棚卸資産管理は「何を数えるか」を決めるところから
棚卸資産というと、決算日に倉庫や事業所へ行き、商品や製品の数量を数える作業をイメージされる方も多いと思います。
しかし、実際の棚卸資産管理では、数え始める前に整理しておくべきことがあります。
それは、何を自社の在庫として数えるのかという点です。
事業が拡大すると、在庫の保管場所や取引形態も複雑になっていきます。
例えば、自社倉庫にある商品だけでなく、取引先や外部倉庫に預けているもの、移動中のもの、返品予定のもの、販売済みだがまだ出荷していないもの、他社から一時的に預かっているものなどが混在することがあります。
現物としてそこに存在しているからといって、すべてが自社の棚卸資産になるとは限りません。
反対に、自社の倉庫に現物がなくても、契約条件や取引の進捗によっては、すでに自社の棚卸資産として認識すべきものもあります。
そのため、実地棚卸を行う前に、少なくとも次の点を整理する必要があります。
- 誰がその在庫を所有しているのか
- どこに保管されているのか
- 仕入計上は完了しているのか
- 売上計上や出庫処理は完了しているのか
- 販売可能な状態にあるのか
- システム上、どの在庫区分で管理されているのか
- 会計帳簿のどの残高に含まれているのか
この整理が不十分なまま棚卸を始めると、現物数量を正確に数えても、帳簿残高との比較自体が成立しないことがあります。
また、現場では「倉庫にあるものを全部数える」という考え方になりやすい一方、経理部門では「会計帳簿に計上されている在庫を確認する」という考え方になります。
両者の対象範囲が一致していなければ、棚卸差異が発生するのは当然です。
重要なのは、実地棚卸の直前に担当者同士で認識を合わせるだけではありません。
会社として、
どの状態になったものを自社在庫として認識するのか
どのタイミングで入庫・出庫を記録するのか
例外的な在庫をどのように区分するのか
といったルールを明確にし、継続的に運用することです。
IPO準備会社や成長企業では、売上や取引量の拡大に対して、在庫管理の仕組みが追いつかないことがあります。
以前は担当者の経験で管理できていたとしても、商品数、保管場所、取引先、担当者が増えると、個人の記憶やExcelだけでは管理が難しくなります。
棚卸資産管理は、単に「数を合わせる作業」ではありません。
会社として在庫の範囲を定義し、現物・在庫システム・販売購買データ・会計帳簿を一致させる仕組みを作ることが重要です。
決算期になってから慌てて対応するのではなく、平時から「自社の在庫とは何か」を整理しておくことが、正確な決算と円滑な監査対応につながります。