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業務のすべてをノウハウ化し、企業価値を最大化する —— ベテラン社員の静かな挑戦

2016年 春、3ヶ月後に控えた社長交代の発表を前に、ウェブコンサルティング会社ペンシルは新体制の基盤を固めるため22年目にしてはじめて執行役員制度を導入した。そこで、“CKO”としてペンシルの“知識”を委ねられたのが入社12年目の小財治だ。ペンシルが確信を持って任命した小財のバックグラウンドとは。

大学生にもなって初めて気づいた感覚

CKO ——— Chief Knowledge Officer

日本語で「最高知識責任者」と訳される、決して知名度が高くないこの役職に、2016年3月、入社12年目の小財治(こざいおさむ)が就いた。制度開始とともに誕生した3名の執行役員のなかでも、真っ先に決まったのが彼へのミッションだった。

—— ウェブコンサルティングの財産である知識やノウハウを集約し、全社に共有することで品質向上に役立て、企業価値を最大化する。

大層な使命に聞こえるが、本人は至ってあっけらかんとしている。

小財 「CKOだと言われて、最初はKozaiのKだと思ってました(笑)」

熊本県北部で生まれ育った小財は、とくに明確な将来の目標があるわけでもなく、流されるまま高校付属の大学に進学した。当然学業に身が入るはずもなく、寝ても覚めてもゲーム三昧……。そんな生活が一変したのは、気まぐれに原付バイクで鹿児島まで南下したときだった。

あてもなくたどり着いた港で、深夜なのか早朝なのかすらわからないままただぼんやりと暗い海を眺めていた。やがて港では競りがはじまり、朝日が昇りはじめる。競り人の大きな掛け声を聞きながら見る太陽はとにかく輝いていて美しく、普段ゲームのコントローラーを握りしめながら見る光景とは全く異なっていた。

小財 「毎朝流れる時間は同じなのに、こんなにも感じ方が違うものなのかと驚きました。“時間がもったいない”という感覚に気づいたのは、大学生にもなってそのときが初めてでした」

それからは時間を惜しむように興味をもったことになんでも挑戦した。ストリートで歌うこともあれば、アクセサリーを作ることも。なかでも一番やりがいを感じたのが絵を描くことだった。小財の描く絵を気に入った人が次々と作品を買っていき、普通にバイトをするよりも効率的にお金を稼ぐことができた。なによりも自分が楽しい。

小財 「情報誌の挿絵やショーウィンドウのデザインなんかも任されるようになって、どんどん楽しくなっていきました。
一方、そのころ所属していた大学のゼミは、プレゼン資料をPowerPointでもWordでもなく、なぜかHTMLで提出するという変わったゼミでした。これがいまの僕につながっていくとは全く思ってなかったですね」

熊本発 - 東京経由 - 福岡着

2000年4月、大学を卒業した小財は、熊本の印刷会社に就職した。営業職しか募集していないなか、集団面接で「デザイナーがやりたいです!」と言い放ったにも関わらず、なぜか採用された。その理由は配属時に知ることになる。

てっきり紙のデザインができると思っていた小財が配属されたのは、新しくできたばかりのウェブの部署。《絵》と《HTML》が面接官の印象に残り、《ウェブデザイナー》としての異例の採用だった。

当時は印刷会社がウェブ制作を兼ねていることがほとんどだった時代。ウェブデザイナーという職業があることすら知らなかった小財だったが、大学時代に身に付けたHTMLの知識は大いに役立った。しかし、1年後、小財はこの印刷会社を退職する。

小財 「ウェブデザインの仕事は楽しかったけど、若かったこともあり、もっと大きな、全国規模の仕事がしたいと強く思うようになりました」

東京のサイト制作会社に転職した小財は、彼の望みどおり、全国規模の大手企業のサイト制作にも関わることができた。しかし、そこでまた新たな疑問が生まれた。

—— 自分がサイトをデザインすることでなにが達成できて、なにを解決できているんだろう?

案件ごとにクライアントから言われたものを要望通りに作って納品するサイト制作会社では、サイトの効果検証もできないし、求められるのは安定性と生産性だけ。

まだ社会人3年目。そうすることが正しいのかどうかはわからなかったが、小財は制作会社を退職し、自動車ディーラーのウェブチームに転職した。

小財 「効果検証までしっかりやるには自社サイトじゃないとダメだと思ったんです。求めていた環境で、思う存分大型案件の効果検証ができ、それにもとづいてサイトデザインを改善する毎日はやりがいがありました」

しかし、思いもよらずウェブデザイン以外の業務も任されるようになる。

小財 「なぜか上司からプログラムがバリバリ書ける人と認識されてしまって。プログラムは読める程度の知識だったので、焦って駅前の本屋に駆け込んで本をたくさん買いました。

それを通勤時に読み漁る生活を1週間続けたら、そこそこプログラミングもできるようになったんですよ。そんなこともあり、デザインだけじゃなく、プログラミングやコーディング、データベースなど、ウェブ全般の知識が身に付きました」

