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古来製法の自然派シードルに情熱を捧げる理由 ~HEROUT(エルー)プロジェクト責任者 イリス慶子~

加藤貿易の扱うブランドの一つに仏・ノルマンディー生まれのシードル「エルー(HEROUT)」があります。そのブランドプロジェクトの中心者となるのがイリス慶子。正社員という雇用形態ではなく、新しい働き方ともいえる社外メンバーとしてプロジェクトに関わっています。その彼女がどのような思いでエループロジェクトに携わっているのか、話をききました。

エルーとの出会い

エルーと出会ったのは、ワイン生産者が集うイベントで通訳として参加した時のことです。その場にいたワイン生産者のうち、女性はたった一人。それがエルー生産者のマリーアニエスでした。チームの中では私達二人だけが女性同士ということで、マリーアニエスと私は会場内でペアになって動くことになったのです。

会場でお客様に試飲していただいていたのは、リンゴからできたブランデーの「カルヴァドス」と発泡酒の「シードル」。当時私は自然派ワインの通訳や翻訳の仕事が多かったのですが、カルヴァドスもシードルもフランスに住んでいた頃から知っていて特に特別なイメージは持っていませんでした。

しかし、マリーアニエスに言われた「ホンモノのシードルを飲んだことがある?」という言葉が私の気持ちを動かしました。「ホンモノのシードル?」。では、今まで飲んできたシードルは何だったの? ホンモノのシードルとはどういうモノなの? 何が違うの?彼女が説明してくれた内容を聞きながら、テイスティングしたのですが、これまで味わったことのない、何とも言えない不思議な感じ。それがエルー初体験でした。正直いって美味しいとも美味しくないとも言えない不思議な感覚を味わいながら、これは実際に現地に行ってその土地で、現地の空気と文化の中でしっかり体験してみたい! と心に強い想いが沸き起こるのを感じていました。

それはこのシードルをプロダクトとして興味を持ったというだけではなく、マリーアニエスの事をもっと知りたい、彼女ともっと仲良くなって関わりたいという気持ちが軸になっていました。人柄というのは特別な体験がなくとも、一緒にいると伝わります。たった二日間共に過ごしただけでしたが、彼女の寛大さ、力強さは揺るぎなく、それが私に大きな安心感と信頼感を与えていました。今思えば、慈愛と人徳という素晴らしいパワーに触れたのだと思います。

(写真:マリーアニエスとの出会い)

なぜ広めたいのか

マリーアニエスとのイベント最終日。「ホンモノのシードル」という言葉が心に残り、どこかで知った、いつか行ってみたいと思っていた神田のシードルバーに彼女を誘いました。待合せをしたものの、私には当時幼い子供達がいて、帰宅時間を気にしていました。スムーズに待ち合わせで会うことができずに、結局時間切れとなってしまいその計画は実現しませんでした。それがとても心残りだったこともあり、彼女の想いを大切に取り扱ってくれるインポーターさんをご紹介できないか、常に心にアンテナを立てていました。

そんな折、ある方が加藤貿易の加藤社長を引き合わせてくれました。特に話す内容が決まっていたわけではない顔合わせの場で、加藤社長は私に「あなたの得意な事はなんですか」と尋ねました。当時、家族の問題で色々あった私はすっかり自信を失っていましたので、特技も取り柄もないのだけれど・・・、と内心思いながら「強いていえば、フランスが大好きで、フランス語ができ、フランスへのコネクションが色々あります。フランスという国には幼少期から色々な体験を通しお世話になってきたので、恩返しがしたく日仏の架け橋になりたいのです」と答えました。すると、「では、フランスで、まだ日本にない面白いモノが何かありますか」と聞かれたため、その時にマリーアニエスを通して発見した「ホンモノのシードル」についてお伝えしました。

その後程なくして、自身のライフワークとしている音楽活動でパリに演奏のツアーに行くチャンスが訪れました。「次にフランスへ行くときは、マリーアニエスに会いに行く」と決めていたため、その話をすると、加藤社長はそれならしっかりリサーチしてきて欲しいと正式に仕事として依頼してくださいました。

