SESという業態は「色々な現場を経験できる」という魅力がある一方で、「キャリアパスが固定化しやすい」「成長機会が限定される」など、担当する業務範囲が限定的になりがちで、プロジェクト全体を見渡す視点や、上流工程のスキルを身につける機会を得にくいという構造的課題を抱えています。
そんな業界の構造的な課題に正面から向き合い、エンジニア一人ひとりが自身のキャリアを主体的に描ける環境を目指しているのが、Sun*のグループ会社としてSES事業を展開するSun terrasです。その中核をなすのが、独自のエンジニア向け教育プログラムToG4です。
なぜ、Sun terrasは「エンジニア教育」に力を注ぐのでしょうか。その背景にある想いと、エンジニアの未来を見据えた戦略について、プログラムを牽引する松崎 亮士さんと添田 亮司さんにお話を伺いました。
なぜ教育プログラム「ToG4」は生まれたのか
ーーまず、ToG4が設立された背景について、詳しく教えていただけますか?
松崎:きっかけは大きく分けて2つあります。1つは、グループ会社であるSun*との連携をもっと強くしたいという想いです。これまでも「PM育成コース」という、我々のエンジニア教育ノウハウとSun*の開発ノウハウを掛け合わせ、未経験からPMを育成する教育プログラムなどは実績がありました。実際に「PM育成コース」を修了した人材は、現在もSun*でPMとして活躍してくれています。
今回はエンジニアのスキルレベルの向上に主眼を置き、Sun*が持っているダイナミックな開発の機会を、Sun terrasのエンジニアのキャリアパスとして繋げられないか、というのが議論の出発点でした。
もう1つは、もっと根本的な話で、SES業界が構造的に抱えているキャリアパスの問題への強い危機感があったからです。現場では、特定のモジュールを作るといった具体的な作業経験はたくさん積めます。でも、それだけだと「システム全体はどうあるべきか」「ビジネスの要件を技術で満たすには」といった、より抽象度の高い、いわゆる上流工程の視点は、なかなか身につきにくいという実情があります。結果として、同じような業務の反復になりがちで、キャリアアップの道筋を見つけられず、成長が頭打ちになってしまうエンジニアも少なくありません。
それに、昨今のAIの台頭も、無視できない大きな要因です。単純なコーディング業務は、そう遠くない未来にAIに取って代わられる可能性が高い。その時、エンジニアとして価値を発揮し続けるには何が必要か。それは、AIが出してきたアウトプットが本当に正しいか、ビジネス要件を満たしているか、将来的な保守性や拡張性は大丈夫か、といったことを判断できるスキルだと思います。それを養うためにも、やはりシステム設計やアーキテクチャに関する体系的な知識、つまり「現場だけでは得られない知識」を、意図的に教育の場で提供する必要があるのではと考えるようになりました。
「現場ではできない経験」を積むための徹底したこだわり
ーーToG4は具体的にどのようなプログラムなのでしょうか。
松崎:ToG4で一番大切にしているコンセプトは、「現場の経験だけでは得られないものを身につけてもらう」ことです。そのために、ただ講義を聞いて終わり、という形にならないよう、カリキュラムの設計にはこだわっています。
プログラムは半年間の長丁場で、最初の3ヶ月で個人課題、後半の3ヶ月でチーム開発に挑戦してもらいます。毎週課題が出るので、受講生は普段の案件と並行しながら、週に10〜15時間の自己学習時間を確保してアウトプットを提出してもらい、我々運営陣はそれを毎週レビューします。正直、かなりハードなプログラムだと思います。
添田:僕は主にレビュアーとして参加していますが、受講生のコードや提出物からそれぞれの個性が見えてきて、すごく面白いですね。例えば、普段バックエンドを担当しているエンジニアが、この機会にフロントエンドのカリキュラムに挑戦するなど、自分のキャリアの幅を広げるために未経験の領域に挑戦するメンバーもいます。
