして、読者の中に小さな価値の転換が起こっていく様をこの2年半、私は編集長として目撃してきました。

自分の健康を考えることは環境を考えること、環境を考えることは自分の健康を考えること。そのことを実感、理解するためには、食べものの裏側にいる農家や漁師と直接つながることが必要です。そうすることによって、生産者の価値を認め、日頃から食べ物が生まれるプロセスが明らかになっているものに対して正当な対価を払うようになれば、生産者も消費者も両方救われることになります。医者に払うお金を農家に払うようにする。ネガティブコストではなく、ポジティブコストを払うことで、個人も、社会も、健康を取り戻すことができると確信しています。これは、日本が最優先で取り組まなければいけない課題です。

食べる通信は、日本中の生産者と消費者をつなぎ、「食べることは生きること」を取り戻すことで、命を大切にする社会を未来に受け渡そうという志を掲げています。そうして、頭と体、都市と地方、人口と自然、理論と直感、意識と無意識、西洋と東洋のバランスをはかる挑戦に、消費文明社会の先頭を走ってきた日本から挑み、文明の転換の魁の役割を果たしていきます。

その大いなる挑戦に現時点で26人が名乗りをあげています。それが、みなさんを食べものの裏側にある命喜ぶ世界へと案内する、各地の食べる通信編集長です。レストラン経営者、アンテナショップスタッフ、漁師、農家、漁業協同組合職員、建設会社社長、印刷会社社員、地域おこし協力隊、自治体副町長、テレビ局職員、新聞社職員、子育て世代のママ、高校生など、多士済々の顔ぶれが並んでいます。みなそれぞれに本業を持ちながら、二足目のわらじに「食べる通信」を履き、現実の経済社会でふんばりながらも、理想の社会を目指す新しい生き方、働き方をしています。

そして、各通信の読者の中には、編集やコミュニティ運営、イベント開催などに主体的に参加する人たちもいます。今、平日や昼間は「食べるために」本業をがんばり、休日や夜間など、余暇の時間は「生きるために」やりがいや自らの存在価値を感じられる現場に身を投じる都市生活者が増えていますが、食べる通信がそうした"二枚目の名刺"先になっているのです。また、帰省先がない、海や土とつながるふるさとがないという都市生まれ都市育ちの読者たちは、食べる通信をパスポートに、ふるさとを見つけ、「大地震があって逃げるところがなければ俺たちを頼ってこい」と言ってもらえるような親戚付き合いのような関係を農家や漁師と紡ぎ始めています。食を通じて、価値で結びついた都市生活者と地方の生産者が地縁血縁を超えた新しいコミュニティをつくっていく。食べる通信は、その入り口にもなります。

食べる通信は、都市が喪失した価値、「生きる実感」と「人とのつながり」を取り戻すリアリティ再生装置です。食べる通信の扉はすべての人に開かれています。ぜひ、食べる人とつくる人がつながった先にある豊かな世界への扉をその手で開いていただければと思います。

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