岩田 彬広 | エムスリー株式会社 プロダクトマネージャー
エムスリーにおけるプロダクトマネージャーは、「プロダクトを通じた事業成果の最大化」を追求し、自らの意思決定によってその未来を実現していく存在です。事業を前進させるために必要であれば、市場開拓やマネタイズ設計、法的なスキーム構築から現場のオペレーション改善にも、深く踏み込みます。求められるのはアウトプットではなく、アウトカム。「成果の最大化」に向けて貪欲に思考のアップデートを続け、正解のない中で仮説を立て、疑い、決断し続けること。そのプロセスそのものが、私たちの価値になります。
「自分で事業をやったことがない」という違和感を起点にプロダクトマネージャーへと転身し、ゼロからの事業立ち上げや組織再構築を経験してきた岩田。なぜエムスリーという環境で、「未知の中でサバイブする力」が磨かれていくのか。そのリアルな成長のプロセスと、この環境で得られる経験について聞きました。
「自分で事業をやっていない」違和感からの転身
これまでのキャリアと現在の役割について教えてください
現在はグループ会社2社で、開発部長兼プロダクトマネージャーとして仕事をしています。QLifeとエムスリーヘルスデザインで、開発組織のマネジメントとプロダクト推進の両方を担っています。
もともとはアクセンチュアでITコンサルタントとして、お客様の事業立ち上げや成長支援に携わっていました。ただ、その中でずっと拭えなかった違和感があります。それが「自分で事業をやっていない」という感覚です。
コンサルタントとして外から事業を見ることはできるし、一定の価値も出せる。でも、最終的な意思決定を自分で行い、その結果に責任を持つ立場にはいない。良くも悪くも、自分は“当事者ではない”という距離感がありました。
その状態で事業を語り続けることに、どこか限界を感じたんです。このままだと、本質的な意思決定の重さや難しさを理解しないままキャリアを積んでしまうのではないかと。
だからこそ、自分が意思決定し、結果を背負う側に回ろうと決めました。プロダクトマネージャーという職種はその時に初めて知りましたが、「事業に直接関われる」「自分の判断がそのまま成果に跳ね返る」という点に強く惹かれて、挑戦することを決めました。
なぜエンジニアではなくプロダクトマネージャーを選んだのでしょうか
アクセンチュアで3〜4年ほど経験を積んで、開発もそれなりにできるようになりました。しかし、その状態こそが、私にとってはむしろ強い危機感へとつながったんです。
社内では一定の評価を得られていました。しかし、「それが本当に市場で通用する実力なのか」と疑問を抱くようになり、実際に転職活動も経験しました。そこで直面したのは、面接での会話が噛み合わないという現実です。自分の立ち位置が世間とズレていることを痛感し、「このままエンジニアとして戦い続けるのは難しい」と判断した瞬間でもありました。
今振り返れば、当時の私は一般的なエンジニア像に比べ、かなり事業やプロダクトの視点から技術を捉えていました。そのため、純粋な技術志向の会話とは微妙に噛み合わなかっただけなのだと、今は理解しています。
そこで見えてきた選択肢が、事業側に踏み込む道でした。エンジニアの延長線上ではなく、「何を作るべきか」を定義する側に回る。その方が、自分の強みや経験をより発揮できるのではないかと考えたのです。結果としてプロダクトマネージャーという選択に至りましたが、それは消去法ではなく、自分にとって最適な「戦う場所を変えた」という前向きな意思決定だったと思っています。
最初の2年間で鍛え抜かれた「思考の筋力」。正解のない問いに、自らの基準で答えを出すための最短ルート
実際にプロダクトマネージャーとして働いてみてどうでしたか
最初の2年間は、正直「自分はまだ最適解を選び取れていない」という葛藤の連続でした。
ユーザーインタビューから課題を特定し、解決策を機能に落とし込んでリリースする。そしてユーザーから好評をいただく。プロダクトマネージャーとしての業務サイクル自体は回っていました。それでも常に「もっと良いやり方があったのではないか」と自問自答し、多大なエネルギーを使っていました。今振り返れば、あの2年間は「正解のない問いに対し、考え続けること」に慣れるプロセスだったのだと思います。
プロダクトマネジメントに唯一解はありません。あるのは、その時々の状況に応じたベストプラクティスだけです。重要なのは、無数の選択肢から常に最善を選び続ける「判断の体力」です。当初は一つの判断に多大な労力を要していましたが、今では当時とは比較にならないほど多くの意思決定を、より高い精度で回せるようになりました。
今でも「自分は最適解を選び取れているのだろうか?」という問いは常に自分の中にあります。あの時と変わったことは、ある程度は最適解を選べているだろうという自信に加えて、この問いを持ち続けることへの慣れが大きいと思います。表面的なTipsや知識をインプットするだけでは、情報に踊らされるプロダクトマネージャーになってしまいます。あの濃密な2年間で培った「思考の体力」こそが、複雑なプロダクトを牽引するための土台になっているのだと実感しています。
再現性のない仕事で、なぜ結果が出るのか。スケールした瞬間に、仕事の質が変わる
