COO代行として支援に入ると、「◯◯を導入したい」という相談から始まることが多い。
勤怠管理、経費精算、チャット、タスク管理。 出てくる名前は毎回違うけど、相談の形はだいたい同じだ。
「今のやり方が非効率なので、ツールを入れたい」
会社員時代、自分は社内SEも兼任していた。 だからこの手の相談は、そのまま受けていた。比較表を作って、デモを見て、見積を取って、稟議を上げて、導入する。それが自分の仕事だと思っていた。
でも、導入したあとに、何度か同じ光景を見た。
使われていない。
正確に言うと、最初の1ヶ月は使われる。 そこから少しずつ、元のやり方に戻っていく。気づくと、新しいツールと古いExcelが並行で動いている。二重入力になっている。前より作業が増えている。
当時は「現場が使いこなせていない」と思っていた。 教育が足りない、周知が足りない、と。
でも、何度か繰り返して分かった。 原因はもっと手前にあった。
そのツールを「毎日触る人」が、選定の場に一度もいなかった。
決めたのは経営層と自分。使うのは現場。 その状態で導入すれば、現場からすれば「よく分からないものが降ってきた」でしかない。反発しているわけでもサボっているわけでもなく、単に自分ごとになっていないだけだった。
だから今は、導入の相談を受けたら、機能比較より先に必ず聞くことがある。
「これを入れたあと、毎日それを触るのは誰ですか」
この質問に即答できない場合、まだ導入する段階じゃない。
そしてもうひとつ、現場を見せてもらう。 すると、だいたい何かが見つかる。
誰も更新していないシートが3つあった。 同じ数字が、別のシートに手入力で3回転記されていた。 機能はあるのに、使われていない設定があった。
新しいものを入れる前に、今あるものをつなぎ直せないか。 自分の判断軸はここにある。
「いまのメンバーが、そのまま使いこなせるか」
新しいツールは、それ自体が新しい業務を生む。 運用ルール、権限設計、マスタ管理、トラブル対応。導入して終わりではなく、そこから運用が始まる。その運用を担う人が社内にいないなら、入れた瞬間に負債になる。
じゃあツールを入れるなという話なのか、というと、それは別の話だ。
今のやり方が明らかに限界を超えているとき。 法令対応で必要なとき。 そして何より、運用を担う人が社内にいるとき。 このときは、迷わず入れたほうがいい。
もちろん、既存のものをつなぎ直せば全部解決するわけでもない。 むしろ、つなぎ直した結果として「ここはもう手作業では無理だ」とはっきりすることのほうが多い。ただ、それは一度整理して初めて見えてくる。
思い返すと、ツールが悪かったわけじゃない。 「これを入れたら、誰の何が変わるのか」を、決める前に誰も言葉にしていなかっただけなんだと、今は思う。
みなさんの会社で、いま導入を検討しているツールはないでしょうか。 決める前に、ひとつだけ確認してみてください。
それを毎日触ることになる人は、この検討に参加していますか。