マリーアニエスの家で半年ぶりの再会を果たし、そこで乾杯したシードルの味は最初に東京のイベント会場で飲んだ時とは印象が全く違いました。複雑な奥行きのある味わいは、これまでフランスで飲んだシードルとは比べ物になりませんでした。工業製品としてのシードルと古来製法のシードルとの違いを改めてハッキリと感じた瞬間でした。

(写真:左がマリーアニエス氏、右がエループロジェクトリーダーのイリス慶子)

その後の数日間はエルーの果樹園とシドルリー(醸造所)でスタッフのロランさんとヨーコさんにインタビューをしたり写真や動画を撮ったり、マリーアニエスと帰宅して二人で向き合ってゆっくり食事をしたり、彼女の仲間を招いてホームパーティをして和食をふるまったり、彼女の友達のレストランや、エルーのお得意様のお店を回ったり、彼女と生活を共にしながら更に彼女の人間性に深く触れることとなりました。


(写真:取材中の風景)

どのような友人に囲まれ、どんな関係を築いているのか、従業員への声掛け、オフィスの間取りや仕事の仕方、ルーティンの中で大切にしていること、彼女の自宅のインテリアからも、彼女の生き方、哲学は伝わってきます。

そういった日常の中ににじみ出ているマリーアニエスの人間性に強く惹かれ、私は彼女の生き方そのものを世の中に伝えていきたいと思いました。信念を持ちつつも他人に押し付けることなく、また違いも受け入れてくれる。その姿は、今まで生きづらさを感じ続けていた私自身も変えてくれました。マリーアニエスの自然体で、自分に対しても他人に対しても正直で丁寧な生き方を見て、心に深く感じ入るものがありました。

木を植えるということは、未来を信じるということ」。これは、一番印象に残った、深い気づきを与えてくれた彼女の言葉です。

希望が無ければ、10年もの長い年月をかけて育てる木を植える気にはなれない。明るい未来をみているからこそ、彼女は強く進んでいる。未来を信じるということは、他人も自分も信じること。希望の光を心に抱いている人というのは、こんなにも魅力的なのだと深い感銘をうけました。

(写真:リンゴの木々の確認へ向かうマリーアニエス氏)

日本で生まれ育ち、生きづらさを感じてきた私は、25歳でフランスに渡り初めて自分を認めることができからは自分と同じように生きづらさを感じている人が少しでも楽になれたらいいなという想いで、フランスの歌を弾き語りや、親子で参加できるフランス語のプレイサークルなどをまるで草の根運動のように細々とやり続けていましたが、マリーアニエスの言葉によって、フランスで大切に育まれてきた文化遺産としてのシードルを未来に残そうというミッションに取り組んでいるマリーアニエスのシードルを通して、日仏の架け橋になりたいと思いました。

自分と向き合って見つけたエルーの売り方

日本でエルーを広める活動は、まもなく3年目を迎えます。まだまだ走り出したところではありますが、実際にエルーの販売に携わることで様々な困難に直面しました。そもそも、お酒の販売すらしたことがありませんでしたし、営業は苦手意識がありました。

「販売をリサーチして計画を立て、目標を立て、それに必要な事をコツコツやる」そんな当たり前のプロセスが、なかなか進められない・・・。自分の人生を振り返ってみれば、計画性よりもセレンディピティに重きをおいて生きてきたため、計画的に取り組んで目標達成するというプロセスの経験値が恐ろしく少ない事に気づきました。さらには、今年の4月から5月にかけて前例のないパンデミックの影響も重なって、売れ行きがぱったりと止まってしまった時期がありました。経験が無いなりにも計画を立てて頑張ろうとしていた矢先、誰もが経験のないような社会情勢で、特に飲食業界はこれまでのやり方を続ける事ができないという混乱に陥りました。

「業界の常識にも疎い、当たり前の営業活動すらままならない自分が、何をできるのだろうか、自分がエルーに携わる意味は何だろうか、自分じゃないといけないのだろうか」、そんなことをずっと考え続けながら困り果てて何もできなくなる自分が嫌でした。

