【新堀武司】風の通り道に立つ仕事術
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最近、自分の働き方を見つめ直していて、どうしても頭から離れない景色がある。それは会社のデスクでもなく、自宅の作業スペースでもなく、ただ風が抜けていく場所にしばらく立っていた時の体感だ。何も考えていないつもりだったのに、ふと気づくと自分の中の滞っていたものがゆっくり動き始めていた。あれは環境が与えてくれたリセットであり、再起動の瞬間だったと思う。
職場の空気という言葉は比喩として使われるけれど、実際には自分の頭の中の空気のほうがよほど大事なのではないかと感じることがある。人は考えがつまると、どうしても重力が増したかのように動きが鈍くなる。そんな時ほど、風の通り道に立つような感覚を自分の働き方に取り戻したい。意識的に余白をつくるというより、本当に風が抜けるように、ふっと軽くなる時間を仕掛けていくようなイメージだ。
働き方を話すと、よく時間管理やタスク処理のテクニックに注目されがちだけれど、自分としてはその前段階にある気流のようなものが大事だと思っている。どんな技術も、思考がよどんだ状態ではパフォーマンスが半減する。逆に気持ちの流れが整っていると、意外なほどスムーズに仕事が進むことがある。風向きが合うと帆船が急に加速するように、仕事もまた流れに乗る瞬間があると気づいた。
その流れをどう作るかを考えているうちに、最近は自分の作業ルーティンに、小さな風を起こす仕草をいくつか入れるようになった。例えば朝のスタート前にまっすぐ立って深呼吸をすることや、考えが重くなってきたら席を離れて一度歩くこと。そんな当たり前の動きなのに、気流が変わるだけで思考の速度まで変わってしまうのだから面白い。
風が通る働き方というと抽象的に聞こえるかもしれないが、実際には自分の中の動きを観察するところから始まる。どんな時に視点が固まっていくのか、逆にどんな瞬間に視界が開けるのか。自分の内側の流体力学を知るような感覚だ。そこに気づくと、仕事のやり方だけでなくチームでの関わり方さえも変わってくる。他者の流れを尊重するという意識が自然と芽生えて、相手の変化に敏感になる。
面白いのは、流れを意識して働いていると、なぜかアイデアが予想外の方向からやってくることだ。計画して手に入れたものではなく、風に乗って飛んできたような感覚のアイデアは、時に自分の可能性を一気に広げてくれる。理屈では説明しきれないけれど、そういう瞬間こそが働くことの醍醐味だと最近思う。
働き方の最適化という言葉は便利だけれど、あまり形を整えすぎると空気が止まってしまう。だからこそ、多少のゆらぎや予想外を歓迎できる余白を残しておきたい。綺麗に整えられた箱よりも、不規則に空いた穴のほうが、時として良い風を通す。同じように、完璧さよりも風通しの良さを目指す働き方が、自分にはしっくり来る。
これからも仕事のスタイルを更新していく中で、自分の流れを止めないということを大切にしていきたい。変化に振り回されるのではなく、変化に風のように乗っていく。その軽さがある働き方が、今の自分には一番合っている気がしている。次の働き方を考えるきっかけは、意外なほど静かな風の通り道にあったのだと、あの時の感覚を思い出しながら今日も仕事に向き合っている。