「クライアントワークって大変そう……自分には難しそう」——頭のどこかにそんな考えを抱えたまま、数年が経っていた。それでも「一回、ちゃんと向き合ってみよう」という思いで、ずっと避けてきた場所に飛び込んでみた。入社してからも、何度もつまずき、夜遅くに「もう終わらない」と助けを求めたこともある。それでも1年が経ち、今では「なぜこのサイトが必要なのか」を自分の言葉でクライアントに問いかけ、答えを出す側に立っている。かつて「逃げていた場所」が、自分でも知らなかった可能性を引き出してくれた ――。
このままでいいのか?淡々とこなす日々から「一回ちゃんとやってみよう」という決断。
―― 前職はどんな仕事をしていたんですか?
SESのディレクターとして、客先に出向して、既存サイトの運用やキャンペーンページ制作を担当していました。「案件をスムーズに回すこと」が仕事で、自分が主体的に意思決定するというよりは、お客さんの要望を解釈してエンジニアに伝える、橋渡し的な感じです。
―― 転職しようと思ったきっかけは?
淡々と業務をこなす中で、「自分は成長できているのかな」という疑問がじわじわ出てきて。それで「一回ちゃんとディレクションをやってみよう、制作側にチャレンジしてみよう」と思って転職活動を始めました。ただ、前の職場でクライアントワークをしているディレクターさんを見て「めちゃくちゃ大変そう、自分には難しそう」とずっと思っていたので、ある意味ずっと逃げていた場所に飛び込んだ感じです。「まあ、やってみよう」というノリではあるんですが、やらないまま苦手意識を持ち続けるよりは、一度きちんと向き合いたいという気持ちの方が強かったです。
―― 入社の決め手は?
最終面接で社長と話して、「不安を抱えたままでも挑戦していいんだ」と思えたことが大きかったです。できるかどうかを頭の中だけで判断するのではなく、まずはやってみようと思えました。当時の採用サイトが「火をつけろ」みたいな熱血系だったので自分に合うかちょっと不安はありましたが(笑)
「つまずきしかなかった」1ヵ月目。でも、悩みながらも前に進んだ。
―― 入社後、一番しんどかったことは?
想像以上につまずくことが多かったです(笑)形のないものを知らない人に伝えて理解してもらうこと、お客さんの会社とこちらの会社の両方の体制を理解してうまくハンドリングすること。やったことがないことばかりで。
中でも一番難しかったのは、デザインのフィードバックです。自分の意見が薄くて言語化できないと、デザイナーさんも困るし、案件も動かない。言葉でどれだけ明確に伝えられるかが、こんなに大事なんだと実感しました。
―― どうやって乗り越えていきましたか?
メンター制度で制作の人と話したり、本を読んだり、案件を回しながら学んだり。あとは、先輩ディレクターに「テキストで『これお願いします』だけじゃ伝わらない」と指導してもらって。今は、自分なりの意図や仮説を添えて、「こうしたいと思っているのですが、どうですか?」と相談するようにしています。その一言で、だいぶ変わりました。
―― 夜21時まで終わらなかった、という話も聞きましたが。
ワイヤー制作で正解がわからなくて探り続けていたら、気づいたら夜になっていて。「これ今日中に終わらない」と先輩に相談して、一緒に整理してもらいました。抱え込んでしまうタイプなので(苦笑)周りからも「完璧主義」と言われているのですが、今は「途中でも早めに出して相談してみる」ことを意識しています。
一つの提案書から始まったコンサルタントへの越境。
―― コンサルタントへの転身は、どういう経緯でしたか?
きっかけは私が作った提案書を見た上司が「コンサルとしての視点がいいじゃん」と評価してくれたことです。「なぜそのサイトが必要なのか」「どの課題に対して有効なのか」を整理しようとしていた点を見てもらえたのだと思っています。自分が気づいていなかった適性を見つけてもらえたのはうれしかったです。会社から言われたときは「マジで?」ってなりましたが(笑)前向きに挑戦してみようと思えました。
―― コンサルタントになって、何が変わりましたか?
ディレクターのときは、「このコンテンツの方がユーザーに刺さるんじゃないか」「このデザインの方が伝わりやすいんじゃないか」と、サイトやコンテンツの中で考えていましたが、コンサルタントになってからは、そもそも「なぜこのサイトが必要なのか」「この事業課題に対して本当に有効なのか」と、一段上流の問いから考えるようになりました。「この課題があるから、このWebサイトが必要なんですよね」というつながりを自分の言葉で整理して、案件をリードする側に立つ感覚です。
―― ディレクター経験は活きていますか?
活きていますね。「ここはデザインの工数がかかる」「エンジニア側の都合でこの機能は難しい」という判断も肌感覚でできるので、提案にも現実感がでます。何でも「できます」と言えばいいわけじゃなくて、「これはやっちゃダメ」とちゃんと伝えられるコンサルタントになりたいという意識も出てきました。
それに、正直こんなに考えることが増えるとは思っていなかったんですが、それが全然苦じゃなくて。クライアントの事業に自分が関わって、一緒に動かしていける感じがして、思った以上に楽しいんですよね。
肩書きよりも、課題に向き合い、価値を返せる人になりたい。
―― これからはどんな自分になっていきたいですか?
肩書きや役割を先に決めるというより、クライアントの課題を正しく捉えて、自分の言葉で提案できる人になりたいです。今はストーリーテリングについて学んでいて、ロジカルに伝えるだけじゃなく、相手の心に届く話し方を目指しています。
あとは、社内でも個人の経験や知見がもっと自然に共有される場をつくれたらと思っています。
―― この仕事はどんな人に向いていると思いますか?
Web業界はキラキラしたイメージを持たれることもありますが、地味なことも結構多いです。実行力や推進力でコツコツやっていきたい人、いろんな人とやりとりしながら動ける人には合う場所だと思います。マメさも大事です。正解が見えない状況でも自分で考えて動き続けられる粘り強さがないと、正直しんどい場面も多いと思います。
でも逆に言えば、自分で考えて動いた分だけ、ちゃんと経験値になる環境です。言われた通りにやるより、考えてやった方が「あ、これでいいんだ」「こうした方がいいかも」という発見があります。
「逃げていた場所」で見えた、新しい自分。
「クライアントワークは無理かも」と避けてきた制作現場にあえて飛び込んだ。つまずいて、抱え込んで、夜遅くまで悩んだこともある。それでも1年近くが経ち、前職では橋渡し役だったのが、今ではクライアントの課題に向き合い、事業の行方を一緒に考える側に立っている。気づけば、そこが一番面白い場所になっていた。
大きな野望があったわけじゃない。けれど、「このままでいいのか」という違和感を無視できなくなった自分がいた。逃げていた場所にちゃんと向き合おうと決めたその一歩が、自分でも気づいていなかった"伸ばせる場所"を引き出すきっかけになった。
自分なりに考えて動ける環境があること。困ったときにきちんと向き合ってもらえる人間関係があること。そして、任せてもらった仕事の中で、自分でも気づいていなかった可能性を引き出してもらえること。
それが重なって、ディレクターとしての成長だけでなく、コンサルタントという次の挑戦にもつながっている。まだ見ぬ自分に出会いたいなら、"逃げていた場所"こそが、最高の入り口になるのかもしれない。