2026年2月。TAIANはビジョン、ステートメント、コーポレートロゴなどのコーポレート・アイデンティティ(以下、CI)を刷新しました。その刷新の舞台裏には、どのような対話と発明があったのでしょうか。CI刷新に伴走したNEWPEACEの高木新平さんとTAIAN代表の村田磨理子さんに、新しいCIに辿り着くまでのこと、そしてそれにかけた思いについて聞きました。
村田 磨理子 代表取締役 CEO
株式会社リクルートスタッフィングへ新卒入社後、株式会社ギブリーに転職。両社にて関わったITエンジニアへのHR支援をきっかけに、日本企業の成長とエンジニアリングの融合に関心を持つ。COVID-19感染拡大直前に実施した自身の結婚式でWeb招待状を開発し、時流に後押しされ事業化。2020年6月にTAIANを創業。
高木 新平さん NEWPEACE CEO/ Brand Director
1987年富山県生まれ。2008年米大統領選でのオバマ陣営のキャンペーン「CHANGE」に感銘を受け、日本のビジョンを作りたいとこの道を志す。2011年より全国各地にシェアハウスを展開し、何百もの起業家と対話した経験を生かし、2014年NEWPEACEを創業。「ビジョニングカンパニー」を掲げ、上場前後のスタートアップや老舗企業の代替わりなど、企業変革をビジョン起点のブランディングで導く。
一時は社名変更まで考えた。
感じていた目指すことと印象のずれ
──お二人が出会ったきっかけを教えてください。
村田:TAIANに投資をしてくださっているベンチャーキャピタル、ANRIがCIを刷新したことでそれを手がけた高木さんの存在を知りました。コンセプトも、MVVも、ロゴもとても格好良くて。「ぜひ相談したい!」と思っていた矢先、とある経営者合宿で再びお目にかかることができ、オファーをさせていただきました。
高木:実はこの時「社名を変えたほうがいいのか悩んでいる」ということも相談いただきました。当時のTAIANには「ブライダル業界向けのサービスを提供する会社」というイメージがあり、結婚式の日取りを想起させる社名を変えたほうが良いのではないかと仰っていたんです。社名から提案するプロジェクトは大歓迎なのですが、僕にはTAIANの5文字がとても素敵に見えました。日本文化を表している言葉は、ビジネス用語なんかよりもとても強い。「社名は変えない方がいいですよ」とお返事したのを覚えています。
村田:このやりとりで「高木さんをこのCI刷新の師匠にしたい!」と心が決まりました。実は複数の方にこのCI刷新を相談していたのですが、どうしても「発注する側」「請け負う側」という少し気を遣う関係を抜け出せない感覚があって。私の勢いに気圧されることなく、時には反対意見も出していただけることをとても心強く感じました。
──それで、このCI刷新のプロジェクトが始まったのですね。最初からロゴやウェブサイトの刷新も行うつもりだったのですか?
高木:いいえ。TAIANがシリーズAであることを考えて「アーリーフェーズからお金をかけて全て変えないほうがいいですよ」とアドバイスしていました。例えばロゴを変更したら、名刺、グッズ、ウェブサイトなど全てを変更しなければならないというように、変更範囲も予算も大きくなってしまうからです。僕は企業ブランディングは「言語化→視覚化→表現化」の3ステップで進めるのが良いと思っているので、まず思想を言語化して、必要だと思ったらビジュアルも変更したほうがいい。まずは1、2ヶ月でビジョン開発をやってみませんかと提案しました。
村田:ちょっと個人的な話ですが、私はその時出産を1、2ヶ月後に控えていて。「なんとか出産までに形にしたいな」と思いながら正式に依頼をさせていただいたのを覚えています。
高木:具体的には、まず会社の「WHY」を言語化することにしました。それまでのTAIANには、たくさんのビジョンを表す言葉が溢れていて散らかっている印象だったんです。まずはそれをひとつに絞ることが重要だと考えました。起業家はたくさんの思いを持っているので、それをどんどんアウトプットするわけですが、それが多すぎてやりたいことがぼやけてしまうことがある。散らばった言葉の中から、ひとつ依りどころになるものを見つけられたら、当時の村田さんが抱えていたモヤモヤを解決できるのではないかと考えました。まず最初に、その言葉を見つけるためのディープインタビューをセッティングしました。
村田:できるだけの準備をしてディープインタビューに臨みました。今回のプロジェクトが始まる前に前提の整理をしました。会社として、一大プロジェクトを始める気概でしたので、準備段階から念入りにしていました。憧れのとあるブランド作りに携わられていた方を紹介してもらい、その方と10時間くらい壁打ちをして、ある程度考えを資料にまとめていきました。この時、「お祝い」というキーワードや、「失われた30年」「おもてなし業界への拡大」などのキーワードはすでに出ていましたが、それらをどうまとめていいか自分自身もわかっていませんでした。
インタビューで見えてきた、「結婚式」と「失われた30年」の接続
──ディープインタビューでのことを教えてください。
村田:このインタビューでの最初の気付きは、当時感じていた「違和感」や「ずれ」の正体が明らかになったことでした。当時のTAIANは、よくも悪くも最初に持たれる印象と、入社して感じる印象にずれがありました。その主な理由が「ブライダル業界と歩みを進めていきたい会社」だと思われていたことです。ブライダル業界は私たちの原点でありコアではありますが、それ「だけ」をやりたいわけではない。私が見ているのは日本の「失われた30年」を取り戻したり、日本を再興させる未来なのに、それが「ブライダル業界をサポートする会社」という印象とつながらないことにモヤモヤしていたことがわかりました。
高木:僕は、村田さんの「WHY」をもっと知りたいと思いました。「失われた30年」と「結婚式」が僕の中でずっとつながらなかったからです。そこで、村田さんの結婚式の経験や、そこで考えたこと、業界への思い、日本の未来に対して感じていることなどを深掘りしていきました。道筋が見えてきたのは、結婚式の経験を話していただいた時です。村田さんは結婚式の「形式」を重視しているのではなく、そこで人と人が集まって互いに祝い合う一体感を大切にしている。そういった場で生まれる熱量により、日本の未来が良くなると考えていることがわかりました。考えてみれば僕自身もそういう場で人生が動き出した経験があり、「なるほど」と腹落ちしました。そこで考えたのがこの図です。
──これは大きな発明ですよね。この図を解説していただけますか?
