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【DXセミナー過去回紹介④】DX競争優位実践ラボ 〜防災分野でのAIを用いたデータ解析とDXの最新事例〜

本記事は2021年12月22日に行われた、「DX競争優位推進ラボ~防災分野でのAIを用いたデータ解析とDXの最新事例~」における株式会社Spectee 代表取締役CEO 村上建治郎 様の講演部分とパネルディスカッション部分をインタビュー形式に再構成したものです。

話し手

株式会社 Spectee 代表取締役 CEO
村上 建治郎

<略歴>
米ネバダ大学理学部物理学科卒、早稲田大学大学院修了。
ソニー子会社にて、デジタルコンテンツの事業開発を担当。
2007年に米IT企業のシスコシステムズに転職、パートナーサービス開発マネージャー等を経て、2011年東日本大震災をきっかけに独立し、ユークリッドラボ株式会社(現・株式会社Spectee)を創業。AIなどを活用した情報解析技術で、防災・危機管理分野のソリューションを提供する。
2021年12月、幻冬舎より『AI防災革命 ─ 災害列島・日本から生まれたAIベンチャーの軌跡』を出版。
株式会社Specteeウェブサイト https://spectee.co.jp/

聞き手

早稲田大学グローバル科学知融合研究所 招聘研究員
早稲田大学グローバルエデュケーションセンター非常勤講師 (人工知能とビジネスモデル創出)
株式会社プライムスタイル 代表取締役 
奥田 聡

<略歴>
早稲田大学卒業、朝日アーサーアンダーセン(現PwCコンサルティング)で主に通信・放送の分野の業務プロセス改善を中心とした経営改革業務に携わる。
その後株式会社サンブリッジソリューションズ(現:株式会社サンブリッジ)にてマーケティングストラテジストとして従事。技術シーズの事業化をテーマに大手メーカー・大手ソフトウェアハウスに対するコンサルティング業務に携わる。
2005年株式会社プライムスタイルを創業、代表取締役に就任。広告管理システムの開発・販売から創業し、現在は新規事業コンサルティング、システム構築、オフショア開発、マーケティング支援等新規事業の成功に向けた多面的なサービスを提供する。
その他、ジャパンビジネスモデル・コンペティション実行委員、Founder Institute(米国起業支援組織)の東京ディレクター、複数の企業の社外取締役等を歴任。
北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科博士前期課程修了。

Spectee=SNSxAIで”危機”を可視化する
~自治体・企業から圧倒的な支持を得るソリューションビジネス~

奥田)まずはどんなソリューションを提供していらっしゃるのか、ご説明いただけますでしょうか?

「SNSで収集したリアルタイム情報を整理して発信する」だけでなく、防災分野に特化している点、AIを活用している点はユニークですし、情報の精度やUI/UXも相当に洗練されていると感じました。

村上)ありがとうございます。弊社のSpecteというサービスは、SNSや気象データなど様々データを解析をして、どこで何が起きているか、どういう被害状況なのかをリアルタイムに配信することで、災害の状況を可視化していくサービスです。

その裏側の技術がどうなっているか、簡単に紹介いたします。

たとえば、SNSに動画が投稿されると、その動画の中に何が写っているのかをAIが自動的に判別します。この画像では、AIの判別の結果が画面上で”Smoke”と”Fire”と表示されていますが、このような動画が上がってくると「火事」と判断します。他にも、土砂崩れとか、事故が発生してるとか、道路が冠水しているなど、そういったことを映像や画像の中から自動的に判別して、それが何なのかというのを判断をします。SNSの情報は映像や画像以外にもテキストの情報もありますので、書かれている文章を単純にキーワードとして抽出するだけでなく、文章の中にどんなことが書かれているのか、文脈全体でどんなことを言っているのかを組み合わせて判断しています。

SNSは、TwitterだけでなくInstagram、Facebookなどの情報も収集しています。また、その他のデータとの連携は幅広く行っています。後ほどまた触れますが、雨雲レーダーや台風の進路といった気象データ、自動車のカーナビからの走行データに基づく通行止めや渋滞情報、人の集積や人流データ、更には河川・道路に設置してあるカメラの全国1万か所以上の画像データ、人工衛星データと連動し、データを組み合わせての分析も行っており、災害に関する現在の情報を発信するだけではなく、防災のための予測やシミュレーションも提供しています。

奥田)SNS上の情報には誤解や誇張も多そうですが、データの信ぴょう性はどうやって担保しているのでしょう?

