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ホームレスに学んだ「仕事」の話


十数年前にお笑いコンビ麒麟 田村裕さんの自叙伝「ホームレス中学生」が大ブームになりましたが、実は私も6ヶ月という短い間ではあるものの「ホームレス大学生」をやっていた時期がありました。

ホームレス大学生の当時はただただ生きることに必死で、振り返っても苦しかった思い出ばかりですが、社会人として働き始め数年が経ち、いろいろな分野のプロフェッショナルと会う機会や仕事に対しての自分なりの考え方を持つようになった今、ホームレス大学生時代に経験したことが仕事に活かされている場面があることに気がつきました。

今回はその中で、ホームレス大学生 生活で出会ったふたりの先輩ホームレスの話をまとめてみました。


ホームレス(英: homelessness)は、様々理由により定まった住居を持たず、公園・路上を生活の場とする人々(路上生活者)、公共施設・河原・橋の下などを起居の場所とし日常生活を営んでいる野宿者や車上生活者のこと。出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』


「友達の家を転々としているのをホームレスって言ってるだけでしょ?」

Wikipediaにも記載のようにホームレスにも色々種類がありますが、私はよくありがちな「家に帰らないだけの大学生」ではなく、カテゴリーとしてはちゃんとした「路上生活者」をやっていました。



寝る場所選びはこのライフスタイルにおいて非常に大切な要素で、なにもわからないビギナーホームレスの私は、最初とにかく屋根のあるところを寝床に選んでおり、そのためか地域の不良や終電を逃した酔っ払いによく寝ているところを絡まれていました。

そんな中、ある日先輩ホームレスから声をかけられ、ホームレスとして生きる方法だけでなく仕事への向き合い方についても教わることになります。


ひとりめ:いらなくなった仕事をしていた人の話

「電話を貸して欲しいんだけど」
ホームレス先輩のおじいちゃんとの初めての出会いは、パチンコ屋の下で寝ていたところで声をかけられた、ある夜中のことでした。

「すみません、電話持ってません」
明らかにホームレス といった見た目のおじいちゃんに、電話を貸して欲しいと言われたことが怖くて、思わず私は嘘をついてしまいました。

残念そうにするおじいちゃんとの初対面はそこで終わりましたが、それからというもの その地域でよく顔を合わせることになり、いろいろな話をするようになります。

どういうところで段ボールをもらうのがいいとかそんな話をする中で、なんの気なしに、どうしておじいちゃんはホームレスになったの?と聞いたときのことです。


「ずっと水道を掘る仕事をしてた。水道が行き渡って便利になって、それしかやってなかった自分には、気づいたらもう他にできる仕事がなかった。
世の中のためになることをしてきたのに、ちょっとずつ世の中に必要のない人間になってた。」


ホームレスになる人は怠け者で、労働が嫌いな人たちだという勝手な思い込みを心のどこかで持っていた私は、自分が想像していたこととはまったく違う話が返ってきたことに驚きました。

「社会の役に立ちたい」というプライドをもって仕事をしていた職人気質のそのおじいちゃんは、社会が豊かになるに従いだんだん減っていく仕事に焦りを感じながらも、自分には他になにもできないという諦めから、もうどうにもならなくなっていったそうです。

別れた家族の電話番号は覚えていて、最後にどうしても声が聞きたい。公衆電話でかけても繋がらないからちゃんとした電話番号からなら出てくれるんじゃないかと思って声をかけた。
と言われたときに、ひどい偏見を持って接した自分の態度がとても恥ずかしくなりました。


社会の役に立つ仕事でも、環境が変われば必要とされなくなる

当時、仕事といえば学生としてやっていたアルバイトだけでしたが、社会人になり、特にスタートアップで働き始めてから仕事への向き合い方や考え方も大きく変わりました。

専門的なスキルやプロフェッショナルな仕事でも、常に時代に合わせたアップデートをしていかないと、環境の変化に合わせた適応ができなくなりますし、ひとつの仕事を極めるだけでなく幅広くいろいろなことができる人の方が変化の大きな世の中を生き残る可能性が高いと思います。

私がスタートアップで働く理由として、「市場環境の変化に敏感になることができること」と、大きな会社よりもひとりの受け持つ業務担当領域が広いため「どんな社会変化があっても通用する能力を身につけられること」があります。
この先輩ホームレスの話を聞いた経験が、スタートアップで働くことを選択肢をとして考え始めたきっかけにもなっています。

