弊社Daisybell Japanでエグゼクティブアドバイザーを務める田畑は、コールセンター業務受託の会社でキャリアをスタートし、Yahoo! JAPAN、楽天、EPARKと一貫してカスタマーサービスの最前線に立ってきました。
国内EC企業として初となる世界標準規格「COPC」の認証タイトルを取得するなど、現場改善において20年以上の実績を重ねています。
その田畑に、全3回にわたって話を聞きます。第1回は、この業界に足を踏み入れたきっかけから、業態を超えて変わらない顧客対応の課題まで。「カスタマーサービス25年の原点」です。(聞き手:Daisybell Japan 広報担当)
目次
1. Windows 95をきっかけに、この仕事へ
── これまでのご経歴と、この業界に興味を持ったきっかけを聞かせてください。
田畑:最初にこの業界に入ったのは、コールセンターの業務受託を行う会社でした。まだ100人に満たないベンチャーで、大手IT企業の社内ヘルプデスク業務を受託しており、各拠点のオフィスに常駐してサポートにあたっていました。
さまざまな事業会社の中に、そのIT企業のソリューションが入っていて、その社内ヘルプデスクを担当。大手広告会社の社内ヘルプデスクを長期にわたって担当するなど、ここでコールセンターの基礎を学びました。
── そもそも、なぜこの業界を選ばれたのでしょうか。
田畑:もとをたどると、Windows 95が出た頃です。インターネットとパソコンというものに衝撃を受けて、このプロフェッショナルになりたいと思ったのがきっかけでした。ちょうどやりたいことを探していた時期で、「まさにこれだ」と感じましたね。
半年ほど学べる場所でオフィスソフトやプログラミングを学び、ブロック崩しゲームを一から作れるようになった頃には、もうこの仕事をやっていくと決めていました。インターネット黎明期に受けた衝撃が、今のキャリアの原点になっています。
── 受託の仕事を続ける中で、どんな思いが芽生えましたか。
田畑:5年ほど続けた頃に、自社サービスのサポートをしたいという思いが強くなりました。受託の仕事は、プロジェクトが終わると次のプロジェクトに移ります。自社のサービスを改善したい、自社サービスのコールセンターを支えたいという思いが強くなり、それが次の転機につながりました。
2. Yahoo! JAPANでの10年、そして楽天でのCOPC挑戦
── その後、Yahoo! JAPANに移られたのですね。どんな10年でしたか。
田畑:当時のYahoo! JAPANはまだ数百人規模のベンチャーで、大量採用をしている時期でした。そこから10年在籍する間に、従業員数は数千人規模まで増えていきましたので、急成長期から安定期までを経験させてもらったことになります。
最初は小規模なメールサポートのチームで、私自身も対応にあたっていました。その後チームリーダーとなり、セキュリティやISMSの担当、オペレーション部門長、法人サポート部門長と役割が広がって、コンシューマー・法人の両方のサポート部門を一通り経験しました。
── 当時の上司の勧めで、COPCを学ばれたそうですね。COPCとはどんなものですか。
田畑:コールセンターの運営を網羅的に改善するための世界標準規格です。網羅的なKPIとプロセスを整理していて、30年以上の歴史があります。当時の上司の勧めで研修に参加し、網羅的なKPIとプロセスを学んで、コールセンターの幅広いスキルを身につけました。
コールセンター業界には、こうした網羅的な改善の規格があまり多くありません。
── 楽天では、どのような挑戦をされましたか。
田畑:楽天では複数の事業を担当しました。なかでも、物流拠点でサポートと配送を一体で担うトライアル事業は大きな経験でした。倉庫や市場にも足を運び、ビジネス全体を把握したうえでカスタマーサポートを行うという、これまでにない体験でしたね。
そこで、当時の代表の後押しもあって、COPC認証タイトルの取得に挑戦しました。その後、買収した企業の改善にも加わり、約1年でコストを半減、約2年で事業の黒字転換を実現しています。グループ内のコールセンター業務を受託し、部門単体でも黒字化するなど、プロフィットセンター化にも取り組みました。
3. 業態が変わっても、変わらない課題がある
── ポータル、EC、店舗予約サービスと業態は大きく異なりますが、課題の違いと共通点はどこにありますか。
田畑:プラットフォーム型か直販型かによって、問い合わせの構造は大きく変わります。プラットフォーム提供側にはログインやキャンセルなど限られた問い合わせが集まり、店舗や商品に関する連絡は各事業者様に向かうため、発生率自体が大きく異なります。