そんな時に加藤社長に言われました「僕だったらこれはチャンスだと思う」。それは大きな衝撃で、私の小さな思考の箱を飛び出るきっかけとなりました。私は一般的な売り方はできないけれど、だからこそ私がやる価値があるのではないか。売り込むのではなく、お互いの会話の中でエルーの魅力を伝えると、相手の方から手を差し伸べてくださる。そういったやり方が私らしく、また私だからできる方法なのだと。このことに気づいてからは、自分がやれる方法で精一杯ぶつかっていく覚悟が持てるようになったのです。


エルーでつながっていく不思議な人脈

そして具体的に動き始めたことで、様々なご縁をいただくようになりました。友人の紹介から繋がるご縁であったり、イベント自粛の中で真っ先に再開していたオーガニックマルシェでの出逢いであったり、逆境を逆境と思わない人々からのエールでした。

(写真: 第11回みつばちオーガニックマルシェへの初出店)

今までは「迷惑がられるのでは」と仕事の悩みを周りに相談することができなかったのですが、仕事も人との縁でつながっていけることに気付いてからは、仕事とプライベートを分けずに困っていることを話すようにしています。すると、どんどん周りが助けてくれたり、必要としているスキルを持った応援者が現れたりするようになり自然と仕事の幅が広がっていくのです。

(写真:第11回みつばちオーガニックマルシェのお客様との乾杯ショット)

ある時、クラウドファンディングでエルーを支援してくれた方のひとりが、友人の知り合いだということがわかりました。共通の友人がいることは知らずにその方はエルーの支援をしてくださったということで、私はその方が数あるクラウドファンディングプロジェクトの中で、なぜエルーを支援しようと思ったかをぜひ聴いてみたいとインタビューを申し出ました。その方も、プロジェクト実行者の私に興味をもっていたということで快く受けてくださりました。

話してみると私達はまるで異なる境遇、能力にも関わらず幼少期に抱いた社会との対峙の仕方が似ていて、大切にしていること、今の社会に望むこと、魂のミッションが同じ兄弟のような方でした。私達は突然、これまでの人生の答え合わせのような深い対話に没頭しノンストップで3時間も時の経つのを忘れ話し込みました。クラウドファンディングによって、私の価値観に賛同する方が支援してくれていたということがわかり、「製品を通して想いは通じる」ということを心の底から実感できました。

エルーと描く未来

エルーの産地であるフランスでは、農業者が農業に専念して生きていける仕組みづくりが進んでいます。これは、良きものを次世代に残していこうという姿勢がフランスに根付いているという理由もあるかもしれません。しかし、日本でも性能が同じであれば価格比較といった経済合理主義ではなく、作っている人はどんな人なのか、どんな思いで作っているのか、この製品の背景にはどんな物語があるのかなど、数字では測れない要素を判断基準にしたいという人が増えている気がします。まさに私自身がそうであるように。買い物は投票だと言われるようになった昨今、情報は無料、モノはシェア、お金を出すのは応援購入で、ストーリーや情熱への対価という考えの方も増えてきているのでしょう。

(写真: フランスでは美食専門誌「Arts & Gastronomie」にも紹介されているエルー)

私がエルーを広めたいのは、エルーが美味しいからは大前提ですが、それ以上にエルーの造り手であるマリーアニエスの人生哲学、価値観や伝統的な文化遺産、そしてその原風景である大自然の尊さを感じ取ってもらいたいと願っているからです。リンゴのお酒シードルは、ガレットやクレープとともに楽しむものというイメージがフランスでは根付いています。日本でもそう思っている人は多くいるでしょう。しかし、そういった限定的な先入観もエルーを飲めば変わるでしょう。なぜなら、「本当のシードル」は、「発酵」という微生物の働きによって生まれる奥深さと複雑さがあるからです。そして、その味わいは生きとし生けるものへのリスペクト、多様性の尊さを感じさせてくれます。

エルーは「あなたが本当に大切にしたいものは何ですか」と語りかけてくれます。そこから自分の本当に気持ちに気づくことで、優しさが生まれたらいいなと。一人一人が優しくなれたら、生きづらい世の中は変わるかもしれません。みんなが笑顔になってハッピーが生まれる。そんなエルーを一人でも多くの人に届けていきたいと思います。

(写真:2019年開催の東京シードルコレクション)

■公式エルージャパンサイト
https://katotrade.com/heroutlp01/

■HEROUT(エルー)オンラインショップ
https://heroutjp.net/

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