馬の手綱を握って気づいた、人を導くということ。
Photo by Annika Treial on Unsplash
今日、海の中道にある「ココペリウエスタンライディング」で、人生で初めて一人で馬に乗りました。
子どもの頃にポニーに乗った記憶はあります。
ただそれは、大人がそばについてくれて、少しだけ回るような体験でした。
今回は違います。
自分で手綱を持ち、自分で馬を操作し、
海沿いまで約1時間ほど馬に乗りました。
乗る前は、正直「ちょっと特別なレジャー」くらいに思っていました。
でも実際に馬に乗ってみると、
ただ楽しかっただけでは終わりませんでした。
馬と向き合うことは、人を導くこと、自分を整えること、そして相手と呼吸を合わせることに近い。
そんなことを強く感じた時間でした。
操作はシンプル。でも、思い通りにはいかない。
馬の操作自体は、とてもシンプルです。
手綱を左に引けば左へ行く。
右に引けば右へ行く。
引けば止まる。
お腹を蹴れば前に進む。
言葉にすると、ゲームの操作のようにも聞こえます。
でも実際は、まったく違いました。
車や機械のように、
こちらが操作した通りに正確に動くわけではありません。
馬は生き物です。
こちらの力の入れ方、姿勢、手綱を引く強さ、緊張感。
そういったものを感じ取って反応します。
強く引きすぎると、馬は嫌がります。
かといって、遠慮しすぎると好きな方向へ行こうとします。
実際、馬たちは隙あらば草を食べようとしていました。
それもまた可愛いのですが、自由にさせすぎると前に進めません。
目的地にも着けないし、帰ることもできない。
そこで必要になるのが、手綱の加減でした。
優しさだけでも、力強さだけでも足りない。
馬に乗りながら、一番考えていたのは、
「どのくらいの強さで伝えるか」
ということでした。
強く引きすぎると、馬に負担がかかる。
弱すぎると、こちらの意思が伝わらない。
相手を尊重すること。
でも、進む方向は示すこと。
無理やり支配するのではなく、かといって全てを相手任せにもしない。
このバランスが本当に難しい。
そしてこれは、人との関わり方にもすごく似ていると思いました。
教育も、マネジメントも、コーチングも同じです。
強く言いすぎれば、相手の心は離れてしまう。
でも、何も言わずに見守るだけでは、前に進めない時もある。
大切なのは、相手の状態を感じながら、必要な分だけ伝えること。
その人にとって、どのくらいの言葉が届くのか。
どこまで待つべきなのか。
どこからは背中を押すべきなのか。
馬の手綱を握りながら、そんなことを考えていました。
相手には、相手の性格がある。
今回、僕が乗った馬は「ウギー君」という男の子でした。
ウギー君は、砂浜を歩くこと自体は平気でした。
でも、波しぶきが少し苦手でした。
他の馬は波際を自然に歩いていても、ウギー君は波が近づくと少し怖がる。
足元の感覚が変わった時にも、びくっと反応する。
とても慎重で、少し臆病な性格の馬でした。
それを見て、馬にも本当に一頭一頭性格があるのだと感じました。
同じように手綱を引いても、反応は違う。
同じ場所を歩いても、怖がるものが違う。
同じ馬だからといって、同じ接し方でいいわけではない。
これは人間も同じです。
こちらが「普通はこうだろう」と思っていても、
相手にとっては怖いことかもしれない。
こちらが「これくらい大丈夫だろう」と思っていても、
相手には強すぎるかもしれない。
人を育てる時も、導く時も、まずは相手の性格や状態を見ることが大切なのだと思います。
馬は、人の感情を感じ取る。
施設の方が話してくれた中で、印象に残っていることがあります。
馬は、人間の感情を感じ取る力があるということです。
落ち込んでいること。
緊張していること。
怖がっていること。
そうした人間の内側の状態を、馬は敏感に感じ取るそうです。
だからこそ、馬と関わる体験は教育にもつながる。
子どもたちが馬と触れ合うことで、
言葉だけでは学べないものを学ぶことができる。
相手を怖がらせないこと。
自分の感情を整えること。
力加減を知ること。
信頼関係を築くこと。
一方的にコントロールするのではなく、心を通わせること。
これは、教室の中だけではなかなか伝えきれない学びだと思いました。
知識として教えることはできても、
体感として腑に落ちるかどうかは別です。
馬との関わりには、その「体感の学び」がありました。
馬と人をつなぐ、ボスの覚悟。
今回の体験で印象に残ったのは、馬そのものだけではありません。
この場所をつくり、馬たちと向き合い続けている施設のオーナー、
通称「ボス」の存在も、とても大きかったです。
ボスは、ただ乗馬体験を提供している人ではありません。
本場アメリカのカウボーイ文化や、ウエスタンスタイルの素晴らしさに惚れ込み、その魅力を日本にも広げたいという想いで、この場所をつくっている方でした。
実際にアメリカの現地へ行き、自分自身でその文化を体験し、そこで感じた感動やかっこよさを、日本でも届けようとしている。
馬もアメリカから輸入しているそうで、施設全体からも、ただの観光向けの乗馬施設ではなく、本場の空気や精神を大切にしていることが伝わってきました。
