経営の実務をやっていて、いちばん難しいのは悪い話を断ることではないです。悪い話は誰でも断れる。難しいのは、いい話を断るほうです。持ち込まれる案件はだいたい面白いし、数字も立つし、相手も信頼できる。断る理由が一個も見つからない。だから受ける。ここまでは、たぶんみんな同じだと思います。
問題は、受けた瞬間にコストを払うのが自分じゃないところにあります。新しい話を一本入れると、圧迫されるのは自分の来週ではなく、すでに走っている案件と、そこにいる人の来月です。しかもそれは表に出てこない。稼働は請求書に載らないので、崩れて初めて気づく。売上は足し算で見えるのに、負荷は掛け算で効いてくる。ここの非対称がけっこう厄介だなと思っています。
白状すると、一時期の僕は来た球を全部拾っていました。断るのは機会を捨てることだと本気で思っていたので。で、いちばん迷惑をかけたのは、断った相手ではなく、受けたのに手が回らなかった相手でした。断らなかったツケは、断られた人ではなく、こちらを信じて待ってくれた人が払う。これに気づいたときはさすがにこたえました。
なので今は、断るのではなく条件を返すようにしています。「できません」ではなく「この時期なら」「この範囲なら」「この体制を組んでもらえるなら」。相手の目的だけ先に聞いておくと、うちがやらなくていい部分がだいたい見つかるんですよね。それでも無理なら、素直に無理と言う。やることを決めるのは楽しいです。やらないことを決めるのは地味で、正直いまだに気が重い。でも会社の輪郭って、受けた仕事より断った仕事のほうで決まっている気がしています。