昨年に引き続き、2018年も「働き方」が私たちとシゴトの関係を語る上での大きなキーワードとなりました。それと同時に、新たなキーワードとして浮上してきたのが「パーソナルブランディング」という概念。
企業名や役職よりも、「あなた」の個性とポートフォリオがモノを言う......そんな〈個人経済〉の幕開けとも言えるこの時代を、「週7でふんどし」というタグラインを名刺に刻んで突き進むWantedly Peopleユーザーに出会いました。
その人物とは、Google Cloud Platform™️ プレミアサービスパートナーであるクラウドエース株式会社にマーケターとして勤めながらも、一見すると共通点が無いように見える異分野での兼業でも活躍している杉山 裕亮さん(※)。 杉山さんとの会話を通じて、SNSのフォロワー数だけでは測れない“個人のブランド価値”について考えていきます。
もはや下着ではなく、相棒だ。
ーー Wantedly Peopleのユーザー会でご披露いただいたエピソードも会場内の共感を集めていましたが、杉山さんとふんどしとの関係について、改めてご説明をお願いいたします。
自分が名古屋でフリーランスのマーケターをしていた3年前に、「女性の健康のために何かしたい」という女性に出会いまして。ちょうど当時はメディアを通じて「健康的な下着」としてふんどしが再認識されていた時期であり、ワコールさんも女性向けふんどしを販売するなど、業界に注目が集まっていました。
自分はマーケターとしての興味から色々と市場分析をしたのですが、当時すでに月間で数千着が売れるほどの市場があり、その購買者の多くが女性なのに、ふんどしメーカーの代表は男性ばかりだったんですね。「女性が代表であり、自らモデルも務めるふんどしブランドがあれば売れるぞ」ということで、その女性を中心にオリジナルブランドを立ち上げました。
杉山さんが立ち上げたふんどしブランド、「RASHISA」を紹介するページ
その事業は、約半年で製品を販売するところまで行き、その後は同業と業務提携する形で区切りがつきました。今ではその会社の相談役を受けて、新たなふんどしのブランディングに取り組んでいます。
なので、僕にとってふんどしは、愛用している下着でもありつつ、それ以上にビジネスパートナーでもあります。もはやふんどしなしでは生きられませんし、実際にふんどし以外のものを履いている日はお腹の調子が悪くなるくらいです(笑)
ニッチなキーワードが関心を呼ぶ
ーー 名刺にも刻まれている「週7でふんどし」というキャッチフレーズですが、普段お仕事をする上でどんな反響がありましたか?
僕が在籍するクラウドエース株式会社には名刺に必ずキャッチフレーズを入れるというルールがあるので、僕も入社時に「小池栄子と誕生日が同じ」もしくは「週に3日はふんどし」の二案を提案して、後者を選んでもらいました(笑) その後、ふんどし事業に関わる機会が増えたり、兼業での激務に耐える体調管理の必要に迫られ、毎日履くようになってからは名刺のフレーズも「週7でふんどし」に変えました。
キャッチフレーズの効果は絶大で、名刺を交換した人には必ずと言っていいほど食いついてもらえますし、メールの署名にも同じキャッチフレーズを入れているので、会ったことがない人からも是非話を聞きたいと言われたこともあります。僕は長年ふんどしについてプレゼンしてきた経験があるので、話をすればするほど興味を持ってもらえる自信がありますし、アイスブレイクにはこれ以上ない話題になってくれます。
ーー確かに、2回目以降も「ふんどしの人」として思い出してもらいやすくなりそうですね。
そうですね。やはり、ふんどしについて詳しい人がほとんどいないことは強みだと思います。これだけニッチな話題だと、経験も知識も豊富なエクゼクティブ級の方とお話しする際にも臆さずに立ち向かえるんです(笑) それに、「下着の話をするくらいの仲」に初対面からなれるということには想像以上のアドバンテージがありましたね。「会話の内容に応じて関係性を承認する」という人間の性を味方につけることができていると思います。
関係性構築ということで言えば、社内のコミュニケーションにもふんどしは大いに貢献してくれています。実は、自分は30歳になって今の会社に就職するまでずっとフリーランスで頑張ってきたのですが、初めて所属した会社で他のメンバーと打ち解けるきっかけをくれたのもふんどしでした。
今では、僕の呼びかけで始まった社内のバーイベントは「ふんどしナイト」と呼ばれていたり、先輩社員の中には「週末はふんどし」と名刺に書いて営業先でウケたメンバーもいたりするぐらいで、社内外でポジティブな反応が連鎖しているのは嬉しいですね。
正直に、「WHY」から伝えよう。
ーー名刺以外で、ご自身の人となりを理解してもらうために、意識されていることはありますか?
