数字を見るより先に、その人の帰り道を思い出す
はじめまして。
BtoB向けの業務支援SaaSを提供する会社で、カスタマーサクセスを担当している佐藤 涼です。
仕事を説明するとき、いつも少し迷います。
導入後のお客様を支援する仕事。
活用状況を見て、改善提案をする仕事。
継続率や利用率を上げる仕事。
たしかに、どれも間違っていません。
でも、ほんとうはもう少しだけ違う気がしています。
僕が向き合っているのは、管理画面の向こうにいる人です。
ダッシュボードに並ぶ数字の奥には、誰かの一日があります。
朝から続いた社内会議のこと。
うまく進まない現場への説明のこと。
「このツール、本当に使い続ける意味があるのか」と聞かれた帰り道のこと。
利用率のグラフには、そんなことは書かれていません。
でも、きっとある。
そう思うようになったのは、入社して最初に担当したお客様とのやり取りがきっかけでした。
当時の僕は、活用率を上げることに必死でした。
ログイン数。機能利用率。定例会での報告資料。
数字を追いながら、毎日何かを前に進めている気がしていました。
ある日、お客様からこんなことを言われました。
「便利なのはわかるんです。でも、現場にどう伝えればいいかが難しくて」
その一言を聞いたとき、はじめて気づきました。
僕は、プロダクトの使い方を説明していた。
でも、お客様が本当に悩んでいたのは、社内で納得してもらうことだった。
僕にとっての成功は、利用率が上がることでした。
でも、お客様にとっての成功は、現場の人たちが少し前向きに使い始めることだったのだと思います。
それから、仕事の見え方が少しずつ変わりました。
カスタマーサクセスは、使い方を教える仕事ではない。
お客様が、自分たちの言葉で変化を説明できるように支える仕事なのだと思うようになりました。
もちろん、数字は見ます。
ログイン率。アクティブユーザー数。解約リスク。
問い合わせ件数。機能別の利用状況。更新率。
数字は正直です。
でも、数字だけではやさしくありません。
数字は、何が起きたかを教えてくれます。
でも、なぜそうなったのかまでは、こちらから聞きにいかないと教えてくれません。
だから僕は、数字を見る前に、お客様の言葉を思い出すようにしています。
何を変えたくて導入したのか。
誰に説明しなければいけないのか。
どこでつまずいているのか。
何を不安に思っていて、何をあきらめたくないのか。
その人の言葉をちゃんと思い出せたとき、
ただの改善提案が、少しだけ人の温度を持ちます。
仕事で大切にしていることは、派手なことではありません。
定例の前に、前回の言葉を読み返すこと。
返信を早くすること。
できないことを曖昧にしないこと。
うまくいかなかった理由を、お客様だけの責任にしないこと。
「大丈夫です」の奥にある不安に、少しだけ立ち止まること。
正直、小さなことばかりです。
でも、信頼はたぶん、
大きなプレゼンではなく、小さな約束の積み重ねでできている。
「佐藤さんがいるから、もう少し頑張れそうです」
そう言っていただけたとき、うれしかったです。
でも本当は、その言葉をもらうまでの時間のほうを大事にしたいと思っています。
うまく使えない時期もある。
社内で反発されることもある。
成果が出るまでに時間がかかることもある。
それでも隣で考え続けること。
晴れの日だけ一緒にいるのではなく、
雨の日に傘の場所を覚えているような人でいたいです。
仕事は、誰かの人生そのものではないかもしれません。
でも、誰かの一日には、確かに触れています。
その人が少し安心して帰れるように。
明日の会議で、少し胸を張れるように。
自分たちの選択は間違っていなかったと、静かに思えるように。
僕はそのために、数字を見ています。
そのために、提案をしています。
そのために、今日もお客様の話を聞いています。
数字を見るより先に、その人の帰り道を思い出す。
それが今の僕の、仕事のはじまりです。