今回は、Teach For Japan(以下、TFJ)のフェローシップ・プログラムの第10期生で、現在は赴任先だった公立小学校で教員としてご活躍の新田悠太さんに登壇いただきました。自身のアイデンティティを形作る大きな要因の一つである吃音(きつおん/遺伝性の発話障害)を強みにできる仕事がしたい、という思いを持たれていた新田さん。“新卒・教員免許なし”からフェローシップ・プログラムに参加されたお話を、ぜひ最後までご覧ください。

新田悠太さん(フェロー第10期生/小学校赴任)
高校生の頃から何らかの立場で社会を変えたいと考え、その選択肢を広げるために早稲田大学政治経済学部に進学。大学では、政治哲学(社会正義)を専攻し、貧困や差別などの構造的暴力を中心に学びを深めた。その後、コンサルティング会社を中心に就職活動を行ったが、一般企業に就職することに対して違和感を覚え、1年間の休学を決断。休学中は日本各地を旅したり、幼い頃からの夢であった作家の夢を叶えるために出版コンクールに応募するなどをしながら、「自分が何をやりたいか。」を考え続けた。その後、自分のアイデンティティを形作る大きな要因の一つである吃音を強みにできる仕事がしたい、自分の言葉を使って誰かの力になりたいという考えに行き着き、教員を志してフェローシップ・プログラムに応募。赴任後は子どもたちとの関わりを通じて、改めて自分の吃音が教職という場で強みになることを実感し、教員を続けたいと考え、小学校教員認定試験で免許を取得。また、赴任先の自治体の魅力に気づき、その街に恩返しがしたいと考え、地域活性化を行う団体に所属し、教員をしながら町づくりイベントなどに携わっている。
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目次
ー自己紹介をお願いします。
第10期生の新田悠太です。2024年の3月にフェローシップ・プログラムを修了し、現在も教員を続けています。自分は吃音を持っているので、発言が聞き取りづらい部分もあると思いますが、よろしくお願いします。
悩みを抱えた大人の存在が、誰かの希望になるのではないか
ーフェローシップ・プログラムに参加する前のことを教えてください。
大学では政治や経済を学びながら作家を目指しており、出版コンクールに応募していました。作家を目指した理由は、文字で自分を表現したいと思ったからです。小学生の頃から吃音がコンプレックスで人と話すことに抵抗があり、読書に費やす時間が多かったことが影響しているかもしれません。
ー作家から教員へ夢が変わった経緯を教えてください。
大学3年生で就活を始めたものの、一般企業に勤めることに迷いを感じ、自分を見つめ直すために1年間休学しました。休学中は国内を旅しながら執筆活動を行い、出版コンクールに応募する生活をしていましたが、残念ながら成果が出ませんでした。
自身の進路を考えた時、ふと一番苦しかった小中学校の思い出が湧き上がってきたのです。あの時は自分を理解してくれる先生に出会えず辛かったけれど、「もしも自分と同じようなコンプレックスを抱えている大人が身近にいたら、気持ちが救われていたかもしれない」と思うようになりました。
子どもの頃に持っていた教員のイメージは、なんでもできる完璧な人。しかし、コンプレックスや悩みを抱えた先生がいても良いのではないか?その存在が、誰かの希望になれるのではないかと思い至りました。学校は吃音という個性が生かせる場所ではないかと感じ、教員に挑戦してみようと決めたのです。
教員になる方法を調べている時にフェローシップ・プログラムの存在を知り、これだ!と思いすぐに応募しました。
ーフェローシップ・プログラムに参加することに不安はありましたか。
教員は人前で話す仕事なので、自分の吃音が通用するのか、職場に迷惑がかからないか不安でした。しかし、自分の直感を信じてTFJを見つけた日に応募しました。
ー赴任前研修の中で印象的だった出来事はありますか。
最も印象的だったのは「教員になって社会を変えたい」という志を持った方々に出会えたことです。参加者のみなさんは自分の吃音を自然に受け入れてくれて、教育現場では強みになると言ってくれました。自分が感じたことに自信がついていく時間だったと思います。
脳科学の研修で学んだ知識は、日々の授業や学級経営において役立っています。子どもたちへの問いかけやアクティビティを考えることの参考にしています。good&new(※)は自分のクラスでも実践しています。
※人間の脳はネガティブバイアスに傾きがちなので、24時間以内に起こった良いことを他人と共有することで、ポジティブなことに目を向ける習慣づけを行う取り組み。
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自ら率先して努力する姿を見せることで、温かい雰囲気の学級になった
ー赴任当初の目標やビジョンを教えてください。
教育における自分のビジョンは「子どもたちが持っている可能性を本気で信じること、そして、子どもたち自身も自分の可能性を本気で信じ続けられること」です。このビジョンは赴任当初から現在まで変わっていません。
ー赴任中に力を入れた取り組みを教えてください。
赴任先は福岡県の公立小学校です。最初の2年間は特別支援学級にて、4学年最大7人の生徒を担当しました。

