演技を通して学んだ、『世界を見るもう一つの目』
私の演劇の先生は、「演技には3つの目が必要だ」と言う。
ひとつは、物理的な自分の目。ふたつめは役としての目。
そして最後に、舞台全体を俯瞰する目。この第3の目を持つのは初心者にはなかなか難しい。というか、それが必要なことにすら気がつかないのである。
物語の中で生きる、とは
コロナ禍で趣味として始めた、オンラインの演劇レッスン。演技を録画してもらい、後で見てみると、演技中の感覚より自分がさらにできていないことに気づかされた。
私は、演技とはセリフを言うことだと捉えていたんだと思う。しかし実際、人物の感情が最も動くのは、むしろ相手のセリフを聞いているときだ。その反応として自分のセリフが生まれる。そして役者は、その物語の世界を形づくる一つのピースになる。
セリフをこう言おう、こう演技しよう、と思わなくなってから、楽に演技できるようになった。
相手のセリフを聞く。その場に身を預ける。呼吸をする。
そこに、フィクションの中のリアルが生まれる。
第3の目とは、物語の世界観を作り上げていくうえで必要な客観性ではないか、と思う。
現実と演劇
この「俯瞰する目を持つ」、という視点そのものは、何も演劇世界に限ったものではない、と思っている。
自分の目線だけではなく、ひとつのフィルターを通すだけではなく、他者視点を想像するとともに、距離感や、どんな環境にいて自分や周囲の人たちがどのような状態なのかを把握すること。
集団で生きていく、社会生活を送るうえで、大切なことだ。
しかし度々忘れてしまう。
演技で自分のセリフや見せ方だけに集中してしまったときのように。
私は録画したレッスンは何度も見返す。できない部分を直視する恥ずかしさもあるが、向き合うことで少しずつ、第3の目が育っていくのではないかと思う。
「プロになるわけでもないのに、なぜ演劇を続けるの?」
そう聞かれることがある。
一言で言うのは難しいけれど、
フィクションの世界を生きることで、現実も生きたいから。かもしれない。
未経験からチャレンジした演劇が、私に世界の別の見方を教えてくれた。