僕が感じたのは、これは単なるレジャーではなく、文化を伝える仕事なのだということです。
馬に乗ること。
手綱を握ること。
馬と呼吸を合わせること。
自然の中を進むこと。
その一つひとつに、アメリカのカウボーイ文化やウエスタンスタイルの精神が詰まっているように感じました。
そして、その文化を伝えるためには、当然ながら馬たちの存在が欠かせません。でも、馬と共に生きるということは、簡単なことではありません。
馬の世話は、人間の都合だけで休める仕事ではありません。
「今日は休みだから」「年末年始だから」「大型連休だから」といって、馬たちの命を後回しにすることはできない。
毎日ごはんをあげ、体調を見て、環境を整え、馬たちが安心して過ごせるように向き合い続ける必要があります。
クリスマスも、正月も、ゴールデンウィークも関係ない。
世の中が休んでいる時も、馬たちは変わらず生きている。
だからこそ、そこには普通の仕事とは違う覚悟があるのだと思いました。
ただサービスを提供しているだけではなく、
馬たちの命を預かりながら、人にとって忘れられない体験を届けている。
その姿勢が、施設の空気にも表れていました。
スタッフの方の笑顔や声かけ。
馬への接し方。
初めて乗る人への安心感のつくり方。
そういう一つ一つから、ただ「馬に乗せる場所」ではなく、馬と人がちゃんと出会える場所にしようとしていることが伝わってきました。
便利な時代に、僕たちは何を失っているのか。
今の時代は、とても便利です。
スマホがあります。
インターネットがあります。
AIがあります。
移動も、買い物も、仕事も、コミュニケーションも、
どんどん効率化されています。
もちろん、それ自体は素晴らしいことです。
でも便利になるほど、僕たちは「相手の呼吸を感じる」という感覚を失っているのかもしれません。
馬は、こちらの都合だけでは動いてくれません。
ボタンを押せば反応する機械ではありません。
こちらの緊張も伝わる。
迷いも伝わる。
力みも伝わる。
だからこそ、こちらも整える必要があります。
相手を感じる必要があります。
そして、呼吸を合わせながら前に進む必要があります。
これは、現代のコミュニケーションにこそ必要な感覚だと思いました。
早く、便利に、効率的に。
その価値観が強くなるほど、相手の反応を待つ力や、繊細な変化を感じ取る力は弱くなっていく。
馬に乗る体験は、そうした感覚を取り戻す時間でもありました。
馬は、人間の古くからのパートナーだった。
馬に乗りながら、昔の人たちのことも考えました。
自動車も、電車も、飛行機もなかった時代。
人間は馬に乗り、馬と一緒に移動し、荷物を運び、
時には戦場にも向かっていました。
その時代の人たちは、一頭一頭違う性格を持つ馬と
どう向き合っていたのだろう。
臆病な馬。
力強い馬。
賢い馬。
気分屋な馬。
それぞれの馬と関係を築きながら、人間は生活をしていたはずです。
馬は、ただの動物ではありません。
人間の歴史を共に歩んできたパートナーです。
だからこそ、今あらためて馬と触れ合うことには意味があると思いました。
便利な乗り物に囲まれた今だからこそ、生き物と呼吸を合わせて進む体験には、深い学びがあります。
手綱を握ることは、自分を知ること。
今回の乗馬体験で一番感じたのは、馬を操作しているようで、実は自分自身が試されているということでした。
自分は強く引きすぎていないか。
遠慮しすぎていないか。
焦っていないか。
怖がっていないか。
相手を見ているか。
ちゃんと進む方向を示せているか。
馬と向き合うことで、自分の癖が見えてきます。
これは、人と向き合う時も同じです。
人を育てる。
人を導く。
人と一緒に前に進む。
その時に必要なのは、ただ強いリーダーシップではありません。
ただ優しいだけの関わりでもありません。
相手を感じながら、必要なタイミングで、必要な強さで、方向を示すこと。
馬の手綱は、その感覚を身体で教えてくれました。
ただの体験で終わらせたくない。
今回の乗馬は、本当に気持ちの良い時間でした。
海の近くを歩く感覚。
馬の揺れに身体を合わせる感覚。
蹄の音。
風。
生き物と一緒に前へ進んでいる感覚。
どれも忘れられないものでした。
でも、ただの楽しい思い出で終わらせたくないと思っています。
この体験には、教育にも、コーチングにも、マネジメントにもつながる学びがありました。
僕は今、人を育てる仕事に関わっています。
大学で学生に伝える立場でもあります。
だからこそ、今回感じたことを、自分の仕事や授業にも活かしていきたい。
人を導くとは何か。
相手と呼吸を合わせるとは何か。
優しさと力強さのバランスとは何か。
馬と向き合うことで、そのヒントをもらった気がします。
馬に乗るという体験は、
ただ非日常を楽しむだけのものではありませんでした。
相手を感じ、自分を整え、共に前へ進む。
その大切さを教えてくれる時間でした。
砂川海
株式会社EdVenture代表|大学講師
AI・SNS・英語を軸に、働き方・教育・挑戦について発信。
「挑戦がカルチャーになる社会」を目指しています。