前回のストーリーでは、理学療法士として病院で約10年間働いてきたことを書きました。
臨床だけでなく、学会発表や論文執筆、後輩の育成などにも関わり、理学療法士として多くの経験を積ませてもらいました。
それでも2024年、私は病院を離れ、ヘルスケアITの世界へ進むことを決めました。
今回は、その理由について書いてみたいと思います。
臨床以外にも、医療に貢献する方法があるのではないか
病院で働いていた頃、目の前の患者さんに向き合う仕事には大きなやりがいがありました。
一方で、経験を重ねるほど、患者さん一人ひとりへの支援だけでは解決できない課題にも目が向くようになりました。
医療現場には、多くの知識や経験、そして膨大な情報があります。
しかし、それらが十分に整理されず、次の改善や組織の判断につながっていないことも少なくありません。
また、医療職は勤務時間外にも勉強し、論文を読み、研修へ参加します。
私自身も研究や学会活動に取り組んできましたが、こうした学びの多くが個人の努力に依存し、学んだことを組織や次の仕事へ還元するところまでつなげるのは簡単ではありませんでした。
「医療への貢献は、臨床現場に立ち続けることだけなのだろうか」
少しずつ、そう考えるようになりました。
医療現場の外から、医療を見る
当時の自分にとって、理学療法士のキャリアはそれほど多く見えていませんでした。
病院で働き続けるか、独立するか、あるいは医療とはまったく違う業界へ転職するか。
そのくらいの選択肢しか、現実的には見えていなかったと思います。
そんな中で知ったのが、ヘルスケアITという領域でした。
医療現場を離れるのではなく、ITや仕組みを通じて医療現場を支える。
その働き方であれば、これまでの臨床経験を捨てるのではなく、別の形で生かせるのではないかと考えました。
2024年9月、私は約10年間続けた病院勤務を終え、ヘルスケアIT企業へ転職しました。
臨床経験は、ITの世界でも無駄にはならなかった
転職後は、医療DXや電子カルテ関連システムの導入支援に携わっています。
仕事の内容は大きく変わりました。
患者さんに直接リハビリテーションを提供する仕事から、システムや仕組みを通じて医療現場を支える仕事へ。
一方で、実際に働いてみると、病院で身につけた経験が意外なほど生きることに気付きました。
現場で何が起きているのかを想像すること。
相手が困っていることを整理すること。
複雑な情報を調べ、必要な部分を取り出し、相手に合わせて伝えること。
臨床や研究を通じて身につけてきた力は、ITの世界でもそのまま使うことができました。
特に印象的だったのは、ITの世界では「仕組みとして再現できること」が重視されることです。
誰か一人の経験や努力だけに頼るのではなく、情報を整理し、手順をつくり、他の人でも使える状態にする。
医療現場で当たり前だと思っていたことを、別の業界から見ることで、初めて気付けることもありました。
資格を捨てたのではなく、資格の使い方を変えた
病院を辞めたことで、理学療法士ではなくなったとは考えていません。
むしろ、
資格を捨てたのではなく、資格の使い方を変えた。
今はそう考えています。
患者さん一人に直接関わる働き方から、製品や仕組みを通じて、医療現場を支える働き方へ。
臨床で得た経験があるからこそ、ITだけでは見えにくい現場の事情が分かる。
ITの世界を知ったからこそ、医療現場だけにいた頃には見えていなかった改善の可能性にも気付ける。
この二つの視点を持てたことは、自分のキャリアにとって大きな転換点になりました。
そして、医療とITの間にまだ課題があることにも気付いた
ヘルスケアITの仕事を経験する中で、もう一つ見えてきたことがあります。
医療現場には価値のある情報や知識がたくさんある一方で、それを安全に整理し、分析やAI活用につなげていくには、まだ多くの壁があります。
医療職自身の知識や経験についても同じです。
持っている知識を、その人の中だけで終わらせず、次の学びや発信、組織の改善へつなげる方法は、まだ十分に整っていないと感じました。
臨床とIT、両方の世界を経験したからこそ見えてきた課題でした。
この経験が、その後、合同会社K-Brainを立ち上げることにつながっていきます。
次回は、なぜ会社をつくるという選択をしたのか。
そして、K-Brainで何を実現しようとしているのかを書いてみたいと思います。