2025年7月6日から10日にかけて、ASIA to JAPANはタイの複数の現地大学を訪問しました。
現地では、日本企業への就職支援プログラム「FAST OFFER」の説明会を実施するとともに、学生や教職員へのヒアリングを通じて、タイ人学生の就職観や関心の変化を探りました。
これまで“親日国”として日本就職への関心が高かったタイですが、円安によるバーツ高、都市と地方での経済格差、そして国内就職環境の変化により、日本企業の“魅力”は以前と比べて揺らぎ始めています。
日本で働くという選択肢は、タイの学生にとって今もなお魅力的なものなのか。
また、採用を検討する日本企業は、何を知りどんな対応を取るべきなのでしょうか。
この記事では、通貨の影響から学生の就職観、日本企業が取るべき戦略まで、出張を通じて得たリアルな情報をご紹介します。
目次
- ■バーツ高が変える日本の魅力とは?日本円ベースの給与に現地はどう見るか
- ■タイの大学生はいま何を目指すのか?都市と地方で異なる進路選択
- ■タイ人材とどう向き合うか、日本企業に求められる新たな採用戦略
- ■タイで訪問した大学
- ■まとめ
■バーツ高が変える日本の魅力とは?日本円ベースの給与に現地はどう見るか
・通貨価値の逆転が進行中!レートの推移から見る円とバーツの関係
今もなお日本円の価値が下落し続けていますが、タイバーツとの為替レートにも顕著な変化が見られます。
出典:「世界経済のネタ帳」より
たとえば、2022年1月時点で1バーツは約3.45円前後でしたが、2025年に入ると4.4円を超え、6月には約4.42となる場面も見られるなど、バーツの価値が相対的に上昇しています。
つまり、日本の給与をバーツ換算した場合、下がっているのが実情です。
これまで「日本で働く=高収入」というイメージが強かったタイ人材にとって、その前提が揺らいでいる状況です。
採用活動の現場では、こうした為替の影響を正しく理解したうえで、給与や待遇の提示内容を見直す必要が出てきています。
単純な金額比較だけでなく、「日本で働く意義」の再構築や就労後の「キャリアアップ」の明確化が求められるフェーズに入っていると言えるでしょう。
・都市部の学生は裕福な家庭出身が多い?経済的なギャップをどう捉えるか
タイでは、都市部と地方の間に大きな経済格差があります。
特にバンコクやチェンマイなどの大都市にある有名大学に通う学生の多くは、中流〜上流家庭の出身者が多く、進学や留学、語学学習などへの投資にも積極的です。
こうした学生にとって、日本で働くことの“経済的魅力”は以前ほど大きな決め手にならなくなってきています。
「待遇が良いから日本へ」ではなく、「自分のキャリアを広げるためにどこで働くか」を考える傾向が強まっており、給与だけで判断されない時代に入ってきたと言えるでしょう。
企業としては、単に初任給を提示するだけではなく、長期的な成長環境やキャリアの展望を明確に伝えることが重要になっています。
・バンコクの街並みに見る購買力、高級ブランドが並ぶ消費の現場
バンコク市内を歩くと、GUCCI、LOUIS VUITTON、CHANELといった欧米の高級ブランドが立ち並ぶ大型ショッピングモールが至るところにあり、そこには若年層の来店客も珍しくありません。
これは一部の富裕層に限った話ではなく、都市部の中間層にも消費力が高まっている証拠です。
こうした購買感覚に触れて育った学生にとって、日本の初任給は以前ほど魅力的ではなくなっています。
「日本で働けば何でも手に入る」という時代ではなくなったことを、日本の企業側は受け止める必要があります。
採用戦略を考える際には、経済水準や物価感覚の変化を織り込んだうえで、学生目線での価値訴求が求められています。
■タイの大学生はいま何を目指すのか?都市と地方で異なる進路選択
・トップ大学の理系学生は国内の有力企業とのつながりが強く国内志向が高い
タイの都市部にあるトップ大学、特に理工系の学部に所属する学生たちは、国内でのキャリア形成を重視する傾向が強くなっています。