高木:これまで「失われた30年」は人口減少、経済の停滞の方を語られることが多いものでした。しかし、村田さんは、その原因を「人と人のつながりの希薄化」にあると考えている。その仮説が、ユニークで興味深いなと思いました。確かにグローバリゼーションの波によって、日本が失ったのは身体的なつながりかもしれない。リアルに人とつながり、熱量を共有することでそれをよいサイクルに変えられるという村田さんの思いを表しています。
村田:この図により、私のやりたいことが明確になりました。起業するからには半径5m、10mの小さな世界ではなく、日本全体を変えたいという欲求を私は持っている。そのことには気づいていましたが、それと今やっている事業がどうつながっているのかを自分でも言語化できていなかったのです。この図により、今の事業の根幹である「結婚式」をはじめとするお祝いの場が、日本再興にどうつながっているのかが明確になりました。
あらためて明らかになった、TAIANの使命とアプローチ
──ここからは、ビジョンとステートメントについて教えてください。
村田:ビジョンは「祝祭で世界を動かす。」いくつかの案の中からこれを採用しました。今とこれからのTAIANを表す最高のビジョンだなと誇らしく思っています。
高木:「祝祭」という言葉は、村田さんが考えているお祝いを表現するものとして提案しました。「お祝い」と意味することは同じですが、村田さんをはじめとするTAIANの思いはボールドな印象。事業領域的には優しさの溢れる世界線ですが、ひらがなが入るような感じじゃないんだよな、と考えて見つけた言葉です。「祝祭で世界を動かす」という語感も、心に響く感じを大事にしました。
村田:この言葉のすごいところは、社内に新しいビジョンとして発表したその日に、社員全員がこの言葉を覚えたことです。それまでのビジョンは......実は私ももう一言一句はしっかり思い出せないのですが、浸透力に課題がありました。この言葉の力強さを感じました。
高木:以前のビジョンが思い出せないって、最高の褒め言葉です。
──ステートメントについても教えてください。
村田:これは、最初に提案いただいたものを修正していただきこの形になりました。こだわったポイントは、具体的な社会課題を盛り込むこと、それを解決しようとする私たちの直球の思い、そして「祝祭」の情景を表すことです。このステートメントができたことで、ビジョンだけでは伝えきれない具体的な課題や、目指すものが明らかになったと思います。特に、何でもオンラインで済ませられ、当たり障りのない人間関係がよしとされる現代において、リアルの場にしかないポジティブなエネルギーを信じていることが伝わるところが気に入っています。
高木:ビジョンができた時点で、村田さんはやりたいことが明確になりとてもすっきりしたと思います。しかし、社員やステークホルダーは言っていることが大きいため、それに追いつけないかもしれない。このステートメントにより、誰もが村田さんのビジョンとその実現方法を共有できるようになりました。
──そして、ウェブサイトにも掲載されているこの図ですよね。
村田:これは、これまで私たちが「おもてなし産業へ拡大していく」と伝えてきたことをさらに明確にしてくれた言葉と図です。結婚式を中心とした祝祭市場には、レストラン、ホテル、旅行、ギフト、宴会、会議合わせて20兆円のマーケットがある。私たちはブライダル業界の課題解決ではなく、新しい市場を創出する担い手であると表明した図です。
高木:そして、この市場の体験をより良くしたり、特別にしたりするプロダクトの数々がAIにより支えられていることを「AI for Celebration」というサービスコンセプト(開発方針)でまとめました。
大きなビジョンを掲げ、日本を、世界を動かしていく
──CI刷新におけるビジョン、ステートメントをはじめとするワード開発で最も印象に残っていることは何ですか?
村田:ビジョンやステートメントはもちろんですが「祝祭市場」という言葉を作り、その概念を示すことができるようになったことです。半年前にふたつめのプロダクト「Canjii」をリリースした時、いよいよ自分のやりたいことが周りに伝わらなくなったという危機感がありました。ブライダル業界という一貫性も失われ、整合性がつかなくなってきたように見えて、周りには私の目指すことの10分の1も伝わっていなかったと思います。それが言葉の力でこんなにもわかりやすくなったことに感動しました。そして、改めてその真ん中にブライダル業界があることも示せてとてもよかったと思います。ビジョンやステートメントは、一瞬で社員が腹落ちしてすぐに社内で使われるようになりました。これも言葉の力だと思います。
高木:このリブランディングで一貫して大切にしたのは、村田さんの力強く、大きな思いがドンと伝わることです。目先の小さなことではなく「目指してるのはあっちだよ!」と大きな目標を掲げることができてとても良かったと思います。何より、村田さんは、それを実現できる器を持っていますから。
写真・文:出川光(ノンブル社)
デザイン:Ayaka Momose(TAIAN)