そうしてできることがどんどん増えていく小財に、会社はもっと期待した。当然、業務範囲は広がる。会社の期待はうれしいしやりがいはあったが、とにかく忙しい毎日だった。自社サイトと言ってもその数は多く、常に大きなプロジェクトが何本も同時に動いていた。

多忙な日々に追われ続けた彼が、3年目にようやく案件が一段落したとき、都会の喧騒から離れ、生まれ育った九州に戻りたいと思うのも自然な感覚だったのかもしれない。そうして出会ったのが、福岡に本社を置くウェブコンサルティング会社・ペンシルだった。

当たり前からの脱却

全国規模、効果検証……。これまでの転職で望んでいたことをどちらも叶えられる、しかも大好きな九州で。そんなペンシルでのウェブプロデューサーという仕事は、未経験ながらもこれまでに身に付けたウェブの知識からなんとかなった。

小財 「自ら課題を見つけ、それを解決していくことに喜びを感じる自分の性格にも合っていたと思います。同僚やたくさんのクライアントにも支えられながら、気づいたら入社から12年。それまで転職を繰り返していたのに、なぜかペンシルではこんなにも長い間働き続けている自分に驚いています」

しかしその12年は、決して順風満帆だったわけではない。営業というさらに未経験の仕事に自ら飛び込んだこともあれば、システム部署のクオリティに納得できず衝突し、専門外ながら自らが作り直すことも。全く未知の領域だったウェブプロモーション部署も任された。

正直、彼が退職を考えたことも一度や二度ではない。

一番強くそう思ったのは、病気が理由で休職したときだった。復帰できるかどうかもわからない状態に、いつクビを言い渡されてもおかしくないと思った。それでも予想に反し、会社は在宅勤務を勧めてくれた。

意図したわけではなかったが、さまざまな部署や仕事、そして働き方を経験した小財に、ペンシルのあらゆるノウハウが集まるのは自然なことだった。

そんなある日のこと、ふと会社の状況を俯瞰した小財はあることに気づく。

小財 「コンサルティングのノウハウが、コンサルタントに属人化しすぎていたんです」

ペンシルは、コンサルティングという業種柄、良くも悪くも個人にノウハウが溜まりやすい。ウェブデザイナーやプログラマーなど、ノウハウの属人化が当たり前の世界で働いていた小財も、当初は疑問に思うことはなかった。

しかし、「あのときどこかにノウハウが集約されていれば、もっと効率的な仕事ができたはずーー」と思い返すことも少なくなかった。

それぞれが尖ったコンサルタントになって欲しいという創業者の思いからすれば、いまの状況は成功なのかもしれない。ただ、組織としてもっと成長するにはそのままではいけないはずだ。

小財 「“尖ること”と“ノウハウ非属人化”。この相反するふたつのことをどちらも実現するには、そもそものコンサルティングレベルの底上げが必要なんじゃないかと感じはじめていました」

そして、そう考えたのは小財本人だけではなかった。

「1を100にするのが僕の仕事です」

通販サイトを中心にコンサルティングを実施し、コンサルティング部署のなかでも一番の売上があるR&D事業部。当時その部署を率いていた倉橋美佳(現:代表取締役社長)が、同じく知識やノウハウの全社共有に取り組みたいと考えたときに、一緒に社内を改革していきたい相手として選んだのが小財だった。

ノウハウの集約だけでなく、それを共有し、社員一人ひとりの知識として身に付けてもらう。これまでさまざまな立場で仕事をしてきた小財だからこそ、それが実現できる。

2013年3月、ペンシルは、コンサルティング業務の底上げを目的とする「パフォーマンスマネイジメント部」を発足した。小財を中心としたメンバーが、ペンシルのノウハウを全社共有するにはどうすればいいのかを考え、事業継続と成長のための品質管理に日々注力している。

小財 「仕事の生産性をあげ、より多くのクライアントを成功させるには、1の仕事を10にも100にもしないといけない。

子育てや病気で継続的な案件に携わるのが難しい人だっているなか、多様な働き方を支援するとう意味でも、知識やノウハウを共有する場を用意したり、ツールを活用したり、テンプレート化するなどして全社に拡散することが必要だと思っています。全体のレベルが上がってこそ、コンサルタントがどんどん尖っていけるんです」

そう語る小財は、CKO就任後も精力的にノウハウの非属人化に取り組む一方、自分の原点でもあるデザインの仕事にも力を惜しまない。

彼が生み出すデザインは会社案内やノベルティグッズ、またキャラクターデザインなど、ペンシルのいたる所で見かけることができ、クライアントを、パートナーを、社員を、そしてなによりも自分を楽しませている。

小財「僕の仕事は、ゴールのない探検みたいなものです」

そう笑いながら、社内の改善点を見つけてはそれにひとつずつ取り組む小財は、大学生のときにもったいないと感じた時間をいまも取り戻すかのようにペンシルを静かに革新し続けている。

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