大手で働いた場合、分業や部署ごとに特色の違う仕事に注力することはできるかもしれませんが、若い間は特に、「営業職の自分より営業が得意な人」や「事務職の自分より事務作業が得意な人」がたくさんいます。その中で自分の持ち味を見つけ、それだけで勝負していくことは難しいと思います。
スタートアップでは若いうちから業務を横断的に経験できるだけでなく、誰であっても最前線で戦えるので他の人にはない力をつけることができると思います。


ふたりめ:とても儲かる仕事をしていた人の話

一般的な大学生と同じく、ホームレス大学生にもアルバイトは必要です。
当時は夕方から夜にかけてのアルバイトを2つかけもちしており、バイト先の近くのエリアで寝床を作り就寝、朝になったら大学へ移動して 部室棟にあるシャワー室に寄ってから講義に出る。というルーティーンで生活していました。


ひとりめのおじいちゃんとは違うバイト先のエリアで出会ったおじいちゃんホームレスは、そのエリアのホームレス集団のリーダーのような人で、毎晩店長に追い出されるまで駅前のマクドナルドに水だけで居座ることができるほど肝のすわった人でした。

その日もマクドナルドで水だけもらって、いろいろな話をしている中でそのおじいちゃんホームレスが昔していた仕事の話になりました。
おじいちゃんホームレスは昔、塗装屋を経営していたそうです。
その塗装屋では他の会社にはない独自の技術と方法で早く安く仕上げることができるため、とても儲かっていたそうです。
ですが、ある日を境に状況は大きく変わります。その技術で使っている塗料が人体に有毒であることがわかり、もうその技術を使った仕事ができないどころか、過去に施工した取引先から訴えられてしまいました。

こだわりの技術を使った仕事ができなくなり、借金まみれになってしまった結果、それからホームレス生活をしているという話でした。

「法律が悪い。国が悪い。なんでこんなことになったんだろう。」

あんな法律がなければ、国が余計なことをしなければ、と言っているおじいちゃんを当時の私は可哀想に思っていましたが、今ではそう思えません。

利用するユーザーに不利益が発生するサービスは生き残るのが難しい社会になっています。どれだけ大きな収益をあげて、儲かっていたとしてもユーザーにとっての「本質的な利益を損なったサービス」は淘汰されます。

ホームレス大学生だった当時の私にはなかった考えですが、スタートアップで利用者(ユーザー)にサービスを提供する立場になった今ならわかります。

「利用者(ユーザー)に価値あるサービスを提供すること」に本気のこだわりを持てるのはスタートアップで仕事をするうえでの魅力のひとつです。利益やノルマに追われる前に、「そもそもこのサービスはユーザーや社会のどんな問題を解決することができるのか」に真剣に向き合いながら仕事をすることで仕事のやりがいも大きく変わると思います。

スタートアップの仕事は、消費者や利用者との距離が比較的ちかくなりがちです。
どんな部署であってもユーザーの反応や声に敏感になれるので、これからの世の中でより重要になってくる「本質的な価値提供」に集中してサービスを作ることができます。
これは、作り手と接客業務が分業体制になっている大手よりもスタートアップにいることで経験しやすいことだと思います。


さいごに:ホームレス大学生をしていた私の話

ホームレス大学生だった私は、家がないことを友達に隠していました。
服はバイト先の制服に混ぜて勝手に洗濯してたし、大学には無料で使えるシャワールームがあったので誰にも気付かれずステルスホームレスができていたのです。

当時は路上生活もつらく苦しく、友達にも恥ずかしくて言えませんでした。
今となっては「家ないとか言えない」くらいの笑い話にできるほどにはなりましたが...

その後部屋を借りることできたので、ひとりめのおじいちゃんホームレスには報告に行きました。
もう戻ってきちゃダメだよなんていうおじいちゃんに、笑いながらお礼をいいつつ、やっと電話を貸すことができました。
家族に電話繋がったのかどうかはわかりませんが、自分なりの恩返しができてよかったかなって思います。

どんな仕事をしていても、どんな職場にいても、不安や不満を持つことは誰にでもあると思います。
私はふたりのホームレスから、「環境に合わせて常に自分をアップデートすること」「仕事の本質的な価値を考え続けること」の大切さを学びました。働く上でこのふたつをいつも心の片隅に置くようにすることで小さな不安や不満は消えていくような気がします。


私が働くスタートアップ業界は特にこのふたつの面を大切にし、大きく成長できる環境が揃っています。
少しでもスタートアップに興味のある方や、ホームレスになったけど段ボールがどこにあるかわからないよっていう方はお気軽にご連絡ください。


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