新しい建築が立ち上がり、運営がはじまる。それは、この場所が紡いでいく「50年の物語」の、文字通りスタートラインに立ったことを意味する。その物語の最前線で、建築の資産価値と顧客体験のクオリティを維持し、さらに進化させ続けるチームがある。それが、ライフサイクルマネジメント(以下、LCM)だ。
現在のLCMには、「施設維持管理」の従来の枠組みにとらわれない、多様なバックグラウンドを持つメンバーが集まっている。土木施工管理、Webデザイナー、そしてセールスなど、その経歴はさまざまだ。
なぜ、彼らはそれぞれのキャリアを経てNOT A HOTELのLCMへと至ったのか。 そして、一見異なる個人のスキルが、このチームでどのように重なり合っているのか。現場を静かに支え、プロダクトに向き合い続ける4人のクラフトマンが、LCMという仕事の純粋な面白さを語る。
目次
多様なキャリアや視点がもたらすアプローチ
━━ 現在のLCMチームは、入社時期もバックグラウンドもさまざまです。まずは入社歴の順に、簡単な自己紹介からお願いできますか。
竹口:入社3年目の竹口です。このメンバーのなかでは一番古株ですね。前職は大手ゼネコンで土木の施工管理をしていました。今はLCM全体の管理に加えて、新しく建てる物件の設計図面に対して、将来のメンテナンス性やリアルな顧客動線の視点から改善案をフィードバックする業務を担当しています。
現場のリアルな経験を、次の建築へ活かす役割ですね。最近は、建築部全体の業務改善にも取り組んでいて、AIを活用したリソースの最適化などに時間を使うことが多いです。
永田:入社2年目の永田です。私も前職は準大手ゼネコンで土木の施工管理をやっていて、主に大型の造成工事、橋脚、トンネルといった官庁の土木工事を担当していました。
今の業務としては「KITAKARUIZAWA」と「SETOUCHI」を中心に担当しています。チーム内では、設備関連をメインとしたメンテナンスや補修・修繕を、自分たちでスムーズに動かせるように取り組んでいるところです。
松廣:ようやく入社1年が経った松廣です。大学を卒業したあと、大手ゼネコンに建築の施工管理職として入社して、約8年間、オフィスビルや商業施設、シネコンなどを担当していました。その後、不動産業界でWebデザイナーに転身して3年ほど働き、NOT A HOTELに参画しました。
今は主に「MINAKAMI」をメインで担当しています。前職のデザイン経験も活かして、拠点をまたぐサイン(看板)や家具周り、現場での細かな収まりが必要になる制作金物なども担当しています。
小坂:入社10ヶ月の小坂です。前職は乃村工藝社という空間プロデュースの会社で営業職をしていました。領域は幅広く、国際的なスポーツイベント関連からオフィス、ホテル、商業施設まで、さまざまなフェーズのプロジェクトマネジメントを経験してきました。NOT A HOTELでは、拠点として「AOSHIMA」「ISHIGAKI」「NASU」をメインで担当しつつ、中長期の修繕計画の作成やコスト管理などを横断的に見ています。
竹口 勘太郎:熊本大学工学部卒。株式会社大林組にて、大規模更新工事やダム築造工事、シールドトンネル工事の施工管理に従事。2024年1月、NOT A HOTELに参画。主にNOT A HOTELの開業済み物件全体の施設/維持管理を担当。
━━ ありがとうございます。永田さんは竹口さんと大学時代からの友人と聞きしました。そこからどのような経緯で、同じチームで働くことになったのでしょうか。
竹口:当時、永田さんがこれからのキャリアを考えているタイミングで、じっくり話をする機会があったんです。彼はそのとき、大規模の公共工事を担当していました。社会のインフラを文字通り根底から支える、ものすごく社会的意義の大きな仕事を全うしているなかで、一人の技術者として「ここからさらに自分の可能性を広げていきたい」という熱い思いも聞いて。
ちょうど私自身がNOT A HOTELで1年目を迎え、初期メンバーとして裁量を持って働く面白さを実感している時期でもあったので、「今ここで一緒に挑戦することは、キャリアとしても絶対に良い経験になる」と本気で伝えたのがきっかけです。
━━ 永田さん自身は、その当時どんなことを考えていたんですか?