村上)AIが収集・解析したSNSの情報は、その後、かなり細かく専門チームが「人の目」で精査・確認したうえで発信しています。災害が起こった時、防災担当の方が情報の真偽確認をしている余裕はありません。災害が起こった時の対策は一分一秒を争います。防災担当の方が対策に集中できるように、Specteeの情報の信ぴょう性は十分に高いものになっていなければなりません。

奥田)実際のサービス画面はどのような感じでしょう?

村上)こちらがお客様が見ることができる実際の画面の一例です。

IDとPWでブラウザにログインしていただくと、SNS情報や公共の災害情報などをもとに地図上でどこで何が起こっているか、どのようになっているかが瞬時に分かる仕組みになっています。細かくエリアを絞ることもできますし、見たい事象を「気象」「事故」「火災」というようなカテゴリーで絞り込むこともできます。全国の道路カメラや河川カメラ、渋滞情報、気象情報、ハザードマップとも連携していて、まさにリアルタイムの情報です。導入先のお客様では、大きな画面に映しながら情報を見るという使い方が非常に多いです。

国内の情報だけでなく海外の情報も見ることができます。世界中で発生している災害、テロ等を瞬時にとらえて地図上に表示するだけでなく、目的に合わせたデータ分析も可能です。

自治体・官公庁・企業でのNo1導入実績
~災害情報の早期入手のための不可欠のインフラに~

奥田)実際にどのようなお客様がどのような使い方をされているのでしょうか?

村上)都道府県庁の防災部局では、2021年12月時点で47都道府県の内、35の都道府県でご利用いただいています。市区町村レベルでは50以上、政令市から中核市ぐらいの所に関してはかなりの割合でご利用いただいています。その他、政府や官公庁でも使っていただいていて、また警察、消防でもご利用いただいています。

ある消防局の方によれば、最近は119番の電話が入る前に火災の情報がネットに上がるケースが非常に多くなっているそうです。今の若い人はあまり電話自体を掛けなくなっていますし、消防局も情報を早くつかめれば初動に役立てることができます。

また民間企業で利用いただくケースも増えていて、現在約600社に導入されています。鉄道、電力、ガス、通信といった重要な社会インフラ企業様はもちろんですが、最近非常に増えてきているのが製造業のお客様です。「サプライチェーンのリスク管理」ということで、災害等の情報をすぐに確認して、早め早めの対応、場合によってはすぐにサプライヤーを切り替えたりして調達が止まるリスクを減らしたいということです。

その他にも、建設企業様や住宅メーカー様、更には多くの店舗を持つ小売店チェーン企業様でもご利用いただいています。食料や生活雑貨を扱っている大型小売店は、店舗自体が地域住民にとっての生活インフラですから、店舗そのものの被災情報だけでなく、周辺の道路状況等も確認して、店舗に確実に商品が届けられるような災害対策をしっかり行っています。

Specteeには色々な機能がありまして、サプライヤーを登録するとそのサプライヤーの被災状況を通知することが可能です。災害が起こった時、それまでは取引先1社1社の状況を担当者が確認していたところを、瞬時に確認できるようになったということでも、高い評価をいただいています。

Specteeの更なる進化
”現状把握”から”予測とシミュレーション”に

奥田)今後Specteeはどのような付加価値を追求していくお考えですか?

