【高橋正次・髙橋正次】「雑談力」はなぜ、採用の決め手になるのか?
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これは私が書籍編集者時代に、累計発行部数100万部を超えるビジネス書作家の方から学んだ、キャリアと仕事の本質に関する話です。彼との最初の打ち合わせは、一見すると本の内容とは全く関係のない、本当にどうでもいい雑談から始まりました。
天候の話、最近ハマっているテレビドラマの話、ランチに食べたパスタの茹で加減の話。編集者としては、早く企画の本題に入りたい気持ちで焦りましたが、彼はその「無駄話」を30分近く続けたのです。
しかし、その30分が終わる頃には、私は彼が何を大切にしているのか、どんな価値観で仕事をしているのか、そして何よりも「信頼できる人物かどうか」を深く理解していました。企画書には書かれていない、その作家の「哲学」が、雑談の中に散りばめられていたからです。
企業が採用活動を行うとき、履歴書や職務経歴書、そして面接での「スキル」に関する回答を重視します。もちろん、それらは大切です。しかし、本当に多くの企業のトップが最後に採用を決めるのは、スキルや実績の「表面」ではなく、その裏にある**「再現性のある思考プロセス」**です。
そして、その思考プロセスや価値観を最も鮮明に映し出すのが、「雑談」という名の、低負荷で非論理的なコミュニケーションの場なのです。
雑談の最中、人は無意識のうちに、自分の仕事への向き合い方、問題解決へのアプローチ、他者への共感性、そして何より「ストレス耐性」を露呈します。たとえば、予期せぬ質問への切り返し方には、その人の「変化への柔軟性」が表れます。自分の専門外の話題に興味を持てるかには、「知的好奇心」が表れます。
これは、私が複雑なテクノロジー記事を「初学者にもわかりやすく」噛み砕く作業と本質は同じです。専門的な内容を伝えるには、まずその専門家(書き手)が、専門外の読者(読み手)の視点に「共感」できるかどうかが鍵になります。
採用面接における雑談は、企業側が応募者に対して「あなたは、私たちのチームという編集プロダクションの一員として、予測不能な状況下でも、チームメイトの視点に立って、柔軟に対応できるか?」を無意識に試す場なのです。
結果的に、その作家の方との本は、彼の哲学が色濃く反映された「刺さる」内容となり、大ヒットしました。あの30分の雑談こそが、企画の成功を保証する「信頼関係」という土台を築いていたのです。
もしあなたが転職活動中であれば、スキルや実績を語るだけでなく、「なぜ自分はこの仕事をするのか」という根源的な問いへの答えを、飾らない雑談の中で伝えられるかどうかを意識してみてください。そこが、あなたの真の価値を伝える最短距離になるはずです。