ファイル共有は簡単になった。でも、仕事は整理されているだろうか?
企業間のファイル共有は、本当に便利になりました。
以前はメールにファイルを添付したり、ファイルサーバーへのアクセス環境を個別に用意したりする必要がありました。
今ではBoxのようなクラウドストレージを使えば、社外の担当者とも簡単にファイルを共有できます。
アクセス権限を設定し、フォルダに招待するだけ。
セキュリティや管理の面でも、企業向けの仕組みが整っています。
しかし、ITエンジニアとして複数企業との仕事を考えていると、少し気になることがあります。
「共有する側には便利だけれど、共有される側にとっても便利なのだろうか?」
今回は、そんな視点から企業間のファイル共有について考えてみたいと思います。
顧客が増えるほど、共有フォルダも増えていく
例えば、複数の顧客を担当するSIerやコンサルティング会社を考えてみます。
A社からBoxのフォルダを共有される。
B社からも共有される。
C社からも共有される。
それぞれの企業は、自社の業務に合わせてフォルダを整理しています。
A社では「プロジェクト管理」、B社では「システム更改」、C社では「共有資料」。
各社にとっては、どれも自然な名前です。
ところが、それらを受け取る側の画面では、異なる企業のフォルダが一緒に並びます。
顧客が1社、2社なら問題にならないかもしれません。
しかし、10社、20社と増えたらどうでしょうか。
似たような名前のフォルダが増え、どの顧客の資料なのか判断するために、毎回確認する必要が出てきます。
ファイルは確かに共有されています。
しかし、共有されていることと、仕事がしやすい状態になっていることは別なのです。
Box Driveで見えてくる、もう一つの問題
Boxには、Windowsのエクスプローラーからファイルを扱えるBox Driveがあります。
普段使っているファイルと同じ感覚でクラウド上の資料を開けるのは、大きなメリットです。
一方、複数の顧客を担当する立場では、少し違う課題も感じます。
例えば、従来のファイルサーバーであれば、
- Xドライブ:A社
- Yドライブ:B社
- Zドライブ:自社
というように、仕事の領域を分けることもできます。
しかし、Box Driveでは基本的に一つのBoxの入口から共有フォルダへアクセスします。
顧客ごとに独立した仮想ドライブを割り当てて切り替える、という使い方を標準機能だけで実現するのは簡単ではありません。
実際の仕事では「A社の業務からB社の業務へ」と頭を切り替えているのに、画面上では単にフォルダを移動しているだけです。
業務の境界と、ファイルを操作する画面の境界が一致していない。
ここに、使いにくさの一因があるように思います。
問題はBoxの機能不足なのだろうか?
私は、必ずしもそうではないと思っています。
Boxは、フォルダを所有する企業が共有環境を用意し、必要な相手を招待する仕組みとして、よくできています。
一方で、招待された側が複数企業の共有フォルダを自由に再構成できるわけではありません。
つまり、各企業がそれぞれ最適化したフォルダ構造を、受け手は一つの環境で利用することになります。
これは単なる操作性の問題というより、情報設計の問題です。
共有する側は、自社にとって分かりやすいフォルダを作ります。
しかし、そのフォルダを受け取る相手は、ほかにも多くの企業と仕事をしているかもしれません。
そう考えると、フォルダの作り方も少し変わってくるはずです。
相手の画面を想像することも、ITの設計ではないだろうか
例えば、外部の協力会社にフォルダを共有するとき。
単に「プロジェクト」という名前を付けるのではなく、
「A社_基幹システム更改_共有」
とすれば、相手はフォルダ名を見るだけで、どの会社のどの案件か判断できます。
外部共有専用のフォルダを作ることも有効でしょう。
特別な技術が必要なわけではありません。
大切なのは、自社の画面だけではなく、相手の画面でどう見えるのかを想像することです。
ITシステムの設計では、機能要件やセキュリティ要件が重視されます。
もちろん、それらは重要です。
しかし、実際に使う人の業務や、日々の情報の探し方まで考えられているでしょうか。
これはBoxに限らず、TeamsやSharePointなどのコラボレーションツールにも通じる話だと思います。
私たちは「ファイル」ではなく「顧客の仕事」をしている
もう少し視点を広げてみます。
複数の顧客を担当するエンジニアは、仕事をするときに何を考えているでしょうか。
「今日はBoxのこのフォルダを開こう」
ではなく、
「午前中はA社の案件を進めよう」
「午後はB社の定例会の準備をしよう」
と考えているはずです。
人間の仕事は、ファイルを中心に動いているわけではありません。
顧客や案件、チーム、役割といった単位で動いています。
だとすれば、将来的にはファイルやフォルダを探すのではなく、顧客や案件という仕事の単位でワークスペースを切り替える仕組みが、もっと重要になるのではないでしょうか。
例えば、A社のワークスペースを開けば、
- Boxの共有資料
- Teamsの会話
- メール
- チケット管理
- 議事録や設計書
などが、一つの業務コンテキストとして整理されている。
そしてB社の仕事をするときには、B社のワークスペースへ切り替える。
そんな仕組みの方が、実際の仕事の進め方には自然な気がします。
ITの価値は、機能を提供することだけではない
企業向けのITシステムは、さまざまな機能を提供しています。
ファイルを共有できる。
アクセス権限を管理できる。
履歴を確認できる。
どれも重要な機能です。
しかし、機能が充実していても、それだけで利用者の仕事が快適になるとは限りません。
特に企業間のコラボレーションでは、自社だけで完結しないからこそ、相手の業務環境まで考える必要があります。
「自分たちが使いやすい」から「一緒に仕事をする相手も使いやすい」へ。
これは、これからの企業ITに求められる視点の一つではないかと思います。
便利なツールを導入することと、働きやすい環境を設計することは、必ずしも同じではありません。
ITエンジニアとして、単にシステムを動かすだけでなく、使う人の仕事の流れまで考えていきたいものです。
そして、その小さな違和感の中に、次の業務改善や新しいサービスのヒントがあるのかもしれません。