医療系のクライアントとの打ち合わせで、「レセプト」という言葉が出た。
最初は知らなかった。でも「医療保険の請求書のことです」と教えてもらい、その後の会話で「レセプト業務のどこが非効率か」という文脈で自然に使えるようになった。
次の打ち合わせで「レセプトの突合作業がボトルネックになっているということでしたよね」と言ったとき、クライアントの態度が少し変わった。「ちゃんとわかってくれている」という安心感が生まれたのだと思う。
言葉はドアだ
業界固有の言葉を使えることは、「その業界への敬意」を示す行為だ。
「専門用語を覚えなくてもいい」という考え方もある。でもクライアントの言葉で話せると、「この人は私たちのことをちゃんと理解しようとしている」という信頼が生まれる。
言葉はドアだ。その業界の言葉を使えると、相手がドアを開けてくれる。本音の課題、深い悩み、「実はここが一番困っているんですよ」という話が出てくる。
学ぶスピードが大事
ひとつの業界の言葉を完璧に覚えてからプロジェクトに入るのは不可能だし、必要でもない。
大事なのは、「学ぶスピード」だ。
打ち合わせでわからない言葉が出たら、その日のうちに調べる。次の打ち合わせでは使ってみる。間違えたら直してもらう。その反復で、3回目の打ち合わせには「業界の人間」のような言葉遣いができるようになる。
この学習速度が速い人ほど、クライアントとの関係が早く深まる。
「翻訳」は双方向だ
業界の言葉を学ぶことと同時に、「IT/開発の言葉をクライアントに伝わる形に変える」ことも重要だ。
「APIで連携する」「非同期処理にする」「レスポンシブ対応」——これらをそのまま使うと、クライアントは置いてかれる。
「別のシステムと自動でデータをやり取りできます」「ページを読み込まずに更新できます」「スマートフォンでも見やすい画面になります」——クライアントが知っている言葉に変換することで、「それが必要かどうか」を自分で判断してもらえる。
翻訳は双方向だ。業界の言葉を学び、IT の言葉を噛み砕く——その両方ができるとき、ディレクターは本当の「橋」になる。
知らないことを恐れない
「わかりません」「教えてください」と言えることが、実は信頼を作る。
知ったかぶりをして外したとき、関係は壊れる。でも「詳しくないので教えてもらいながら進めさせてください」という姿勢は、「この人は誠実だ」という評価につながる。
相手の言葉を学ぼうとする姿勢そのものが、すでにコミュニケーションの始まりだ。