そこからどうやって成長したのでしょうか
これが一番説明が難しいところで、「気づいたらできるようになっていた」というのが正直な感覚です。例えば過去に携わっていた医療ビッグデータ事業では、完全にゼロから立ち上げて、数年で数十億円規模にまで成長しています。ただ、その過程で「これが正解だ」と確信を持てた瞬間は一度もありませんでした。
常に手探りで、やってみて、ズレて、修正して、また試す。その繰り返しです。意思決定のたびに「これでいいのか」という感覚はずっと残っている。それでも進めるしかない。
不思議なのは、その時々では正解が分からないのに、後から振り返ると「結果としては合っていた」という状態になっていることです。自分の中で明確な手応えがあったわけではないのに、事業としては成長している。
成長というのは、分かりやすく段階的に起きるものではなくて、細かい試行錯誤の積み重ねが、ある瞬間に閾値を超えることで初めて認識できるものだと思っています。
だから、「この本を読めばいい」「このフレームワークを使えばいい」という話にはならない。どれだけ考えて、どれだけ試して、どれだけ修正したか。その総量がそのまま効いてくる仕事です。再現性がないからこそ、思考と試行を止めないこと自体が、唯一の積み上げになるんだと思います。
成長の実感はどのように変化しましたか
大きく3つのフェーズに分かれると思っています。最初は、自分でやっても成果が出ないフェーズです。任された範囲の中で、何をすればいいかも分からず、結果も安定しない。いわゆる「個人としてもまだ戦えない」状態です。
次が、自分が動けば成果が出せるフェーズです。手を動かせば、一定の結果は出せる。ただこの段階は、あくまで自分の能力に依存している状態なので、スケールしないという限界があります。
そして今は、人を動かして成果を出せるフェーズに入っています。例えば、細かいバックログを自分で管理しなくても、方針や進め方を伝えれば、チームとして結果が出る状態です。
ここで実感したのは、「自分ができる」と「組織でできる」は全く別の能力だということです。後者は、意思決定の質だけでなく、他者の理解や動機づけまで含めて設計しないと成立しない。
さらにその先として目指しているのが、自分が関わった人が、さらに他の人を動かす状態です。いわゆる二階層でのスケールです。この構造が作れれば、50人、100人規模でも再現的に成果を出せるようになる。ここまで到達できるかどうかが、プロダクトマネージャーとしての一つの分岐点だと思っています。
プロダクトと組織、両方を動かせるか。分業では成立しないプロダクトマネージャーという役割
プロダクトマネージャーに求められる力とは何でしょうか
大きく2つに分けられます。プロダクトを何とかする力と、プロダクト組織を何とかする力です。
プロダクト側は、ユーザーに価値を届けるために「何を作るか」「どう作るか」を決める力です。バックログの設計や優先順位付け、UIの作り方、さらにはそのプロダクトが市場に対して本当に成立しているのか、つまり人が「お金を払ってでも使いたい」と思えるものになっているかを見極める力も含まれます。
一方で組織側は、そのプロダクトを実現するためのチームを機能させる力です。採用や配置、評価の設計、メンバーのモチベーションの引き出し方、そして非エンジニアの経営層との信頼関係構築まで含まれます。場合によっては、自分で営業に入ることもあります。
この2つは切り離せません。プロダクトが良くても組織が機能していなければ継続できないし、組織が整っていてもプロダクトが弱ければ意味がない。
プロダクトと組織運営を分業して連携を図るスタイルも一般的ですが、実際にはこの2つは非常に密接に関連し合っているものです。
プロダクトの理想を掲げても、組織が伴わなければ実現は難しい。一方で、強い組織があっても、プロダクトの戦略が曖昧では力は発揮されません。だからこそエムスリーでは、あえて境界線を作らずに両面からアプローチすることを大切にしています。その複雑な意思決定を担うことこそが、プロダクトマネージャーという仕事の醍醐味ではないでしょうか。
今後の展望と、これから挑戦する人へのメッセージをお願いします
今後は、働く人の健康や生産性を改善する領域で、より大きな価値を出していきたいと考えています。生活習慣や行動を変えることで健康を改善する取り組みを、日本だけでなくグローバルにも広げていきたいです。
そのためにも、より大きな組織を動かせるようになる必要がある。今は自分が直接関わる範囲で成果を出せていますが、これを二階層、三階層とスケールさせることで、より大きな価値を生み出せる状態を作りたいと考えています。
一緒に働きたいのは、未知とリスクを楽しめる人です。この仕事は、分からない状態で意思決定し続けることが前提になります。だからこそ、リスクを取らないとリターンも小さいし、自分のやり方に固執していると前に進めない。
プロダクトマネージャーに興味があるかどうかは重要ではありません。それよりも、よく分からない状況の中でも考え続け、意思決定し続けたいかどうか。その環境でサバイブしながら、大きな成果を取りにいきたいと思える人と、一緒に仕事がしたいですね。
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