前回までの記事では、学校の小テストに合わせた英単語学習コンテンツを作った話を書きました。
ただ質問に答えるだけでは、どうしても「ChatGPTでよくないですか?」という問題を超えにくい。
そこで、学校の教科書に準拠した英単語学習コンテンツを作り、生徒にとって使う理由が分かりやすい形にしました。
英単語テストで点を取るために使える。 学校の進度に合わせて学習できる。 教科書の章ごとに取り組める。
この方向性自体は、そこまで悪くなかったと思います。
しかし、それでも期待していたほどアクセスは増えませんでした。
ここで改めて考えたのは、生徒が学習を始めるまでに残っている摩擦です。
教材の内容を学校のテストに寄せることで、「使う理由」はある程度作れました。
しかし、それだけでは足りませんでした。
生徒が実際に動くためには、使う理由だけでなく、すぐに始められることも必要でした。
1.) 生徒は、最小の労力で小テストを乗り越える
学校の英単語テストは、生徒にとって分かりやすい目標です。
点数がつく。
範囲が決まっている。
授業中に実施される。
場合によっては成績にも関わる。
そのため、英単語学習コンテンツを学校の小テストに寄せることは、生徒にとっての利益を分かりやすくするうえで有効だと考えました。
ただ、実際にはここにも難しさがありました。
多くの生徒にとって、学校の小テストは直前に少し覚えれば、ある程度何とかなってしまうものでもあります。
前日の夜。 当日の朝。 あるいは、テスト前の休み時間。
15分ほど確認すれば、完璧ではなくてもそれなりの点数は取れる。
そう考えると、生徒がわざわざ学習サイトにログインして、教材を選んで、問題を解く必要性はそこまで強くありません。
これは、生徒が怠けているという話ではありません。
むしろ短期的に見れば、かなり合理的です。
100の成果を求めて100の労力を使うより、80の成果を40の労力で取れるなら、その方が効率は良い。
もちろん、長期的な記憶の定着という意味では望ましくないかもしれません。
しかし、生徒の目の前にある目標が「次の小テストで点を取ること」になっているなら、直前に詰め込む方が自然です。
本来、小テストは記憶の定着を促すためのものです。 しかし、生徒にとっては「点数を取るイベント」になりやすい。 すると、長期的に覚えることよりも、短期的に点を取ることが優先されます。
ここで私は、教材の内容を良くするだけでは足りないと感じました。
生徒にとって、学習サイトを使うことが明らかに便利で、始めるまでの負担が小さくなければ、日常的には使われない。
つまり、次に考えるべきなのは、コンテンツそのものよりも、その入口でした。
2.) 学習場所を、日常の導線の中に置く
この時点で、追加したい機能のアイデアはいくつかありました。
たとえば、フラッシュカードのような仕組みを作れば、単語をよりテンポよく確認できるかもしれません。
音声を組み合わせれば、発音やリスニングにもつなげられます。
英単語だけでなく、並び替え問題にすれば、文法力にもアプローチできます。
どれも、方向性としては悪くありません。
しかし、一度立ち止まることにしました。
ここでコンテンツを充実させても、それが生徒に開かれなければ意味がありません。
以前、数学の問題やプリントを生成できるWebサービスを作ったときも、機能自体はあってもほとんど使われませんでした。
同じ失敗を繰り返す可能性がありました。
そこで、まず考えるべきなのは「何を作るか」ではなく、「どうすればそこに来てもらえるか」だと整理しました。
これは、私自身が運動を続けられるようになった経験ともつながっています。
私が運動を続けられるようになった理由の一つは、職場の近くにジムがあったことでした。
わざわざ遠くまで行く必要がなく、仕事前の生活導線の中に、自然に運動できる場所がある。
この「近さ」は、習慣化においてかなり大きな意味を持っていました。
学習でも同じことが言えるのではないか。
生徒に、わざわざ学習サイトへ来てもらうのではなく、 生徒がすでに毎日使っている場所から、学習に入れるようにする。
そこで最初に考えたのが、LINEの通知から学習ページへ直接つなげることでした。
3.) 理想案としてのマジックリンク
最初に思いついた理想案は、マジックリンクに近い仕組みでした。
LINEで学習リマインダーを送る。 その中に、生徒ごとの専用リンクを含める。 リンクを押すと、ログイン画面を通らず、そのまま長文学習やリスニング学習のページに入れる。
これが実現できれば、生徒が学習を始めるまでの摩擦はかなり小さくなります。
ログインしなくてよい。 教材を探さなくてよい。 何をするか迷わなくてよい。LINEに届いたリンクを押せば、その日の学習に入れる。
生徒にとってはかなり自然な形です。
ただ、実装を考え始めると、すぐに問題が見えてきました。
現在のシステムは、基本的にユーザーがメールアドレスとパスワードでログインしていることを前提に作っています。 各機能の中でも、「ログインしているユーザーが誰か」をもとに、生徒情報や権限を判断しています。
つまり、機能とログイン状態がかなり強く結びついています。
この状態で、リンクを押すだけで学習ページに入れる仕組みを雑に追加すると、今後の拡張時に危険が増える可能性がありました。
4.) 完全なマジックリンクを、今回は採用しなかった理由
