2026年10月16日、Anthropic(Claudeの開発企業)が、AIと雇用に関する2本の研究報告書を公開しました。社内でAIを徹底活用した結果、働き方や採用がどう変わったかをまとめた「How Employment is Changing at Anthropic」と、一般の人とAI開発者の予想の差を調べた「The AI Expectations Gap」です。
報告書のポイント
Anthropic社内では、AIエージェントの稼働時間がすでに社員の6倍に達しています。エンジニアのコード量は約5倍、法務の契約処理は約3倍に増えました。その一方で、若手技術職の採用割合は27%から9%に下がっています。採用で重視される力も、専門知識や実行力から「自律性・判断力」へと移りつつあります。
一方で、AIの出力を確認する人間の注意力がボトルネックになっています。会議時間も増え、営業や面接、部門をまたぐ調整といった対人の仕事は人間に残っているそうです。
もう1本の調査では、米国の一般の人がAI普及の障壁として最も多く挙げたのが「顧客が人間とのやりとりを好む」でした。
私が考えたこと
一番強く感じたのは、これからは個人、特に若手が「自分のどんなことに、どれだけ投資するか」がこれまで以上に重要になるということです。企業が若手を採用して育てる余地が小さくなるなら、学びや成長の舵取りは自分自身に委ねられていきます。
その投資先を考えるヒントが、「人間とのやりとり」への支持だと思います。知識が一般化し、業務が効率化されるなかで、手触り感が失われた、あるいは失われるのではと感じた人が次に求めるのは、リアルな接触なのではないでしょうか。教育現場でも生成AIなどのテクノロジーが話題になるほど、対面で関わることや実際に手を動かすことの大切さを直感的に感じる声が、現場で強くなっていくのを見てきました。
とはいえ、人口減少と人手不足が進む日本で、生成AIを活用しないという選択肢は狭まっていくはずです。そこで参考になったのが、YouTube:PIVOTの番組「全ビジネスパーソン必見『FDE思考』とは」(2026年10月6日公開)で、エンジニア・起業家の中島聡さんが語っていた考え方です。業務フローを見るときに、絶対に人間の手が入らなければならない場面を見つけ、それ以外は生成AIに置き換えるというものでした。
Anthropicの報告書で採用基準が「判断力」へ移っていることを踏まえると、これから個人が磨くべき力の一つは、「人間が絶対にやった方がいい活動は何か」という視点で物事を見る視座だと考えます。わかりやすい例はコミュニケーション。育児や教育も、人が関わった方がよい領域の代表だと思います。
コミュニケーションこそ人が担う部分だと実感した経験があります。以前、テクノロジー活用に関する提案したとき、なかなか受け入れてもらえませんでした。ところが、同じような提案を別の人がすると、通ったのです。説明のわかりやすさやタイミングなど、ほかの要因もあったと思います。それでも、提案が通るかどうかは内容だけでなく「誰が言うか」、つまり日々のコミュニケーションや信頼関係、組織の中での政治力も影響してくると感じました。
Anthropicの報告書でも、AIだけでは解決できない組織的な問題には、人が集まって話し合い、意思決定することが必要だと社員が語っています。AIを導入するかどうかを決めるのも、最後は人と人。
AIに任せる部分と、人が担う部分を見極めること。そして、人が担う部分では日々の関係を丁寧に築いていくこと。私自身も投資していきたい力です。
参考資料
- Wilmers, N., Catipon, R., Massenkoff, M., McCrory, P.(2026)「How Employment is Changing at Anthropic」The Anthropic Institute
https://www.anthropic.com/research/employment-at-anthropic - Sacher, S., Cotter, T., Jones, C. I., Korinek, A., McCrory, P.(2026)「The AI Expectations Gap: Public and Frontier Lab Views on AI’s Impact on Work」The Anthropic Institute
https://www.anthropic.com/research/ai-expectations-gap - PIVOT 公式チャンネル「【伝説のエンジニア中島聡氏に聞く】全ビジネスパーソン必見『FDE思考』とは」(2026年10月6日公開)
https://youtu.be/8CYWWOPq7Q4
📷写真は、奈良県の若草山山頂より。