仕事をしていると、こんなことが起こります。
Aさんから、
「今日は、この作業を先に進めてください。」
と指示を受ける。
担当者はその指示に従って作業を始めます。
すると途中でBさんがやってきて、
「それじゃないよ。こっちを先にやって。」
と言われる。
Bさんも上司です。
あるいは、Aさんより役職が上かもしれません。
担当者は言われた通り、作業を変更します。
すると後からAさんに、
「さっきお願いした仕事、まだ終わってないの?」
と聞かれる。
担当者からすれば、
「では、私は誰の指示を聞けばよかったのでしょうか。」
という状態です。
こうしたことが繰り返される現場では、担当者が迷うのは当然です。
私は、これは担当者の能力や主体性の問題ではなく、指示を出す経路が整理されていない組織の問題だと考えています。
上司が複数いると、担当者は判断できません
組織では、一人の担当者に複数の人が関わることがあります。
直属の上司。
部署の責任者。
プロジェクトリーダー。
社長。
それぞれが仕事について意見を持っています。
意見を出すこと自体は問題ありません。
しかし、全員が担当者へ直接指示を出し始めると、現場は混乱します。
Aさんは、
「今日中に資料を作ってほしい。」
Bさんは、
「その資料より、明日の準備を優先して。」
社長からは、
「急ぎでこれを調べて。」
と言われる。
どれも重要そうです。
でも、担当者の時間は一つしかありません。
誰かが優先順位を決めなければ、担当者自身が判断することになります。
そして、その判断が誰かの期待と違えば、
「なぜこちらを先にやったの?」
と言われてしまいます。
これでは安心して仕事を進めることができません。
指示が覆され続けると、現場は動かなくなる
最初のうちは、担当者も指示されたらすぐに動きます。
ところが、
Aさんの指示で動いたらBさんに止められる。
Bさんの指示に従ったらAさんに注意される。
そんな経験を何度もすると、担当者は学習します。
「すぐに動かない方がいい。」
また指示が変わるかもしれない。
誰かが違うことを言うかもしれない。
だから少し様子を見る。
確認してから動く。
すると管理者からは、
「指示待ちなんですよね。」
「言わないと動かない。」
「もっと主体的に動いてほしい。」
と評価されることがあります。
でも、本当にその人に主体性がないのでしょうか。
もしかすると、主体的に動くほど仕事をやり直すことになる環境を、組織側が作っているのかもしれません。
問題は「どちらが正しいか」ではありません
こうした場面では、
「AさんとBさん、どちらの指示が正しかったのか。」
という話になりがちです。
しかし、私はそこが本質ではないと思っています。
Aさんにも理由があります。
Bさんにも理由があります。
状況が変わって、途中で優先順位を変更する必要が出ることもあります。
問題は、
誰が最終的に指示を決めるのかが共有されていないことです。
例えば、担当者への指示はAさんが出すと決めているのであれば、Bさんが変更したいときは、まずAさんへ伝える。
AさんとBさんで優先順位を確認してから、Aさんが担当者へ変更を伝える。
そうすれば担当者は迷いません。
逆に、その案件についてはBさんに最終決定権があるのであれば、
「この案件についてはBさんの指示を優先してください。」
と最初から共有しておけばいいのです。
担当者にも「確認していい」というルールを渡す
どうしても複数の人から指示が来る環境もあります。
その場合は、担当者側にも確認する権限を渡しておく必要があります。
例えば、
「現在、Aさんの指示で〇〇を進めています。こちらを止めて、△△を優先するという認識でよろしいでしょうか。」
と確認する。
これは反抗ではありません。
仕事の優先順位を確認しているだけです。
むしろ、この確認ができることで手戻りを防ぐことができます。
管理者側も、
「いいから先にやって。」
ではなく、
「Aさんから受けている仕事はこちらで調整するので、今はこちらを優先してください。」
まで伝えられると、担当者は安心して動けます。
指示を出すことと、管理することは違います
役職が上がると、
「自分は指示を出していい立場だ。」
と思うことがあります。
もちろん、必要な指示を出すことは管理者の仕事です。
しかし、複数の管理者が思いついた順番に指示を出せば、現場の仕事は増えていきます。
途中まで進めた仕事を止める。
別の仕事を始める。
また元の仕事へ戻る。
そのたびに集中も切れます。
管理者から見れば一言の指示でも、現場では仕事の組み替えが発生しているのです。
だから管理者に必要なのは、
たくさん指示を出すことではありません。
現場に届く指示を整理することです。
人ではなく、指示の流れを見る
担当者が動かない。
判断が遅い。
何度も確認してくる。
そんなとき、私はその人だけを見るのではなく、
「この人には、誰から指示が届いているのだろう。」
と考えます。
複数の人から違う指示が来ていないか。
優先順位は共有されているか。
最終判断者は決まっているか。
指示が変更されたときのルールはあるか。
そこを整理すると、担当者が動けなかった理由が見えてくることがあります。
私は、組織を整えるとは、人を思い通りに動かすことではないと思っています。
誰から誰へ、どのように仕事が流れるのかを整えること。
担当者が迷わず動ける指示系統をつくること。
「誰の言うことを聞けばいいのか」を、担当者自身に判断させないこと。
現場が止まっているとき、問題があるのは人ではなく、指示が流れる構造なのかもしれません。
私は、そこを見ることも組織の構造設計だと考えています。