2025年8月、株式会社viviONのグループ会社である株式会社エイシスは、株式会社ブラックからクラウドゲーミングエンジン『OOParts Engine』と関連特許技術を譲受しました。
このインタビューでは譲受に至るまでの背景や、譲受後の取り組み、一連の中で重視したポイントなどを両担当者へのインタビューを通してご紹介していきます。
――まず、お二人の経歴や肩書きを教えてください。
小川: 小川楓太と申します。株式会社ブラックで代表をしています。前職はDMMの会長室という部署にいまして、そこから独立して今の会社を立ち上げ、「OOParts(オーパーツ)」というクラウドゲーミングサービスを作っていました。2025年8月にその「OOParts」にまつわるエンジン(OOParts Engine)や特許を含む関連技術を、viviONグループの株式会社エイシスに売却させていただいたという経緯になります。現在(※1)はviviONのクラウドゲーミング部門に顧問として関わりながら、次の事業を模索している状況です。
生原: 生原優介です。株式会社viviONで経営戦略部(※2)のゼネラルマネージャーをしています。私は元々ITやゲーム会社を転々としていて、アプリを作ったり、人事制度を作ったりしていました。viviONグループに入ったのは2019年で、viviONの前身であり今回譲受をした会社でもある株式会社エイシスに入社しました。その後、viviONの設立に伴い転籍し今年で7年目になります。入社後は主に新規事業の立ち上げや、投資・M&Aをずっと担当しています。直近だと、小川さんとのブラック社の案件や、『あおぎり高校』や『Vebop Project』といったVTuberプロダクションのグループ化、逆に過去にM&Aしたサービスを創業者の人に買い戻してもらうマネジメントバイアウト案件など、投資・M&Aと事業サイドの両方を見ています。
※1、2……2026年1月インタビュー実施時点。
譲受の背景と経緯
――『OOParts Engine』をなぜ譲渡・譲受するに至ったのか、その背景、経緯を教えてください。
小川: 実は2022年の秋冬頃に、一度M&Aでの売却に動いていたことがあったんです。当時、僕らは「OOParts」を手放して、アメリカに移住して別の事業をやりたいと思っていまして、株式会社エイシスを含めて数社にご提案をしました。ですが当時は条件がまとまらず、一旦流れていました。
生原: 2022年当時は、私も話は聞いていたんですが、タイミングが合わなかったんですよね。当時、弊社側ではまだ「クラウドゲーミングを本気でやるぞ」という温度感がそこまで高くなかったんです。
小川: そうですね。当時のエイシスさんは、提案した会社の中でも一番モチベーションが低い印象でした(笑)。だから今回、逆にお声がけいただいたのは意外でしたね。
生原: 今回(2025年8月の事業譲渡)のきっかけは、2025年1月に、弊社のスマホゲーム事業の責任者である辻勝明から、小川さんに宛てて「『OOParts Engine』をBtoBとして提供してもらえないか」とメッセージを送ったことでしたよね?
小川: そうです。「クラウドゲーミングサービスを支えているエンジンだけを、SaaSのような形で使わせてほしい」という相談でした。僕らもちょうど改めてM&Aを進めようとしていたタイミングだったので、「BtoBもいいですが、いっそ丸ごと買いませんか?」と逆提案したんです。そこからはトントン拍子でした。
生原: 弊社内では、スマホゲーム事業を強化していく中で、元々使っていたシステムにコスト面の課題を抱えていたので、ブラック社の技術を使えばもっと安く、スピーディーに展開できるんじゃないかというニーズが高まっていたんです。最初の提案時の2022年は「これを買ってどう展開するべきか?」と拡張性が見えにくかったんですが、今回は「やりたいこと」が先にあったので、バチっとハマりました。
「見せ方」で変わるM&Aにおける価値
生原: 今回の件で感じたのは、「見せ方を変えるのが大事」だということです。同じ構成要素でも、提案の仕方でシナジーの考え方、捉え方が全然変わることがある。
小川: 面白いですよね。元々はサービスとしての『OOParts』という「プラットフォーム(BtoC)」と、それを支える「技術(エンジン)」の両方セットで会社ごと売ろうとしていたんです。エイシスさんのように、すでに独自のプラットフォームを持っている会社からすると、BtoC部分は手持ちの資産と重複していてあっても困るだけ。そこで「BtoC部分は(ブラック社が)責任を持ってサービス終了し、コア技術だけを売ります」と切り替えたら、シンプルになることで逆に価値が高まった。あとで詳しくお話ししますがスケジュールも早まって一石二鳥でした。
生原: そうなんですよね。弊社としてはDLsiteの運営を通してユーザーベースも取引先も既にあるので、近しい分野のサービスをさらに抱えてしまうと足元で競合してしまう。それよりもサービスを支えている「技術」そのものが欲しかった。
――時を経て2社のニーズがきれいに噛み合ったわけですね。一度断られても、タイミングやニーズの変化で結果が変わるというのは、M&A業界ではよくあることなのでしょうか?