企業との産学連携やインターンシップ制度が整備されており、卒業前から有力企業に内定しているケースも珍しくありません。
特にデジタル分野やエンジニア職では、タイ国内でも給与水準が上昇しており、日本企業の初任給と大差ない待遇を提示する企業も出てきています。
そのため、彼らにとって「海外に行く必要性」は必ずしも高くなく、魅力あふれる職場であれば地元に残る選択肢が優先されがちです。
こうした現状を踏まえると、日本企業が都市部のトップ層をターゲットとする際は、待遇面以外での差別化が不可欠となります。
・地方大学の優秀層は国外も視野に!情報格差が選択肢を左右する
一方で、地方の大学に通う学生たちは都市部に比べて就職機会が限られています。
学業成績が優秀であっても、企業との接点が都市部に比べて少なく、将来の進路に迷いを感じている学生も少なくありません。
国内大手企業は都市部中心に採用活動する傾向があり、地方大学出身者はその情報にアクセスしきれていないこともあります。
こうした背景から、「自分の力を発揮できるなら、海外も視野に入れたい」と考える学生も一定数存在しています。
ただし、国外での就職情報に触れる機会も少なく、潜在的に関心があっても、具体的な行動に移すハードルは高いのが現状です。
情報提供や面談機会の創出が、彼らの進路選択に大きく影響する可能性があります。
・日本語学習への関心は依然高い ASIA to JAPANの講座に申請多数
こうした中、ASIA to JAPANがアジアを中心とした各国の理系学生を中心に、オンライン・オフライン両方で開講する日本語講座には、タイ学生からの申請が多数寄せられています。
特に地方大学では「海外就職に挑戦する手段の一つ」として日本語学習に意欲的な学生が多く、日本語力ゼロの状態からでも挑戦しようとする姿勢が見られます。
講座では、約1年半という期間で就職面接や日常会話に必要な表現を集中的に学び、修了生はFAST OFFERに登録ができるというシステムをとっています。
これらの背景には、「日本で働きたいが、情報がない」「何から準備すればいいかわからない」といったニーズが隠れています。
企業側がこうした日本語学習支援と連動しながら、早期に学生との接点を持つことができれば、優秀な人材を獲得するチャンスは十分にあります。
■タイ人材とどう向き合うか、日本企業に求められる新たな採用戦略
・日本と似た価値観や気質を持つタイ人材の親和性を活かした人材マネジメント
タイ人材の特長としてよく挙げられるのが、日本人との価値観の近さです。
敬意や礼儀を重んじる文化、集団での調和を大切にする姿勢、上下関係に対する理解など、多くの点で日本企業の組織文化と親和性が高いと評価されています。
実際に、日本企業で活躍するタイ人社員の多くは、現場でのコミュニケーションやチームワークの中で自然に溶け込み、信頼を築いています。
この「相性の良さ」は、異文化マネジメントにおける大きなアドバンテージです。
採用後の定着率や現場でのスムーズな連携にも直結するため、日本企業にとっては、単なる「人材補充」ではなく、組織に馴染む即戦力人材としてタイ人材を再評価する価値があります。
・日本語力は入社後の習得でも十分なため優秀な人材を見逃さない採用判断が重要
採用の現場でよくあるのが、「日本語が話せるかどうか」を一次選考の判断材料にしてしまうケースです。
しかし、実際にはタイに限らず優秀な学生の中には、入社前の時点で日本語を話せないものの、吸収力や学習意欲が非常に高い人材が数多く存在します。
ASIA to JAPANの就職支援プログラムでは、そうした学生が短期間で実用レベルの日本語を習得し、日本企業で活躍している事例が増えています。
語学力よりも、まずは「その人の思考力・適応力・人柄」に注目し、ポテンシャル採用を進めることが、長期的には大きな成果につながります。
語学は入社後の研修やサポート体制で補える要素であることを、企業側が柔軟に理解すると採用候補が潤沢になり、かつスムーズに人材確保できます。
・面接では給与だけでなく将来のキャリア設計まで伝えることが重要