力を入れた取り組みは、心理的安全が確保されたクラス作りです。具体的には、学級びらきのタイミングで自分が持つ吃音の話をしました。話すことが難しくて苦手だけれど、努力するので一生懸命聞いて欲しいと伝えました。その後の学校生活において、言葉がつっかえたり出なくなったりしても、子どもたちは誰1人笑わずに話が終わるまで待ってくれました。
その雰囲気が温かい教室作りにつながったと感じています。困っている友達や失敗した子に対して、子どもたち同士で温かい対応をするようになっていきました。
ー赴任して大変だったことはありますか。
1番大変だったのは赴任直後の4月です。プログラムで学んでいたけれど、現場では始業式までの5日間はバッタバタで、周りの先生もやることが多いので指示がもらえず、自分が何をすればよいかわからず困りました。
その状況を打開するため同僚の先生にたくさん質問をし、回答やアドバイスを自分なりに解釈して行動し、その行動があっているかどうかフィードバックをもらうようにしました。例えば、自分がやろうとしている授業を見て意見をくれないかと同僚の先生に依頼したなどです。
職場のメンバーは吃音を自然に受け入れてくれて、特別扱いせずに接してくれました。とてもいい職場に巡り合ったと思います。
新しい挑戦のひとつひとつが自信につながる
ー現在取り組んでいることや子どもたちとの思い出を教えてください。
現在は引き続き赴任先で勤務しており、通常学級(3年生)の担任をしています。特別支援学級とやることが違うので、4月は右も左もわからない新人の気分でした。

いま力を入れている取り組みは、困っていそうな生徒や気になる生徒の言動の真意をよく考えることです。表面上の言動だけを見るのではなく、子どもたちの深層心理を考え、子ども目線にたって判断するようにしています。
また、誰が見てもわかりやすい授業を心がけており、板書や教室の掲示物などは特別支援学級で得た経験が役立っています。
3年生のクラスにおいて、子どもたちが変化したと感じたのは大縄跳びでしょうか。学校全体で注力している活動なのですが、自分のクラスを1位にしたいと宣言し毎日練習しました。毎週記録を取るのですが、4月は3分で50回だったのが、最後の記録会である12月は3分で192回飛べるようになり、それまでトップだった6年生よりも多く飛んで1位になったのです。
努力が成果につながったことで、生徒は自信をつけました。また、全員で記録の更新を目指すという共通の目標を持ったことで、失敗した生徒にもポジティブな声かけがあり、クラスとしての団結力も高まったと思います。
ー学校現場で得た学びや変化はありますか。

自分自身に自信がついたことが1番の変化だと思います。担任としてクラスの生徒達に話すだけでなく、体育主任という立場で運動会で全体に指示を出したり、全校朝会で話したりする機会も多くあり、これまでの自分ではあり得なかった経験のひとつひとつが自信につながっています。
ーフェローシップ・プログラムに参加して良かったことはありますか。
今年度の運動会後に保護者からいただいたアンケートを見た時に、自分が力を入れてきたことが報われた、頑張ってきて良かったと感じました。
アンケートには、「吃音の先生が堂々と人前で話していたこと、音がとんでも児童は落ち着いて耳を傾けていたこと、保護者も先生も自然に受け入れていた姿に感動した。話し方や話すスピードが人によって違うことを子どもたちが知る機会があるのは貴重である。」とありました。
ー今後の展望を教えてください。
フェローシップ・プログラム修了後も教員を続けているのは、赴任2年目の後半に、学校側から「来期は通常学級を任せたい」と言っていただいたのが大きいです。今後も教員を続けようと思っています。また、フェローシップ・プログラムを経て地方に可能性を感じているので、様々な地域で教員をしながら地域おこしをしていきたいです。
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Q&A
Q:教員免許はどのように取得したのですか?
A:自分は教員免許を持っていませんでしたが、フェローシップ・プログラム中に小学校教員資格認定試験を受けて免許を取得しました。TFJプログラムの場合、有効期限のある臨時免許などを取得して赴任する場合もあるそうです。
Q:吃音を持つ生徒・保護者と関わる機会はありましたか?また、良い支援となったエピソードがあれば教えてください。
A:自分が受け持つクラスに吃音の生徒が1人います。その生徒の保護者と個人面談した際、自分が吃音であることを伝えたらとても驚いていました。吃音があっても教員になれるということは、自分の子どもに対してポジティブなことだと言っていただきました。また、吃音の生徒は発表なども積極的に行う子でして、吃音をネガティブに捉えていない印象です。吃音だからといって特別な支援はしていません。
Q:吃音を持つ教員として、大変なこと・良いことなどリアルな思いを聞きたいです。
A:大変なのは電話対応です。特にかかってきた電話に対して定型文を話すことが難しいですが、数をこなすうちに上手くなってきています。国語や道徳の文章の音読は、ICTの読み上げ機能を活用しています。
Q:赴任前研修時の収入面はどうされていましたか?
A:自分は新卒でフェローシップ・プログラムに応募しました。当時は学生だったので、収入面では問題なかったです。
Q:赴任前研修で大変だったことは何ですか?
A:模擬授業でしょうか。未経験だったので準備が大変でしたが、挑戦できるという楽しさの方が大きかったです。
Q:教職課程を取らなくても多彩な小学校の授業に対応できるのでしょうか?
A:元々知らないことを知るのが好きな性格なので、図工や体育など未知の授業を行うために勉強できたことが楽しかったです。やったことはないけれど、自分も新たに学ぶ姿勢があれば大丈夫だと思います。
Q:小学校教員資格認定試験の勉強はいつやっていたのですか?
A:勉強期間は5ヶ月程度です。赴任先での研修前後の時間を全て使っていました。
ー最後にメッセージをお願いします。
少しでも「いいな」と思ったら、その直感を信じて飛び込んで欲しいです。
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