また、コンシューマー向けか法人向けかでも、サポートで重視すべきKPIの性質は変わってきます。
── 反対に、業態を問わず変わらないものは何でしょうか。
田畑:「商品が届かない」「予約をキャンセルしたい」といった致命的なトラブルは、どの業態でも必ず発生します。ただ、本当にどの業態でも共通して一番重い課題は、問い合わせすらしてくれない「サイレントカスタマー」の存在です。
例えばECなら、お客様は購入ボタンの一歩手前まで来て、他社と比較した末に離脱してしまいます。企業としては、まさにそこで問い合わせがほしいわけですが、その声はコールセンターには届きません。
── その「届かない声」には、具体的にどう向き合われたのですか。
田畑:EPARKでは、予約サービスの離脱を防ぐボタンを内製で開発しました。離脱の理由を分析すると、希望の日時が空いていないか、希望の診療メニューがないか、ほぼこの2つに集約されたんです。そこで、迷っているお客様に「お困りですか」と表示し、条件に合う近隣の店舗をすぐに提案する仕組みをつくりました。
あわせて、5段階のレビューボタンも内製し、全事業に導入しました。コールセンターの問い合わせ発生率は1〜5%程度ですが、レビューボタンではその5倍から10倍の声が集まります。 この「届かない声」をどう拾い上げて改善につなげるかが、どの業態でも一番大切なポイントだと考えています。
4. 炎上対応の経験と、部門長を目指した理由
── これまでのキャリアで、最も難しかった局面や転機はどこにありましたか。
田畑:現場を十分に見ずに物事を判断してしまい、お客様の状況を正しく理解できていなかった時期があったことです。コールセンターの現場だけでなく、カスタマージャーニー全体を見て初めて、改善の糸口が見えてくると気づきました。現地現物で全体を見ることの大切さを学びました。
── 炎上案件の対応も、数多く経験されているそうですね。
田畑:あるサービスの炎上対応を収束させる役目を、これまでに何度も担ってきました。深夜に及ぶ対応や、お客様のもとへの謝罪訪問など、厳しい局面ばかりです。
ただ、諦めたり逃げたりしては絶対に収束しません。やるしかないと思って取り組むと、収束に向かっていくんです。逃げずに向き合えば、必ず結果が出る。これも大きな学びでした。
── そうした経験が、部門長を目指す動機にもつながったのでしょうか。
田畑:はい。改善のやり方は人によって様々ですから、自分の考えるやり方でサービスを改善したいのであれば、自分自身が意思決定できる立場になる必要があると考えました。部門長になれば、COPCをベースにした改善も思い描いた形で進められます。
そしてもう一つ、経営の視点で見れば、知りたいのはコールセンターの声ではなく、お客様全体の声です。サービス改善のためには、サイレントカスタマーの声まで含めて把握することが欠かせません。 この考え方に行き着いたのも、この頃の経験からです。
5. IVR・FAQ・チャットボット── 何が残り、何が残らなかったか
── この20〜30年、IVRやFAQ、チャットボットと自動化の波がありましたが、現場には何が残り、何が残らなかったとお考えですか。
田畑:それぞれ残ってはいますが、十分に機能しきれていない部分も大きいと感じています。特にIVRは、お客様の満足度というより、オペレーターに適切に振り分けるという企業側のメリットが中心の仕組みです。番号を何度も選択して、なかなか人につながらないというのは、お客様にとって良い体験とは言えません。
── FAQやチャットボットについてはいかがでしょうか。
田畑:FAQは進化していますが、じっくり読んで自己解決される方は、実際には多くないと思います。チャットボットも、カテゴリーをたどっても答えが見つからず離脱してしまうケースがあり、準備が不十分だとかえって不満の原因になります。もちろん、うまく設計されたものもあります。
── 電話の負荷は、どこまで軽くなったとご覧になっていますか。
田畑:問い合わせが減った実績はありますが、それはこれまで電話をしなかったサイレントカスタマーの一部を解決できた、という面が大きいと思います。電話の問い合わせ件数がこれらの施策で大幅に減ったかというと、そこまでの成果ではなかったというのが率直な印象です。
理由は、お客様に起きている事象が多様で、FAQやチャットボットですべてを網羅しきれなかったこと。そして、答えにたどり着くまでに時間がかかり、途中で離脱したり有人対応に戻ったりしてしまうことにあったと考えています。
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