村上)いろいろありますが、SNSの情報だけでなく、道路カメラやIoTのセンサー情報など、様々なデータの組み合わせて解析した情報の提供ですとか、更には被害予測やシミュレーションといったことに取り組んでいます。

例えば、こちらは2021年5月に発表した新機能です。

SNSに投稿された画像から浸水の深さと場所を解析、これに気象庁などが発表している降水量のデータと、国土地理院がオープンデータとして公開している細かな地形のデータを組み合わせます。そうすると、おおよそ10分以内に、10km四方くらいの浸水状況を自動推定して3Dマップを生成します。

リアルタイムに近い災害予測やシミュレーションは、強く求められていたにも関わらず、これまで非常に難しかったものです。

災害が起こった場合、国土地理院も浸水の範囲をホームページに公開しています。しかし例えば2021年8月の九州・佐賀県の六角川氾濫の例でいうと、実際に河川が氾濫したのは8月14日の未明で、午前10時ぐらいには流域は完全に浸水してしまっていました。これに対し、国土地理院が浸水範囲を公開したのは8月15日の午後3時頃です。国土地理院では氾濫の翌日、つまり8月15日の朝に飛行機を飛ばして上空から流域の状況を撮影し、それをもとに浸水の範囲を出しています。このスピード感では、災害誘導には使えません。災害が発生した直後に動かなければ、間に合わないのです。

我々のサービスは、SNSの情報をもとにしてリアルタイムでの浸水範囲の特定ができ、さらに、その後どうなっていくかという予測を出すことができます。

自治体はもちろん、企業様からも高い期待をいただいていることを実感しています。

その他、衛星画像との組み合わせも行っています。SNSの欠点の一つとして、人がいない山間部や夜間の情報が少ないことが挙げられます。そういったところをカバーするために、人工衛星の画像を使って制度の高い浸水情報や浸水予測を出していく、という取り組みを行っています。内閣府の人工衛星の活用の実証プロジェクトにも参加して開発を進めています。

もう一つ実証実験中のプロジェクトを紹介しますと、冬場に起きる道路のスタック(車両滞留)の被害を未然に察知するシステムの開発です。道路に設置されているカメラや車のプローブデータなどを使って、積雪の深さなどの道路の路面の状態や、吹雪やホワイトアウトと言ったものを自動判定しようというものです。

カメラは道路会社や国土交通省、各自治体が設置しているカメラが全国無数にありますので、これを活かすことになります。

起業のきっかけは東日本大震災
~「被災地の情報の偏り」を何とかしたい~

奥田)村上さんが、ビジネスチャンスとして「防災」に着目したきっかけは何だったのでしょう?

村上)2011年の東日本大震災が起こった時、私はシスコシステムズというネットワーク機器の会社に勤務していました。震災から1か月経った4月のある日、私はその2日後にボランティアとして東北に行く準備をしていまして、丁度テレビで石巻のボランティア受付センターからの中継を流しているのを見ました。そこには全国からたくさんのボランティアの人が来ていて、「こんなに人がいるなら今更自分が行ってもやることは無いんじゃないかな」と思いました。

しかし、実際その2日後に、石巻市の隣の東松島市というところに行くと、ボランティアの人は少なく皆さん困っている、という状況でした。石巻市は被災地の中でも象徴的な場所になっていて、テレビ各局がそこに詰めかけて中継する。そうするとボランティアが皆、石巻市に集まってくる。一方で、全然ボランティアが来ていない地域もあって、さらには場所によってボランティアに求めているものも全然違う。そういった地域ごとの細かな情報が従来のマスメディアでは伝わってこないのです。

一方で、Twitterを見ると「ここでこんな物資が不足しています」とか、「ここではこんなボランティアを募集しています」ということが結構つぶやかれていたんです。当時、スマホの普及率は10%程度で、Twitterのユーザー数もまだ多くはなかったですが、それでもこれらのSNS上の情報を上手く整理して地域毎でまとめれば、活用できる情報になるのではないか、と考えました。これが、起業の原点です。

奥田)なるほど。当初は現在のサービスとは少し違った志向していたのですね。現在のような事業はどのような形で展開していったのでしょうか?

