仕組み化が重視されがちなホテル業界で、UDS HOTELSが追求しているのは、一人ひとりの「個性」。
「ホテリエと個性」は、自分らしく働きながら、ホテルに新しい風を吹き込むスタッフの物語です。マニュアルを超えた先にある、一人ひとりの挑戦と探求をお届けします。
パティシエとしてのキャリアを歩みながら、一度は挫折を経験した猪鹿月 ゆう(いかつき ゆう)さん。「企画力がない」と自覚し、まちづくり会社UDSへ入社を決意しました。
現在はSOKI ATAMIの茶寮(ラウンジ&バー)を任され、カクテルやデザートの開発で売上を2倍に。さらに里庭のハーブを活用した商品開発も手がけています。「パティシエを辞めたという認識はない」と語る彼女が、UDSで広げている枝葉とは。
猪鹿月ゆう ホテル事業部 SOKI ATMAI
2024年に中途入社。地元福岡より製菓専門学校に進学すると同時に上京。都内のパティスリーやレストラン業態でパティシエとしてキャリアを重ね、NEWoMan横浜「Nood e」ではパフェ部門に開業より参画。現在はバーテンダーとして勤務しながら、個で活躍できるマルチなパティシエを目指しイベント企画やカメラなどのスキルアップに邁進中。
好きなホテルは、bar hotel箱根香山。
売上2倍の裏側にあるトライ&エラーの楽しさ
──入社から一年ほど経ちましたが、SOKI ATAMIの茶寮を任され、売上を約2倍に伸ばしたと聞きました。
今年の2月から茶寮を任せていただくようになって、カクテルやデザートの開発をしています。おかげさまで、月の平均売上は1.5倍になり、かき氷を出した夏の月は2倍以上の売り上げになりました。
──どんなかき氷を出したんですか。
静岡の抹茶と和漢チョコレートのシロップをかけたかき氷です。
もともとHAMACHO HOTELにあるnel CRAFT CHOCOLATE TOKYOのチョコレートが好きで、商品として使わせてもらっていました。今回、nelがチョコレートのかき氷を出すタイミングにジョブトライアル制度(他事業部・他拠点への研修)で実際に行って、つくり方や仕込みを教えてもらい、茶寮でのかき氷づくりにつながりました。
──接客だけでなく、かき氷などの商品開発もされているんですね。
試行錯誤するのが好きなんですよね。トライ&エラーが、ただただ楽しい。かき氷と一緒にドリンクも考えて開発してみたら、ドリンクばかり注文される日があって、普段も出すことにしてみたり。当初の想定とは違うことが起こることも楽しくて、ずっと考えていられるんです。
茶寮のメインであるカクテルは、2〜3ヶ月に一度は新しいメニューを出しています。元々パティシエをしていたのですが、カクテルとデザートは似ている部分がある。ふとデザートのことを考えていてカクテルを思いつくこともあるし、実際にゲストに接客する中で聞いてみることもあります。
──カクテルとデザートはどう似ているんですか。
味の組み合わせですね。オーセンティックバーのクラシックなカクテルになってくると違うかもしれないけど、アルコール度数が控えめで飲みやすいものだと、発想の仕方が一緒な気がします。スパイスとかフルーツとか、アイテムが一緒なことが多い。
──入社からこれまで開発した中で、お気に入りのカクテルはありますか。
アマゾンカカオのショコララテですかね。パティシエの時からお世話になっている軽井沢のレストラン「LA CASA DI Tetsuo Ota」のシェフから無農薬のカカオを買わせてもらっています。ペルーのカカオ農家の生活を豊かにする為にブランドを展開していて、チョコレートというよりもフルーティーな果実としてのカカオの香りが豊かなんです。
海外のゲストもよく頼んでくれて、最も出ているカクテルです。先日も、娘さんがクラフトチョコレートのお店をやっているというご夫婦がいらっしゃって、すっごい美味しかったって喜んでくれて口コミにも書いていただきました。それは心から嬉しかったですね。
「企画力がない」と気づいた挫折が、入社の決め手になった
──小さい頃からスイーツをつくってきたのですか。
お菓子やスイーツをつくり始めたのは小学校3年生のときです。よくある話ですけど、バレンタインにチョコをつくって食べてもらえて嬉しかったみたいなのがあって。そこからスイーツをつくり続けて、専門学校へ入るタイミングで上京してきました。
新卒で入ったところはラグジュアリー系のケーキ屋さんで、当時はほぼ毎日徹夜していました。入社してみたら他のスタッフはすでに退職されていて、私しかいない……みたいな笑。そこで行動力はつきましたが、誰も教えてくれない環境で、納得いっていないものをお客さまに出さなきゃいけないのが苦しくて辞めました。
半年くらい飲食店のサービスをやったあと、でもやっぱり自分でつくりたいなって思って、パティスリーで働き始めました。そこではじめて、チームで仕事をすることやシェフがいる素晴らしさに感動します。例えばチョコペンもシェフの許可が出ないと実際に出せないとか、私にはそういうのがめちゃくちゃ嬉しかった。
その後、つくるだけじゃなくて飲食店の運営やマネジメントに興味が出てきて、別の会社でパフェのお店の立ち上げを経験しています。開業後はそのお店でパティシエをしながら、ブランディングや集客も行っていました。
──UDSに入社したきっかけはなんですか。
自分の枝葉を広げるためです。立ち上げをしたお店を辞めてから、一年くらい自分で飲食の企画やイベントをしていました。ただそこで、企画力がないなって思ったんです。
