アートの未来は「共創」「拡張」「変容」にある
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アートの未来は「共創」「拡張」「変容」にある
──廃墟を見つめ、「時間」「忘却」「再生」をめぐる思索
アート教室を始めて5年。
私は「都市の廃墟」をテーマに制作を続けてきました。朽ちていく建物の壁、錆びついた鉄骨、風雨に削られた痕跡──それらは都市の「時間」を刻む記録であり、「忘却」の影でもあります。
そして同時に、人々の手によって新しく塗り替えられ、再び生まれ変わる可能性を秘めた「再生」の場でもあります。
作家として廃墟に向き合う孤独な時間と、教室で子どもたちと表現を分かち合う共創の時間。その往復を通じて、アートの未来を切り拓く3つのキーワード──「共創」「拡張」「変容」が見えてきました。
孤独な探求(時間と忘却) vs 共創(いまを共有する)
2018年から取り組んできた《廃墟都市》シリーズでは、打ち捨てられたビルや剥がれ落ちたポスターをスケッチし、それを抽象的な線や色に転換してきました。2019年の個展「都市の声なき声」(東京・○○ギャラリー)では、その成果を発表し、「都市の時間をすくい取る試み」として評価をいただきました。
その制作は常に孤独であり、忘却に沈む都市の痕跡と一対一で向き合うものでした。
一方、教室では「共創」が日常です。子どもたちが描く自由な線が、思いがけず都市の地図を思わせることがあります。その瞬間に一言ヒントを添えると、作品は新しい方向へ展開していきます。孤独に磨いた感覚が、他者との出会いによって再び息を吹き込まれるのです。
専門的な拡張(廃墟の再生) vs 誰もができる拡張
作家としては、2021年に発表した《廃墟の再構築》インスタレーションに取り組みました(グループ展「現代都市の記憶」/横浜○○ホール)。
崩れたレンガや鉄片を素材に取り込み、光と映像を重ねることで「廃墟を未来へとつなぐ空間」を立ち上げました。これは高度な実験であり、鑑賞者にとっては挑戦的な表現だったかもしれません。
一方、教室での拡張はもっと身近です。段ボールの切れ端で「こわれかけた街」をつくり、新聞紙を重ねて「未来のビル群」を描く。子どもたちは遊びの中で、忘れられたものを新しい物語へと変えてしまいます。誰もができる拡張のなかに、アートの再生力を感じるのです。
挑戦としての変容(断片都市) vs 自然な変容
2023年からは《断片都市》シリーズを開始しました。
過去に描いた廃墟のスケッチを意図的に分解し、新しい構造へと組み替える試みです。2024年の展覧会「Fragments of City」(大阪・○○アートセンター)では、その変容の過程を作品として公開しました。廃墟は忘却の象徴でありながら、再生の扉でもある──その二重性を探っています。
一方、教室での子どもたちの変容は驚くほど自然です。
昨日は「こわれたビル」だった絵が、今日は「光に満ちた未来都市」へと変わる。彼らにとって廃墟は終わりではなく、物語のはじまり。遊びや好奇心が自然に変容を生み出し、都市を「再生」へと導いていきます。
結びに
廃墟は「時間」「忘却」「再生」が交差する場所です。
その廃墟を前に、私は作家として孤独に探求し、教室では共創の中で再び学びます。
孤独な探求と共創、専門的な拡張と誰もができる拡張、挑戦としての変容と自然な変容──。
その往復のなかで、アートの未来は育まれていくのです。
石塚昭典
アートを通じて学ぶこと