これはすごく重要な経験だと考えています。SESの現場だと、どうしても任された範囲のことしか見えません。バックエンドのエンジニアはデータの管理には詳しくても、それがユーザーにどう見えるかという視点は持ちにくい。逆にフロントエンドは、見せ方は分かっても、そのデータがどうやって作られているかには無頓着になりがちです。このプログラムで普段触らない技術に挑戦することで、今まで見えていなかった部分に気づいて、開発者として一段階上の視座を得ることができるのではないでしょうか。もちろん最初は戸惑うことも多いでしょうが、運営としてはそこを乗り越えられるようにサポートしています。
松崎:決して楽なプログラムではないからこそ、その努力をきちんと評価したいとも思っていて、プログラムを完遂したエンジニアには、社内の資格取得支援制度に組み込む形にして報奨金を支給しています。これは、受講者たちの努力と成長意欲に応えたいという会社としての姿勢です。
また、僕らが指導するのは純粋な技術だけではありません。例えば、プルリクエストの送り方一つとっても、現場での信頼関係に直結するすごく重要な作法です。変更内容をただ送るのではなく、「どういう意図で、何を解決するためにこの変更をしたのか」をメッセージにしっかり書けるかどうか。これができるエンジニアは、周りから信頼されて、もっと面白い仕事を任されるようになります。技術力があっても、こういうコミュニケーションやチーム開発のルールを軽く考えていると、大きなチャンスは巡ってきません。そうしたソフトスキルも含めて指導することを大切にしています。
エンジニアと共に成長し続ける組織へ
ーーなぜSun terrasは、ここまでエンジニアの教育を大切にされているんでしょうか。今後の展望とあわせてお聞かせいただけますか?
松崎:エンジニアの世界では、技術の陳腐化、いわゆる「スキルディスラプション」が常に起こっています。昨日まで当たり前だった技術が、明日には過去のものになることも珍しくありません。そんな変化の激しい世界で、「変化を拒む人が残っていく組織」に未来はないと言えると思います。だからこそ、会社として学び続けるエンジニアを全力で支援して、その成長を評価する仕組みが不可欠です。
今後の展望としては、ToG4を足がかりに、特定の言語や技術といった「手段」に依存するのではなく、顧客の課題を解決するという「目的」から考えて、本質的な価値を生み出せるエンジニアを一人でも多く育てていきたいと思っています。AIに使われる側じゃなく、AIを使いこなす側に立つ。そんなエンジニアが、どんな環境の変化にもしなやかに対応できるキャリアを築けるように、これからも支援を続けていきたいですね。
添田:僕自身も長年SESのエンジニアとして、多くの現場を経験してきました。そこで痛感したのは、経験できるのはあくまで「任された範囲のことだけ」だということです。普通に働いているだけでは、開発の全体像を知る機会はほとんどありません。だからこそ、ToG4のような教育を通じて、プロジェクトの全体像を掴む視点や、普段関わらない領域の知識を提供することが、エンジニアのキャリアにとってすごく重要だと考えています。
それに加えて、個人的には「後輩を教える人が増えていってほしい」という思いが強いんです。今は僕らが中心になって教えていますが、理想は、このプログラムで学んだ人が、次の世代にその知識や経験を伝えていく「学びのサイクル」が生まれることだと思っています。一人ひとりが点として成長するだけでなく、その成長が線となり、やがて組織全体を覆う面となっていく。そんな自発的に学び、教え合う文化をSun terrasに根付かせていくのが、個人的な長期的目標です。
松崎 亮士 Talent Bridge / Chief Education Architect
2018年にSun terrasへジョイン。プログラミングスクールのメンターとしてキャリアをスタートし、マネージャーや社内システムの開発を経験。2021年からはRe-skilling事業を立ち上げ、社外向けのDX研修なども担当。入社以来、一貫してエンジニアの教育・育成に携わり、現在は「ToG4」を牽引する。
添田 亮司 Growth Hack / System Administrator 兼 Senior Education Architect
エンジニアとして20年以上のキャリアを持つ。Sun terrasでは、自社サービスの立ち上げや保守、社内情シス業務や営業効率化支援まで幅広く担当。新規プロジェクト開発の傍ら、ToG4など教育プログラムにも携わる。