永田:前職での大型造成やトンネル工事といった仕事は、スケールも大きく、チームで一つのインフラをつくり上げる素晴らしい経験でしたし、仕事自体には強い誇りと充実感を持って取り組んでいました。
ただ、5年目を迎えて現場の全体像が見えるようになってきたからこそ、「この先も施工管理のキャリアを突き詰めていくのか、あるいは別の道もあるのか」と、将来について漠然と考えるようになりました。前職で培った現場を動かす力をベースにしながら、より事業の解像度を上げ、自分の発信で新しい物事を動かしていける領域に挑戦したい。そう思っていたタイミングで、竹口さんに声をかけてもらったんです。
永田 稜:熊本大学工学部卒。前田建設株式会社にて大型造成工事、橋脚、トンネルなど主に官庁工事の施工管理に従事。2025年2月、NOT A HOTEL参画。
━━ そこからチームをつくられていったのですね。松廣さんはWebデザイナーを挟んで、小坂さんは経済学部から空間プロデュースの会社を経て、それぞれ全然違うルートからLCMに来てくれたわけですが、竹口さんはどう感じましたか?
竹口:実は当時、家具やサインも含めたすべての領域を少人数で管理していたため、カバーすべき業務が非常に多く、手が回りきらない部分がありました。そんなとき、カジュアル面談で松廣さんが、前職の竹中工務店での施工管理の経験と、その後のWebデザインの経験の両方を活かして、まさにそのデザインや設えの領域に興味を持ってくれて。
日本のトップクラスの建築現場を知りつつ、デザインの視点も持っている。そんな彼が「ここを得意分野として担ってくれる」というのは、チームにとって最高に心強いと感じました。
小坂:逆に私は建築系の技術的なバックグラウンドがあったわけではないので、NOT A HOTELへの転職時は「LCMとは、具体的に何をどこまでやるんだろう」という純粋な不安もありました。
ただ、入社してまずは拠点担当からスタートしたことで、前職で培った「多様なステークホルダーと調整しながら、プロジェクトを前に進める力」がそのまま活きると気づいたんです。そこから、竹口さんが一人で抱えていたコスト管理のサポートや、中長期の修繕計画の作成といった数字周りの業務を少しずつ引き継いでいきました。
竹口:小坂さんが来てくれたのは、チームが拡大するフェーズにおいて本当に大きかったです。当時のLCMは、目の前の施工やトラブル対応に追われがちだったのですが、小坂さんが数字や中長期の計画という「土台」をしっかりつくってくれたおかげで、チームとして一歩先のクオリティを目指せるようになりました。技術職一筋ではないからこそ、チームに新しい視点と安定感をもたらしてくれたと思っています。
顧客体験を更新し続ける「攻めのマネジメント」
━━ 実際に入社してみて、一般的な「施設維持管理」と何が一番違うなと感じましたか?
永田:一般的には役割ごとに分担されることが多い領域ですが、NOT A HOTELのLCMは、発注者であり、施工管理であり、ときには現場で自ら手を動かす技術者でもあります。すべてのフェーズに当事者として深く関わりますし、建築だけでなくデザインや外構の植栽、家具(FF&E)にいたるまで、向き合う領域がとにかく広いのが特徴です。
竹口:現地ではプロフェッショナルであるBM(ビルメンテナンス)会社の方々に日々の保守点検を支えていただいていますが、私たちLCMはそこに加えて「ホテルの運営者」であり「オーナーさまへの責任を持つ立場」でもあります。
だからこそ、建築に対して求められるクオリティの基準や、心地よい滞在のために「今、何をすべきか」という危機意識が非常に高い。私たちがどう向き合うかで拠点の価値や体験価値が変わるという、心地よい緊張感が常にありますね。
松廣:一般的な施設管理が、建物の状態を適切に維持・保全する役割だとすれば、LCMは日々のアップデートを繰り返し、資産価値や顧客体験をさらに高めていく役割だと感じています。建物を守るだけでなく、より良く進化させていく姿勢が決定的に違いますね。