タイの学生にとって、「給与額」は重要な判断材料の一つですが、それだけで進路を決めるわけではありません。
将来的にどのようなポジションを目指せるのか、自分のスキルがどのように評価されるのかといった“キャリアの見通し”も大きな関心事項です。
面接の場では、仕事内容や社風の説明に加えて、「入社後にどのように成長できるのか」「数年後にどのようなキャリアを築けるのか」を具体的に伝えることが、学生の意思決定に大きく影響します。
また、将来のキャリアアップや職種の広がりを示すことで、「自分の努力が正当に報われる環境だ」と実感してもらえるでしょう。
日本企業にとって、面接は単なる“評価の場”ではなく、“魅力を伝える場”として捉えることが重要です。
■タイで訪問した大学
今回訪問した大学を紹介します。
・キングモンクット王工科大学 ラートクラバン校(King Mongkut’s Institute of Technology Ladkrabang / KMITL)
キングモンクット工科大学には、モンクット王工科大学ラートクラバン校、モンクット王工科大学トンブリー校、モンクット王工科大学北バンコク校の3つのキャンパスがあります。
「THE World University Rankings」2020年のアジアランキングでは251-300位に、タイ国内では7位に位置する国立上位大学です。
国内初の電気工学分野の博士課程を開設し、工学部のレベルが高いとされています。
同大学は東海大学との関係が深く、そういった背景から、同大学からは毎年100名近い学生が日本でのインターンシップに参加しています。
・コンケン大学(Khon Kaen University / KKU)
タイ東北部の中心都市に位置するコンケン大学は、1964年に高等教育の地方分権を目的として設立された国立総合大学です。
地域に根ざしながらも、常に変化するグローバル社会を見据えた人材育成に力を入れており、今ではタイ有数の大学のひとつとして知られています。
特に人気が高いのは、医学部・工学部・農学部の3学部。
なかでも医学部に併設されている大学病院は、東北地域の高度医療センターとしての役割を担い、難病患者の受け入れも行うなど地域医療の中核を担っています。
また、東北地方の主要産業が農業であることから、農学部では農産物を扱うタイの大手企業と連携し、農作物や家畜に関する研究を実施。地域と産業界をつなぐ実践的な教育・研究が行われています。
・チェンマイ大学(Chiang Mai University:CMU)
チェンマイ大学は1964 年 1 月にプミポン・アドゥンヤデート国王陛下の勅許により、タイ政府の政策と北部の人々の目的に基づき、地域と国全体に利益をもたらす学術および職業知識の中心として設立されたタイ初の州立総合大学です。
チェンマイ医学校を前身とする医学部は国内有数の規模と業績があります。
このたび、チェンマイ大学エンジニアリング学部と、年内を目標に初めてMOU(協定書)を締結する運びとなりました。
今後は、これまで以上にチェンマイ大学の学生に寄り添いながら、日本就職に向けた就活支援や日本語学習のサポートを強化してまいります。
■まとめ
今回の訪問時の情報を紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。
タイは、教育レベルの高さや日本との文化的親和性から、今後も有望な採用先の一つであることに変わりはありません。
しかし、バーツ高や都市部の経済発展、国内企業の採用強化などを背景に、「日本で働くこと=魅力的」という構図は大きく変わりつつあります。
今後の採用においては、日本語力だけに頼らず、ポテンシャルや意欲を重視した柔軟な選考が求められます。
また、給与だけでなく、仕事内容やキャリアの可能性まで丁寧に伝えることで、学生の納得感ある意思決定につながります。
ASIA to JAPANでは、こうした現地のリアルな声を企業の採用戦略に活かし、日本と海外の「まだ出会っていない」人材の架け橋として、今後もサポートを続けてまいります。