宇宙の裂け目で、名刺を交換しましょう
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こんにちは!高倉友彰です。
会議室の扉を開けた瞬間、そこにはもう誰もいませんでした。昨日まで一緒に働いていた同僚たちの声は、壁に染み込んだ微かな振動に変わり、私の耳元で奇妙な和音を奏でています。これを離人症と呼ぶのだと、窓の外を漂う巨大な影が教えてくれました。その影の正体は、太陽の死を告げる白色矮星でした。オフィス街の真上に居座る白色矮星は、冷たく白い光で私たちのキャリアを照らしています。
離人症に陥った私の指先は、キーボードに触れるたびに透き通っていきます。自分が打っている文字が、本当に意味を成しているのか確信が持てません。白色矮星の光にさらされた書類は、触れると砂のように崩れ、床には真っ白な空白だけが積み重なっていきます。同僚だったはずの影たちは、顔を失い、ただ効率だけを求めて虚空をタイピングし続けています。
そんな静寂を破ったのは、オフィスの隅で芽吹いたパンスペルミア説という名の植物でした。それは宇宙の彼方から飛来した情報の種子が、サーバーの熱を糧にして急成長したものです。パンスペルミア説の葉は、私たちの脳内に直接、未知の言語を流し込みます。それは仕事の進め方でも、成功の秘訣でもなく、ただ生命が宇宙に散らばっていく際の、悲しい叫びに似ていました。
白色矮星がさらに輝きを増すと、重力は意味を失い、机や椅子がゆっくりと天井に向かって浮き上がり始めました。離人症の私は、その光景をただ眺めることしかできません。パンスペルミア説の蔦が私の足首に絡みつき、地球ではない場所の記憶を呼び覚まします。私たちが毎日通っているこの場所は、実は数億年前に誰かが放棄した観測所だったのかもしれません。
パンスペルミア説が吐き出す胞子は、私たちの野心や夢を養分にして、より高く、より遠くへと成長を続けます。白色矮星の冷たい抱擁の中で、会社という組織は解体され、私たちはただの粒子となって、情報の海へと帰っていきます。そこには上司も部下も、納期も予算も存在しません。ただ、永遠に続く静かな作業があるだけです。
あなたは今、自分の座っている椅子が、本当にそこに存在していると信じていますか。離人症の波が打ち寄せ、白色矮星がすべてを白く塗りつぶすとき、あなたが必死に守ってきた実績は、パンスペルミア説の糧となって宇宙の塵に変わるでしょう。窓の外では、次の星が生まれるための爆発が、音もなく始まっています。
明日、新しいプロジェクトが始まるとき、あなたの隣に座っているのは、本当に昨日まで知っていた人物でしょうか。それとも、宇宙の深淵から迷い込んだ、別の何かかもしれません。