ありがたいことに人の縁に恵まれて多くの方に来ていただいたし、サービスは得意かもなと自信に繋がりました。ただ、来てくれた方のご厚意に甘えてしまったり自分だったらこの金額でこれを買うかなとか、申し訳ない気持ちが生まれてしまった。
来てもらえるのが申し訳ないって、すごく失礼なことだなと思って。そこで企画の仕事に興味が湧いたし、提供するものだけじゃなくて、全体を組み立てられるようになりたいと考えるようになりました。
あとは、飲食店ってまちづくりとも繋がっていると思っているんです。私が何年も通っている居酒屋さんでは、地域の人がただ脚立を借りに来たり、子供達の憩いの場になっていたりする。そういうまちに愛される飲食店が最終的に生き残っていくんだろうなと思った時に、「企画」と「まち」というキーワードが合わさってUDSが出てきました。
──一度挫折を経験しているんですね。
これでも上京してくる時に、10年あれば自分でお店ができるかなって考えていたんです。でも始めてみたら、始めるのがゴールじゃないって気づいた。
前職ではお店の立ち上げをして、集客から商品開発をして認知されるまでの過程を過ごして、3年で売れるお店になった。私のファンになってくれる人も増えて、自分でできるかもって思っちゃったんですよね。でも、イベントやっている時に、お客さまに甘えている自分に気づいて、鼻が伸びている自覚をしたんです。UDSに入る時には、伸びた鼻を自分でバキって折って、「なんでもやります」って言いました。
──自分でそこに気づけるのは強い人だなと思います。
里庭という「宝の山」で、枝葉を広げていく
──SOKI ATAMIでは、茶寮の他にも里庭に関わっているとか。
里庭にはたくさんのハーブがあって、なんでも出来るんです。わさびのジンフィズというカクテルをつくった際には、里庭のミントをシロップにして、琥珀糖にして一緒に添えました。
また、アニバーサリープランを新たに売り出した際には、ケーキの下皿に里庭のハーブを散らすようにしました。買ったものに比べると、フレッシュなハーブは香りが強いんです。
──庭のあるバーなんて、他になさそうですよね。
本当にそうですね。庭をいじるのは楽しくてリフレッシュできるし、全てが勉強になります。パティシエの時にいつも使っていたフルーツは、この時期に花が咲いて、この時期に実がなるんだなとか。私にとって里庭は宝の山です。
──入社理由を実現し、実際に枝葉を広げていてすごいです。
今後に活かしていけると思うと、庭はいいですね。食材に対する考え方が変わります。
ただ、庭をいじっていてもカクテル開発やサービスがメインになっても、パティシエを辞めた認識はないです。パティシエをしているときも、デザートをつくる人がパティシエというわけではなくて、その時間をどう楽しんでもらうかとか、どういう風に食べて欲しいかを考え、あくまでサービスとしてつくっていました。全てをそこに還元していきたんです。
ドリンクも前職ではつくれなかったし、茶寮で崩れてしまったケーキを綺麗に直してあげたら「サービスなのにケーキもつくるれるの?」ってゲストに感謝されて、逆に驚いたりもする。トータルサービスって考えると、今の経験は一つ上の段階にいけているのかなと思う時もあります。
──パティシエの知識や経験があって、その上に空間や体験も含めたサービスがある。今後は、さらに「企画」や「まち」へ枝葉を広げていきたい?
はい。「企画」も含めた空間づくりまでやりたいですね。せっかくUDSに入社した以上は、多様なプロジェクトがあるのが強みだと思っているので、30代の大事な時期にそこへ挑戦していきたい。
──最終的には戻る場所としては、パティシエなんですか。
これまで、サービスをやったけどパティシエに戻ったし、運営をやったけどパティシエに戻りました。これからは、企画や空間づくりをした先に、パティシエに辿り着けたらいいのかなと思っています。
「茶寮は、私の空間」気持ちを乗せたサービスが価値になる
──茶寮ではゲストとどんなコミュニケーションをしているんですか。
私のエゴなんですけど、せっかくお話しするなら、私の話も聞いてほしいと思っています笑。
もし自分がやるんだったら、一番苦手なのはコンビニの接客なんです。文言が統一されると業務的になってしまうし、人が聞いてない言葉を発するのって悲しいですよね。特にウェルカムドリンクの説明は、チェックインで疲れていて聞き流す方が多い。
なので、興味を持ってもらえたところから話したり、声の抑揚を変えたり、ある意味で期待を裏切ってみる。相手の目を見ながらお話するのが好きです。
あとは単純に、普段生活していてお会いしないような方が多いので、好きで色々と聞いちゃいますね。
──お店ってロジカルにつくれてしまうだろうけど、本当に良いと思えるお店って、ロジカルさを超えた熱量が滲み出ているところが多い。猪鹿月さんのゲストに対する思いの強さや誠実さはそんな感じがします。
仕事している時は、「茶寮は、私の空間だ」って思っています。私自身好きな空間なので少しでも長くゆっくり過ごしてほしい。ウェルカムサービスで出しているものでも、そこに気持ちを乗せれば、もの以上の価値はあるのかなって思っています。
──最後に、どんなひとと働きたいですか。
なにか突き抜けているひとや、自分でやりたいことがあってそれを具現化したいと思っているひとと働きたいです。
商品の企画をするときも話し合うのが好きで、ひとの知識が入ってくると、アイデアは2倍にも3倍にもなる。何かが生まれるのは些細なきっかけが多いし、意識してつくろうとしている時よりも、世間話から生まれることの方が多いと思っています。自分から何かを発するひとだと楽しいし、もっと話を聞きたいって思えますね。