最近、いわゆる「プログラマ35歳定年説がなぜ成立しなくなったのか?」と疑問を提起する投稿を目にする機会がありました。この言葉自体は以前から知られていますが、私自身も、現在の開発現場の実態を踏まえると、その前提条件は、かなり前から成立しなくなったと感じます。
「業界全体の高齢化」は一旦置いておいて、本稿では「個人の能力差」や「精神論」ではなく、仕事の構造がどう変化したかという観点から、この説が成り立たなくなった理由を整理します。
目次
- プログラミングの速さが主役だった時代
- 今の現場で求められているもの
- 現場で詰まるのは「書けない」場面ではない
- 役割と評価軸が変わった
- 一旦のまとめ
- 採用と育成の視点で見る「35歳以降」の価値
- 採用で見ているのは「即戦力」ではなく「判断力」
- 育成のゴールは「書ける人」から「支えられる人」へ
- 年齢ではなく、役割のグラデーションを見る
- おわりに
プログラミングの速さが主役だった時代
過去の多くの開発現場では、プログラマの価値は以下に強く依存していました。
- どれだけ速くコードを書けるか
- どれだけ正確に仕様通り実装できるか
この前提では、
- 新しい言語・フレームワークへの即応力
- 長時間集中して実装を続けられる体力
といった要素が評価軸になりやすく、年齢との相関が語られやすい構造がありました。
「35歳定年説」が広まった背景には、実装量とスピードが成果に直結しやすい時代の仕事観があったと考えられます。
今の現場で求められているもの
一方、現在の多くの現場では、単純な実装速度だけで価値が決まる場面は減っています。代わりに比重が増しているのは、次のような作業です。
- 仕様が確定していない状態で、前提条件を整理し、設計に落とす
- 障害対応・運用コスト・将来変更を踏まえて実装範囲を決める
- チーム構成や事業要件を考慮して、技術選定のリスクを抑える
これらはコード量や記述速度では測定できません。また、成功体験よりも失敗経験の蓄積が判断精度に直結する領域です。
現場で詰まるのは「書けない」場面ではない
実際の開発現場で問題になるケースを振り返ると、「実装できない」ことがボトルネックになる場面は限定的です。
多くの場合、詰まるのは次のような判断です。
- ここまで作り込むべきか、割り切るべきか
- 今回の対応で将来の変更余地を残すべきか
- 技術的には正しいが、運用上は重くならないか
これらには明確な正解がなく、判断を誤ると手戻り・障害・保守負荷として後から効いてきます。
この種の判断は、経験の引き出しが多いほど再現性が高くなります。年数を重ねた人ほど安定した選択ができるのは、この構造によるものです。
役割と評価軸が変わった
以上を踏まえると、現在のプログラマの仕事は、
- 若い頃と同じ価値の出し方を続ける仕事
ではなく、
- 経験に応じて、価値の出し方が変わっていく仕事
に変化したと整理できます。
これは「寿命が延びた」という話ではありません。評価軸そのものが、実装量中心から判断力・設計力中心に移動したというだけです。
35歳以降も現場で必要とされている人は、特別な才能を獲得したわけではなく、仕事の重心が移動する中で、自然と役割を適応させてきただけだと言えます。
一旦のまとめ
- 35歳定年説は、実装速度が価値の中心だった時代の前提に依存している
- 現在の現場では、設計・判断・リスク調整の比重が大きい
- 年齢ではなく、どの判断を担っているかが価値を決めている
この構造を理解せずに年齢だけで議論すると、
現場の実態からズレた結論になりやすくなります。
「35歳で終わるかどうか」ではなく、
どの判断を引き受けられるかが、今のプログラマの価値を決めている、
それが現在の開発現場の実情だと考えています。
採用と育成の視点で見る「35歳以降」の価値
採用や育成の立場でこの話題を見ると、「35歳定年説」は別の形で影響を残しているようにも感じます。それは、「年齢が上がる=現場での価値が下がるのではないか」という、漠然とした不安です。
ただ、実際の現場で評価されているのは年齢そのものではありません。
- 曖昧な要求を前提条件まで分解できるか
- トラブル時に、感情と切り離して状況を整理できるか
- チーム全体の負荷やスケジュールを見て、技術的な落とし所を選べるか
こうした力は、年数を重ねた人ほど再現性高く発揮できる傾向があります。
採用で見ているのは「即戦力」ではなく「判断力」
中途採用でよく語られる「即戦力」という言葉も、実際には「すぐにコードを書ける人」という意味ではないことがほとんどです。
現場が本当に求めているのは、
- 仕様が固まりきっていなくても、手戻りを最小化できる人
- 不完全な情報の中で、仮の結論を出せる人
- 若手が迷いやすいポイントを、言語化して共有できる人
こうした判断力や整理力を持つ人材です。これは短期間の学習では身につきにくく、経験の積み重ねによって磨かれていきます。
育成のゴールは「書ける人」から「支えられる人」へ
育成の観点でも、目指すゴールは少しずつ変わってきています。
新人期は、「正しく書ける」「手順通りに実装できる」ことが重要です。
一方で、ある程度経験を積んだ後は、
- 他人の設計の意図を汲み取れる
- 危うい実装を、早い段階で指摘できる
- チームが無理をし始めている兆しに気づける
といった役割が求められるようになります。
これは「マネージャーになる」という話ではありません。現場にいながら、チームの安定性を高める存在になる、という意味です。
年齢ではなく、役割のグラデーションを見る
35歳以降のエンジニアをどう扱うか、という問いは、本来「年齢」の問題ではなく、「役割設計」の問題だと思っています。
書く人、考える人、支える人。
これらは分断されるものではなく、連続したグラデーションです。
採用でも育成でも、「今どこに価値を置いている人か」「次にどこを担ってもらうと、チームが楽になるか」を見ていく方が、ずっと健全です。
35歳を過ぎても現場に必要とされる人が増えているのは、特別な才能を持った人が増えたからではありません。仕事の構造が変わり、経験がきちんと価値として使われる場所が増えただけ、それだけの話なのだと思います。
おわりに
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