村上)SNSの情報をリアルタイムに発信するといった点に最初に注目したのはメディアでした。テレビ局や新聞社ではもう殆どのところが導入していて業界標準のサービスとなっています。その後、自治体向けにこれを広げていこうとしたのですが、こちらはかなり難航しました。自治体の担当者の方は、SNS情報の重要性を理解はしてくれるのですが、組織としてはSNSや新しいツールに懐疑的であったり消極的であったりして、コンセンサスがなかなか取れなかった。

初期のころに導入いただいた豊橋市では、市民の方が参加する防災訓練に一緒に参加させてもらって、市民がSNSの情報を結構見ているということを自治体の方々に理解してもらい、導入に至りました。結構地味な活動を重ね、段々と広がっていった感じです。

奥田)現在のSpecteeは、SaaSとしてかなり完成されたプロダクトになっているように見えますが、最初のローンチからここに至るまでのプロダクト改善はどのように進んできましたか?

村上)最初のローンチ前にも、企業やメディアには「どういったものだったら使えるか」かなりヒアリングを行いました。ヒアリングをして聞いたことをそのまま実装していくことをずっと積み重ねてきたような形です。自治体も同じで、使ってもらうに当たっては色々なコメントや改善要望がくるので、基本的には言われたことをそのまま実装していきました。初期のころから、それをかなり早いサイクルで回しています。豊橋市や神戸市など、協力いただけるお客様は必ずあるので、そこを起点にとにかくお客様の要望をどんどん実装していきました。

それをやっていくうちに、段々と使えるツール・サービスに進化していくので、そのサイクルをいかに早くするかというのが非常に重要だと思います。これは我々がスタートアップだからこそできることだと思います。大企業の新規事業だとそんな簡単にはいかないでしょう。

お客様の声を反映させるというのを続けてきた結果、気が付いたらSaaSのようなプロダクトになっていた、という感覚です。

データを利活用するためのスキルを磨け
~データを集めるだけなく、データを理解することが必要~

奥田)Specteeでは、いろいろなデータを組み合わせて活用している点が印象的でした。一方で、日本はデータの利活用が苦手だとか、データをビジネスにうまく使えていない、という声もあります。今後日本企業が競争力をつけていくために、どのような姿勢でデータに取り組めばよいでしょうか?

村上)データを活用するために必要なスキルには、いくつかの種類があると考えています。データを集める力、掛け合わせる力、データを読む力、背景を知る力、そしてデータに騙されない力と、表現する力。

一例ですが、ニュース記事で「日本は欧米に比べて女性管理職の登用が遅れている」というものをよく見ます。確かに女性管理職の登用比率を比較したデータからは、アメリカやスウェーデンが40%なのに対し、日本は10%位で大きく遅れているように見えます。

一方、別のデータで、「日本は欧米に比べて働く総人口のうちの管理職の占める割合が高い」というものがありました。日本では一般的に課長以上の人を管理職としていますが、欧米社会で管理職というとかなり経営トップに近い層の人を指します。そうすると、「日本は終身雇用がずっと続いていた結果、役職がどんどん増え、もしかしたら”名ばかり管理職の男性”が男性の管理職比率を引き上げているのではないか?」という疑問も生じます。だとすると、単純に日本と欧米の「管理職比率」のデータを比較しても、あまり意味が無いのかもしれない。

データというものは1つだけでなく、2つ3つと掛け合わせないと見えてこないものもあります。そして、何故そうなったのかの背景を考えることも重要です。

日本企業は様々なデータを持っているはずです。その利活用のためには、単純にデータを集めて見るだけでなく、その意味を理解するという姿勢が必要ですが、そういったデータを読み取る力をもった人材が不足していると思います。

(編集後記)

仮にSpeceeが、データを集めてそのまま発信するだけのサービスだったら、これほど利用者に受け入れられることはなかったでしょう。「ユーザの立場に立って、”意味のある”、”利用しやすい”データを提供する。」そんな村上社長の心意気が随所に感じられるお話でした。

ユーザにとって意味のあるデータが何か、については、とりわけ初期段階での、顧客ニーズに向き合って顧客が求めるものをハイスピードで実装していったというエピソードが象徴的です。

そして、ユーザにとっての利用しやすいデータが何か、では「防災担当者は対策に注力しなければならない。だからデータの信ぴょう性はこちらで精査する。」というお話しが特に印象的でした。利用のしやすさとは、単にUI/UXの問題だけではなく、ユーザの価値観や行動指針に沿っていることから生まれるものなのでしょう。

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