小坂:一般的に不動産は経年とともに価値が目減りしていくものと考えられがちですが、私たちはその常識を変えたいと思っています。お預かりしている修繕積立金を適切にコントロールしながら、価値を高めるためのグレードアップ工事を行い、それがそのままセカンダリー(二次流通)の市場価値にも直結していく。非常に責任の大きな仕事ですが、だからこそ挑戦しがいがありますね。
小坂 開:慶應義塾大学経済学部卒業。新卒で株式会社乃村工藝社に入社。営業職として、ホテルや銀行、商業施設などの企画・設計・施工業務のプロジェクトマネジメントを担当。2025年7月、NOT A HOTEL参画。
━━ 単に「不具合を直す」という基準ではなく、NOT A HOTELとしてオーナーさまをお迎えするための「当たり前の基準」が、そもそも非常に高いのですね。
竹口:そうだと思います。日々の判断基準は本当にシンプルで「自分が滞在するときに、そこが最高の状態であるかどうか」です。例えば、設備やサウナが万全な状態で稼働していることは大前提。
ただ、自然環境のなかにある拠点も多いため、突発的なトラブルが起きることもあります。それでもチェックインの時間は変えられません。絶対にその時間までに空間を整えるための即応体制を組んだり、万が一の場合のバックアッププランを常に用意しています。
永田:屋外の家具のわずかな擦れや、タイルの細かな欠けなどがあっても、運営やCS(カスタマーサクセス)のメンバーから「オーナーさまの体験のために、すぐに綺麗にしたい」と、すぐに声が上がってくる組織文化があります。職種に関係なく、全員が「NOT A HOTELのあるべき姿」に対して高い基準を持ち、建物の状態に目を光らせていると感じます。
松廣:だからこそ、限られた時間のなかで万全の状態に仕上げ、オーナー体験を完璧なものにできたときは本当に手応えを感じます。逆に、もう少し早く動けていればさらに高いクオリティを提供できたはず、と思う瞬間は今でも悔しいですね。そうした一人ひとりのこだわりや緊張感が、チーム全体の「当たり前の基準」を日々押し上げているのだと思います。
松廣 剛史:名古屋工業大学建築デザイン工学科卒。竹中工務店にてオフィスビル、商業施設、シネマ、劇場などの施工管理業務、鉄骨工事における調達業務に従事。Webデザイナーへ転身し、不動産領域のWebサイトを複数担当する。2025年6月、NOT A HOTEL参画。一級施工管理技士。
領域を越境する圧倒的なおもしろさ
━━ 「ここまでやるのか」と、自分自身がLCMの枠を大きく超えて「越境したな」と感じる具体的なエピソードはありますか。
小坂:分かりやすい例で言うと、足掛け2年ほどかけて完遂した「山奥への携帯電話の基地局誘致プロジェクト」があります。「KITAKARUIZAWA」の開業直前、周囲が豊かな自然に囲まれているがゆえに「電波が届きにくい」という課題がありました。
山奥という立地を考えれば、ある意味では「仕方のないこと」として受け入れてしまう状況かもしれません。しかし、災害時の安全確保(BCP)や、現代の快適な滞在環境を考えると、オーナー体験として決して妥協してはいけないポイントでした。そこで、「通信キャリア各社の基地局を、この場所に誘致しよう」と、LCMが主体となって動きはじめたんです。
竹口:通信環境のインフラを新しく整えることは本来、非常にハードルが高いことなのですが、NOT A HOTELのこれからの可能性に共感していただき、実現することができました。
現在では、湯河原や沖縄などの新しい拠点でも、開業前の段階から先手で通信キャリアさまに電波改善のご相談をはじめられる関係性がつくれています。一般的な施設管理の領域を完全に超えて、事業開発やプロジェクトマネジメントのような動きをすることができた、象徴的なエピソードですね。
━━ 施設管理の枠を超えて、まさに次のビジネスにつながる「強固な基盤」をLCM自らがつくっているのですね。もう一つの越境として、AIを駆使した効率化もかなり進めているとも聞きました。
竹口:そうですね。そもそも私たちのチームは「最小人数で、最大数の拠点をマネジメントする」という思想からスタートしています。人が少なくてもクオリティを担保できる仕組みをつくるために、生成AIを使ったチャットボットを自分たちで開発しはじめました。目標は1ヶ月間の1人当たりのリソースを50~70時間程度削減し、他の業務に当てられる時間を生み出すという点です。
