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アートと労働と搾取?—ロンドンアート就活事情

ロンドンの劇場でインターン

今、ロンドンのとある劇場でインターンシップをしている。正確には「インターンシップ」ではなく、「プレイスメント」と呼ばれる。報酬は、ない。交通費もランチ代も出ない。でも、どうしてもこの劇場の現場に身を置きたくて、この劇場で人脈を作りたくて、書類選考と面接選考をやっとの思いで通過した。この経験には、「お金では買えない価値」があると判断した。私は幸いなことに、貯金と周りの人の援助のおかげで、この期間の生活費を賄うことができている。私は、アートに関わる仕事で「食っていく」と心に決めている。その目線で、この10ヶ月間、ロンドンでの「アートと労働」の現状を、観察してきた。

労働の搾取が起きている?

ワーウィック大学のチームが出している、イギリスの文化創造産業(クリエイティブ産業)を取り巻く環境について調査したレポート(Enriching Britain: Culture, Creativity and Growth)によると、「文化創造産業に関わる91%の人が、キャリアのどこかしらのタイミングで無償の労働をしているにも関わらず、うち28%しか、その無償労働が結果的に雇用に繋がったと思っていない。」Law Pay Comissionの見方では、「(クリエイティブ産業における無償の)インターンシップで人々がやっている活動は、ほとんど『仕事』そのもので、最低賃金が適応されるべきもの」であるらしい。つまりこれは、「労働力の搾取(abor Exploitation)が起きている」と言える。 Arts Council Englandも、「短期のフェスティバルボランティアや大学のプログラムの一環以外で、人を無償で雇う募集投稿は削除します。」と警告している。

イギリス人学生の就活って?

一方で、91%が経験してることからも明らかだが、新卒採用文化がないイギリスでは、クリエイティブ産業に限らず、インターンで業界に入るのが一般的で、全く未経験の業界に入るのは難しい。インターンは無償の場合も有償の場合もある。さらに、未経験の業界の場合は、インターンとして雇ってもらうことすら難しい。学校での専門的な学びや、ボランティア活動、アルバイト、学生団体など無償の活動で関連する経験を積んで、その経験の延長線上に卒業後のキャリアがあるので、学生時代から、かなり明確にキャリアを意識させられる。大学でも、Employability(雇用される能力)の話題は頻繁に話題に出る。私は、現在のインターンシップの前に、演劇フェスティバルでのボランティアと、ダンスカンパニーでリモートの広報の仕事(有償)をしていた。同じ仕事をしていたメンバーも皆、より条件のいい仕事、希望の仕事に就けるよう、こうやって少しづつ業界での経験と人脈を作っているようだった。

ではクリエイティブ産業における労働の搾取とは?

無償で人を雇ってはいけないのか? 経験から言っても、「お金で買えない価値」のある経験というのは、実際にある。だから、個人レベルで言うと、「結局本人が納得していれば、ハッピーであれば、低収入/無報酬であっても問題ないんじゃない?」というのが私の意見。そこから、「食っていける」仕事へのチャンスやコネクションが得られる可能性は十分にある。しかし一方、無償で働かないと業界に入れないとなると、その業界全体の多様性が失われることは必須である。「一定期間は稼がなくても大丈夫な家庭環境」に育った人だけがその業界に入れるということになる。これは、特にクリエイティブ産業においては、大きなマイナスになる。業界の風通しが悪くなる。

創造される成果物は、どんどんコンサバティブな、つまらないものになっていく。