最も単純な実装だけを考えれば、リンクを踏んだ時点で本人とみなし、ログイン状態を付与する方法もあります。
技術的には、おそらく可能です。
しかし、これは現在の用途だけを見れば動いたとしても、将来的な拡張を考えるとかなり危険です。
今は学習ページへの遷移だけを想定していたとしても、システムが拡張されれば、ユーザー情報の変更、講師側の管理機能、課金に関わる機能など、より重要な操作が増える可能性があります。
そのときに、リンク一つで広い範囲の操作を許してしまう設計になっていると、危険です。
もちろん、権限を細かく制限したマジックリンク専用の状態を作ることも考えられます。
たとえば、ログイン済みユーザーとして扱うのではなく、特定の学習操作だけを許可する一時的なアクセス状態を作る。 出題や採点の処理は既存のものを流用しつつ、アクセス制御だけを切り分ける。
この方向であれば、より安全に実装できるかもしれません。
ただし、その場合は既存の出題・採点ロジックをかなり丁寧に見直す必要があります。
どこまでがログイン状態に依存しているのか。 どこまでを共通化できるのか。 マジックリンク経由で許可してよい操作はどこまでなのか。
今後の機能追加時に、同じ制御をどう維持するのか。
このあたりを整理せずに進めると、同じような処理が複数箇所に分かれ、後から修正漏れが起きる可能性があります。
つまり、きちんと作るなら、それなりに大きな設計変更になります。
一方で、それだけの工数をかける価値があるかは、まだ分かりませんでした。
そもそも、LINEでリンクを送っても、生徒がクリックしてくれるとは限りません。 クリックしてくれたとしても、実際に学習まで進むとは限りません。
この段階で、理想形を作り込むのは少し重すぎると判断しました。
5.) 今回選んだ小さな導線改善
そこで今回は、完全なマジックリンクではなく、ログイン後に目的の学習ページへ遷移する形を選びました。
具体的には、LINEで送るリマインダーに、学習ページへのリンクを含められるようにしました。
そのリンクには、ログイン後にどのページへ移動するかを示す情報を持たせています。
生徒がすでにログインしていれば、そのまま対象の学習ページへ移動できます。 未ログインであれば、まずログイン画面へ移動します。
そしてログインが完了すると、指定されたリーディングやリスニングなどの学習ページへ遷移します。
完全なマジックリンクではありません。 ログインの手間は残ります。
ただし、ログイン後に教材を探す必要はありません。
どの学習をすればよいか迷う必要もありません。
LINEの通知から、少なくとも目的の学習ページまではつながります。
いわば、「ログイン後リダイレクト付きの学習リンク」です。
理想形ではありませんが、今回の目的には十分だと考えました。
私が確かめたかったのは、まずこの導線が機能するかどうかです。
生徒はLINEのリンクを押すのか。
ログイン画面が挟まっても、その後学習ページまで進むのか。
一度ログインした状態が残っていれば、次回以降の摩擦はどの程度下がるのか。
LINEのブラウザで想定通り動くのか。
これらは、実際に使ってみないと分かりません。
だからこそ、今回は大きく作り込むよりも、小さくつないで試せる形を優先しました。
6.) 今回の学び
今回作ったものは、技術的に最も理想的な解決策ではありません。
リンクを押すだけで学習ページに入れる完全なマジックリンクではありませんし、生徒にログインしてもらう手間も残っています。
それでも、今の段階ではこの形が妥当だと判断しました。
なぜなら、今必要だったのは、最初から理想形を作り込むことではなかったからです。
生徒がLINEからリンクを押すのか。 ログイン後に学習ページまで進むのか。 日常の中に置いた入口が、実際に学習につながるのか。まずはそこを確かめることの方が重要でした。
教材を作るだけでは使われない。
通知を送るだけでも足りない。
では、LINEから直接学習ページへつながる導線を置いたらどうなるのか。
今回の実装は、その問いを確かめるための小さな一歩です。
理想的な機能を作ることと、今作るべき機能を選ぶことは同じではありません。
今回は、セキュリティや保守性のリスクを大きく増やしてまで完全なマジックリンクを作るのではなく、まずはログイン後リダイレクトという形で、学習への入口を少し近づけることにしました。
小さく作り、実際の行動を見る。
そのうえで、本当に必要だと分かれば、次の段階としてより本格的なマジックリンクや専用のアクセス制御を検討すればよい。
今回の判断を通して、機能単体の理想よりも、利用者の行動とシステム全体の安全性を見ながら進めることの重要性を改めて感じました。
7.) 次回の方向
次に考えているのは、学習行動を可視化する仕組みです。
LINEから学習ページへの導線を作っても、それだけで十分とは言えません。
生徒がリンクを押したのか。 学習ページまで到達したのか。 問題を解いたのか。 途中で止まったのか。 何日続いたのか。
これらが見えなければ、導線が本当に機能しているのか判断できません。
そこで次は、生徒の学習行動をイベントとして記録し、それを実績や進捗として見える形にする仕組みを考えています。
単に「ログを取る」のではなく、生徒本人にとっては小さな達成感になり、講師にとっては声かけのきっかけになるような形にしたいと思っています。
次回は、学習行動をどのように記録し、どのように可視化するかについて書いていきます。