先週の金曜日、アイドルの宮本佳林さんが10時間のYouTube生配信をされました。朝8時から夜18時まで、視聴者と一緒に家にあるものでミュージックビデオを再現していく企画です。
その配信を支えていたのは、宮本さんご自身が作ったシステムでした。オフィシャルブログにこう書かれています。「プログラミングの経験はゼロ。コードは一行も自分で書いていません」。
本格的な配信システムです。
投稿数に応じて伸びるゲージ、本人が数値やテロップを操作する管理画面、X検索APIを叩いてハッシュタグを数える仕組み、動画のフレームをVision APIで採点するアプリ、バックエンドはCloudflare Workers、状態管理はCloudflare KV。生放送の下で10時間、一度も止まらずに配信を支えました。
実装はClaude Codeが担当しています。
その配信を設計したのが、配信について深く理解している配信者本人であることが効いています。
ゲージが何件で解禁されると盛り上がるのか、テロップをどの間隔で回すと10時間もつのか、どの瞬間を採点にすると視聴者が動くのか。
仕様書に書ける類のものではありません。従来なら、企画者がそれを言葉にし、エンジニアが解釈し、動くものを見てまた直す、という往復が挟まりました。往復のたびに、言葉にできなかったものが落ちていきます。宮本さんの場合、その往復がゼロでした。
会社の管理的な立場にいる側として読むと、宮本さんが「大変だった」と書いている3か所は、他人事ではありません。
X公式APIが個人には高額だったこと。海外サービスの決済が何度やっても通らなかったこと。カメラとアプリを配信ソフトにつなぐ作業。
会社に置き換えると、この3つは全部、私のような立場の人間が握っています。API利用料の予算枠、海外サービスとの契約と支払手段、社内システムに触る権限。
つまり、社内で同じアイデアが生まれたとき、止めているのはAIの能力でも現場の技術力でもありません。私たちです。
「エンジニアがいないから内製できない」という説明を、私はもう使えなくなりました。深いドメイン知識を持っている人は、社内にいます。
営業の手順を一番分かっているのは営業ですし、請求の例外処理を全部覚えているのは経理です。その人たちが仕様書を書いてIT部門に渡すという往復の中で、言葉にできなかったものが落ちていました。そして、今や往復を減らせるようになったのに、減らせない理由を作っているのが、予算枠と決済手段と権限の問題です。
内製の議論は、開発工数の前に権限をどこまで開けるかを決めなければいけなくなっていると実感したエピソードでした。
出典
・宮本佳林オフィシャルブログ 2026年8月1日 https://ameblo.jp/miyamotokarin-official/entry-12974432505.html
・同 2026年7月31日 https://ameblo.jp/miyamotokarin-official/entry-12974440752.html