大きな改善として、これまで地道に蓄積してきたスプレッドシートやNotionの施設データをデータベース化し、AIに学習させているんです。現地の運営メンバーからの「施設の不具合への対処法」といった問い合わせに対してAIが自動で初期回答を提示してくれて、LCMがやり取りに使う時間を軽減させる動きです。その他にも様々な機能をagentに付与しており、業務負荷軽減を狙っています。私個人のタスク処理時間で言えば従来の半分以下にまで削減されました。これまで1週間かかって練っていた資料作成も、今では半日で終わるようになっています。
小坂:この仕組みは本当に助かっています。施設管理の現場では、判断に迷う細かな対応に思考リソースや時間を取られがちですが、そこを専属のAIエージェントが一次対応してくれる。ツールも統合されたので、私たちが一番大切にすべき「どうやってオーナー体験をさらに良くするか」を考える時間を生み出すための、最高の業務改善になっていますね。
━━ 現地の運営メンバーの動きにも良い変化が生まれそうですね。
竹口:現地の運営メンバーがその場で対応できる領域が、この1年で劇的に増えました。以前は突発的なトラブルが起きると判断が難しかったような場面でも、今ではデータをもとに、その場で迅速に対応・完結できるようになっています。
事前に相談を受けて、専門性が高ければ私たちがすぐにパートナー企業を手配しますが、「これなら自分たちで対応できる」という基礎知識が全社的に底上げされているのを実感します。LCMが直接手を加えなくても高いクオリティの対応をしてくれるので、運営メンバーのみなさんには頭が下がります。
「できるか」ではなく「やってみる」
━━ 現在、新卒・中途を問わず仲間を募集していますが、「自分にこのLCMという役割が務まるだろうか」という不安の声も伺います。どのような方がこのチームにマッチすると思いますか。
竹口:「知らない領域だから」と諦めるのではなく、自ら調べて課題解決までやりきろうと思える人ですね。チームのバックグラウンドも多様で、私自身も26歳で何もわからない状態からスタートしました。新しい挑戦を楽しめる人なら、経歴は関係ありません。
永田:私も土木出身なので、建築や設備の知識はゼロからのスタートでした。大切なのは「できる・できない」ではなく「やる」という覚悟。オーナーの体験を守るために何としてでもやりきる、その責任感を自分ごととして持てるかどうかがすべてだと思います。
━━ それほど高い基準の責任感を持てる原動力は、どこにあるのでしょうか。
小坂:建築領域の執行役員である綿貫さんからよく言われる「建物に愛を持とう」という言葉に尽きます。「自分の家だと思ったら、どうにか工夫して美しく保とうとするだろう」と。メンバー全員が、自分の後ろには誰もいないという当事者意識と愛を持って各拠点に向き合っています。
━━ 最後に、これからLCMチームとして新しくチャレンジしていきたい領域や、今後の展望について聞かせてください。
竹口:施設管理は一般的に「マイナスをゼロに戻す仕事」と思われがちですが、私たちはそこを超えて「AI時代の新しいスタンダード」を自分たちで定義したいと考えています。
現在、NOT A HOTELはヴィラ型の別荘に留まらず、モビリティや商業、まちづくりなど、手がける領域が急速に広がっています。それに伴い、LCMがカバーする領域も2倍、3倍へと拡大していくはずです。だからこそ、テクノロジーによる仕組み化で徹底的に効率化し、そこで生まれた時間を、新しい体験を生み出すためのクリエイティブな時間に使っていきたいですね。
また、新築の開業は華やかな幕開けとして注目されますが、実はそこから50年間、建築を維持・管理していくコストは、建築費の倍にものぼると言われています。今後は、あらゆる領域をプロジェクトマネジメントのように横断してまとめあげるLCMが、もっと注目される職種になっていくはずです。今このタイミングでチームに加わることで、その領域の第一人者になれるチャンスはいくらでもあります。
50年後、100年後もNOT A HOTELの美しい建築が生き生きと残り続けるために、今後もLCMとしてチャレンジを続けたいと思います。