引っ越したてのオフィスと、あまりに「自由」な先輩たち
期待と不安が入り混じった、入社初日の朝。 新しいオフィスに到着した私を待っていたのは、想像していた「Web企業の整然とした風景」ではなかった。
たまたまエレベーターで一緒になった教育担当の主任は、笑顔でこう言った。 「実は私も今日初めて新しいオフィスに来たんだよね〜」
オフィスに着けば、スポーツ系のラフな格好で「よろしく〜」と声をかけてくる男性社員。子供を保育園に送ってからフレックスでゆったりと現れる別のメンバー。 自由で、風通しが良くて、いかにもWeb業界らしい光景。
でも、右も左もわからない未経験の私にとって、その「自由」はただただ「不安」でしかなかった。
重すぎるPCと、渡された本と、繋がらないWi-Fi
最初に取り組んだのは、PCの設定だった。 支給されたのはなぜかゲーム用だという、とんでもなく重いノートPC。「前使ってた人が中国の人だったから、よく分からないことになってるんだよね〜」と先輩に言われ、戸惑いながら画面と対峙する。
設定を始めると同時に、主任はそのまま別の打ち合わせへ。打ち合わせ中の主任を邪魔しないよう、コソコソと別の先輩に「Wi-Fiってどうすればいいですか……?」と聞きに行く。
引っ越したてでWi-Fiの繋ぎ方すら誰も正確に把握しておらず、先輩がシェアオフィスの受付まで確認しに行ってくれた。
PCをただ眺めるしかない私。打ち合わせ中の主任から「とりあえずこれ読んでて」と一冊の本を手渡され、手持ち無沙汰にめくるしかありませんでした。
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「手取り足取り」のはずが、孤独な戦いへ
「しっかり教えてあげてね」と上司から主任へ申し伝えがあったはずが、現実は過酷だった。主任は事情があってリモート勤務が多く、物理的に隣にいない。質問しても、回答はいつも「ふわっ」としたものばかり。
全体像がわからないまま、小さなWebサイト制作を任されました。何をしていいか、どう進めるべきか、誰も指示してくれない。技術的なフォローもほとんどない中、暗闇を歩くような日々が続いた。
本当の試練は、その後に訪れた大きな案件でした。
組んだ先輩社員は存在感が薄く、さらには連携した制作チームとも言語の壁やスキルの問題で意思疎通がうまくいかない。プロジェクトは炎上した。
必死に食らいつき、自分の持てるスキルを総動員して「パワー」でなんとか乗り切ったものの、社内の制作陣からは「結局、どう助けてほしいの?」と怒鳴られる。こっちは、その「助けの求め方」すらわからないのに。
「これお願いしますって言えば進めてくれるよ」
先輩のその言葉を信じて動いたら、エンジニアから「もっと早く言わないと動けない!」と怒られる。誰も、正しい「制作の流れ」を教えてくれない。誰も、正しい「段取り」を共有していない。
情報の在処が誰かの頭の中にしかない。その「属人性」という壁が、新入社員の私をじわじわと追い詰めていった。
暗闇の中で一つだけ光ったもの
そんなカオスな状況下で、唯一の成功体験があった。提案書の作成だ。
これもやり方は教えられず、「過去の資料を参考にして」と言われただけ。「最初はダメ出しの嵐だよ」と主任から脅されたが、私は過去の資料やネットの情報を参考に、自分なりのエッセンスを加えて一から構築し直した。
結果は、上司からの指摘はほぼゼロ。
気づけば私の作った提案書が、全社で使い回される「標準フォーマット」になっていた。
このとき確信した。 「個人の能力に頼るからつまずくんだ。正しい『型』と『仕組み』さえあれば、誰でも迷わず最高のパフォーマンスが出せるはずだ」と。
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「自分と同じ思いは、二度と誰にもさせない」
転機は、次に入ってくる新入社員の存在が決まった時だった。
その瞬間に沸き上がったのは、使命感というよりは、一種の「怒り」に近い感情だ。
私が血を流しながら手に入れた知識、つまずいた石の場所、暗黙のルール。これらをすべて言語化して、誰でも一目でわかる「地図」を作ろう。
そう決めて、私は自力でNotionを立ち上げ、業務マニュアルを作り始めた。
「なんとなくこうするもの」を「こうすればいい」に変えていく作業は、思った以上に楽しかった。頭の中だけにあったことが言葉になり、バラバラだったものが少しずつ形になっていく。「マルチタスクが得意かどうか」じゃなくて、そもそもタスクを整理すれば誰でも動けるじゃないか——そんな当たり前のことに気づいたとき、なんだかゾクっとするような感覚があった。
仕組み化の連鎖、そして同志の出現
最初は自分と後輩のための「攻略Wiki」に過ぎなかったNotionは、いつしか他の社員たちにも知られるようになり、全社共通の「AICポータル」へと昇格していった。
今、うちの会社には、私と同じ意思を持つ仲間が増えている。
先日、もうすぐ入社3年になる社員に「今、一番好きな仕事は何?」と聞いたら、彼女はこう答えた。 「マニュアルを作っている時が一番楽しいです」
思わず笑ってしまった。あぁ、ここに私と同じ「仕組み化の鬼」がいる、と。
ルールメーカーのあなたへ
正直に言う。私たちの仕組みは、まだ完璧ではない。
私が入った頃よりは、確実にマシになった。でも今も、新しく入った子から「何をしたらいいかわからなくて困った」という声が上がってくる。整えてきた私自身が聞いて、そう感じるのだから、まだ道半ばだ。
Webの世界は日々進化し、新しい課題が次々と生まれる。せっかく作ったルールが、翌月には古くなっていることも珍しくない。
だからこそ、私たちが必要としているのは「仕組みを作って満足する人」じゃない。「常に既存のやり方を疑い、アップデートし続けられるルールメーカー」だ。
「手取り足取り教えてもらいたい人」には、うちは向かない。
でも、「教えなくて済む仕組みを作るのがたまらなく好きだ」という野心を持つ人にとって、これほど面白い遊び場はないはずだ。
未完成な私たちの仕組みを、一緒に書き換えに来ませんか?