うちの会長がよく「正直力」ということを言うのですが、流行り物に乗っかって自分を取り繕っても浅いし見透かされてしまうから、正直に生きて正直に仕事をするのが一番だということだと解釈しています。著名人でもなんでもない、ごくごく普通の人たちにとっての「自己ブランディング」とは、「自分を表すキーワードを偽らずまっすぐに語ること」なんだと思いますね。
名刺に載せるキャッチフレーズや、Wantedlyのプロフィールに書く一言だって、偽らずに、自分の好きなことを書けばいいと思います。「好きなこと」ならたくさん話せますし、価値観を共有することによって関係の「質」をあげることができますしね。
ーー「ふんどし」で人の懐に入り込んできた杉山さんならではの発想ですね。価値観を他者と共有するのはなかなか難しいことではないですか?
僕は、「自分がやっていることを『WHY/HOW/WHAT』に分けて伝えること」「誰にでも好かれようとしないこと」「聞く姿勢を持ちながら、相手の話に自分を関連づけること」の3つを心がけるようにしています。
特に、「WHY」から伝えることは大切ですね。「共感」を通じて相手から提案や行動を引き出すためには、「何をやっているか」よりも「なぜやっているか」を理解してもらうことが一番重要だからです。そうやって自分のことを理解し応援してくれる人を増やせば、自然といい出会いの機会にも恵まれるというのが僕の考えです。
「人脈構築だ!」といって誰彼構わず名刺を集めたり、「自己ブランディングだ!」といってSNSのフォロワー数をむやみやたらに増やしたりすることにさほど意味はないので、「数」よりも「質」を重視してつながりを深めるようにしています。
〈未来〉でつながる共感もある。
ーーつながりの「質」を深めるために、具体的にどんなことを心がけていますか?
よく地元の同窓会なんかに行くと、「みんな変わらないねー」とか「当時に戻った気分だわ」とか、そういう会話になりますよね。これは〈過去〉でつながったコミュニティで、それもそれで得がたいつながりだと思うのですが、僕は同時に〈未来〉志向のつながりも大切にしたいと思っています。
例えば自分の場合、20歳の時から地元である岐阜県下呂市の市長になるという計画を立てているのですが、「なぜ市長を目指すのか」というWHYを共有している人とは、お互い別々の仕事をしていて、会う頻度がまばらでもしっかりとつながれているという感覚があります。
というのも、WHYをベースに共感でつながることができると、しばらく会っていなかったとしてもお互いの目標に対する進捗を一瞬でアップデートすることができるからなんですね。そこに過ごした時間の長さは関係なくて、これもまた「つながり」を資産として持ち歩く上でのヒントかな、と思います。
編集後記
フリーランスからマーケターへ、そして未来の下呂市長へ......〈個人〉に軸足を置いたキャリアを体現するかのような杉山さんの話には、自己紹介にインパクトを残す仕掛けや、知人に紹介してもらいやすくする仕掛けなど、個人のマーケットバリューを最大化する上でのノウハウがぎっちり詰まっていました。
しかしその「仕事術」にもまして印象的なのが、「数より質」と杉山さんが語る、〈共感〉をベースにした人脈資産の築き方。新たなトレンドとなった「パーソナルブランディング」という言葉について、「私たちが誰とつながり、どう生きるのか」という“生き方”の問題として考えるきっかけをくれたインタビューでした。
杉山さんに会いに行こう!
今回インタビューにご登場いただいた杉山さんの勤める会社、「クラウドエース株式会社」に話を聞きに行こう。
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