生原: ありますね。「今はタイミングじゃない」と断っても、半年後、一年後には全然違う状況になっているケースは珍しくありません。一度接点が生まれれば、状況が変わった時に連絡し合えるので、一度で諦めないのは大事だと思います。
検討段階で重視した要素
―― 検討や摺り合わせの段階で、特に重視したことは何ですか?
生原: 弊社側は、実証実験(PoC)も始めていたので、技術的に「使える」ことは分かっていました。あとは金額の折り合いとスケジュール感ですね。
小川: スケジュールに関しては、僕ら側がかなり急いでいる状況でした。当初は「会社丸ごとM&A(株式譲渡)」で提案していたんですが、デューデリジェンス(資産査定)に時間がかかる。過去の労務状況や他社との契約を精査していると、僕らが希望するスケジュールに間に合わない。
生原: そのあたりは本当にシビアに精査しなきゃいけないので、短縮は出来ないんですよね。
小川: そこで、スケジュールを優先するために「事業譲渡」というスキームへの切り替えを提案していただきました。ただ、事業譲渡だと銀行からの借入金がブラック社に残ってしまう。そのままだと僕らにとって数千万円単位のデメリットになるんですが、エイシスさんがその借入分を補填(買収額に上乗せ)するという契約に変更していただいたんです。
生原: 弊社としても早く進めたかったですし、小川さんがそのあたりのスキームや税務、借入の知識をしっかり持たれていたので、ミーティングの場で即座に「じゃあ借入分を上乗せしましょう」と話がまとまった。これは非常にスムーズでした。
小川: 普通、大企業相手だと「持ち帰って検討します」と言われて1ヶ月ぐらい止まることもよくあるんですけど、エイシスさんは判断が早かった。あと、技術デューデリジェンスの際に、法務担当だけでなく現場のエンジニアリングマネージャーが直接対応してくれたのも助かりました。「オープンソースのライセンスがどうなっているか」といった専門的な話を、前提知識がある状態で進められたのは大きかったです。
譲渡後の成果と手応え
――実際に8月に譲渡されてから、具体的な成果は出ていますか?
小川: かなり早く成果が出たと思っています。2025年11月末に『DLsite』が開催した「DLsiteの大実験」というPC向け同人ゲームをスマートフォン環境で遊べるというキャンペーンは、『OOParts Engine』によって実現しました。
生原: DLsite全体で約4万タイトルのゲームがある中で、その半分にあたる約2万作品を一気にスマホで遊べるようにしました。これまでのシステムでは1タイトルずつ対応作業が発生していたため、数百作品が限界だったところ、『OOParts Engine』によって既存のハードルを軽く超えていきました。
小川: 2万タイトルが遊べる規模のクラウドゲーミングプラットフォームは、世界的に見てもトップレベルです。「NVIDIA GeForce NOW」、「Microsoft Xbox Cloud Gaming」でも数千タイトル規模です。もちろんゲームのボリュームやそれぞれの開発環境、許諾などの観点もあるので単純に数字だけで比べて語るのは難しいですが、インパクトのあるキャンペーンを短期間に実現できたのも『OOParts Engine』があったからこそだと思っています。
生原: ユーザーの反応も良かったですし、たった4ヶ月で多くのユーザーに触れていただけるレベルの取り組みができた成果は社内でも大きく評価しています。キャンペーン名の通り、「実験」なので不具合も出ましたが、そこで判明した技術的な課題を一つずつ解消していきます。今後は既存システムから『OOParts Engine』への完全リプレイスを進め、正式なサービスを提供するべく動いています。
今後の展望と、M&Aを検討しているスタートアップへのアドバイス
生原:今回はviviONのグループ会社であるエイシスとして事業を譲受しました。viviONとしては、今後もグループをあげてエンタメを中心にM&Aや出資を積極的に行っていきたいと考えています。特に「コンテンツ」や「IP」を持っているけれど資金の出し手がいないという方は、ぜひ早めに接点を持ってほしいです。ご連絡をお待ちしています。
小川: スタートアップ側に伝えたいのは、「完璧に整ってから売ろうとしないこと」ですね。このKPIを達成してから……、ソースコードを綺麗に整理してから……と思いがちですが、意外と「中身は未熟だけど、その一部が今すぐ欲しい」というニーズがあったりする。早めに相談して、相手のニーズを知ることで、自分たちが気づかなかった価値が見つかることもあります。
生原: 実際にブラック社のメンバーが弊社にジョインし、今では弊社のプロパー社員と一緒に「クラウドゲーミングチーム」として自発的に動いてくれています。スキルの高いメンバーが、弊社の既存アセット(ユーザー数や広告費など)を使って一気にグロースさせる。この組み合わせこそがM&Aの醍醐味だと思います。
――ありがとうございました。