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「オープンな開発」で素早く良質なデザインを。エクスペリエンスデザイナーから見るBCGDVのカルチャー


BCG Digital Ventures(以下、BCGDV)は、大企業との共創を通じて、新規事業を創出しているクリエイター集団です。エンジニアリングやデザインなどのプロフェッショナルが在籍し、プロダクトとビジネスの両輪で革新性の高い大きな事業をグローバルに生み出し続けています。

多くのクリエイターが在籍しているBCGDVには、エンジニア、エクスペリエンスデザイナー、ストラテジックデザイナー、プロダクトマネージャー、グロースアーキテクト、そしてベンチャーアーキテクトという職種があります。それぞれの職種を紹介する本連載では、前回までにエンジニアの岡田貴裕ストラテジックデザイナーのSean McKelveyベンチャーアーキテクトの梅沢真吾に話を聞きました。

今回紹介するのは、エクスペリエンスデザイナーの花城泰夢です。ユーザーインタビューの実施からカスタマージャーニーの策定まで、ソリューションやそこに至るまでのプロセスを可視化していくことがエクスペリエンスデザイナーの任務。さまざまなコンテクストを持つチームのメンバーに対し、ビジュアル化を通じた共通認識を図っています。本記事では、「UIUXデザインのプロフェッショナルから見たBCGDV」を紹介していきます。

人生最初のデザインは、学生アルバイト時代に作ったポップ

花城の入社は2016年4月。東京オフィスが立ち上がるのと同時にBCGDVの門をたたきました。現在はエクスペリエンスデザインディレクターとして、クライアント先でプロジェクトを推進したり、社内でコーチングや社内発の開発プロジェクトに関わったりしています。

本インタビューの直前まで、数ヶ月に渡り韓国に滞在し、金融、小売、メディアなどさまざまなクライアントのプロジェクトに参加。ユーザーインサイトの可視化、アイデア出し、モックアップの作成などを担当していました。

UIUXデザインを得意とする花城ですが、初めてデザインと出会ったのは大学生の頃でした。当時アルバイトをしていた出版社で、花城は何でもこなす雑用係。営業職の社員から「100冊注文が入ったから、ポップ作って」と半ば強引にMacbookを渡され、見よう見まねで作ったポップが人生最初のデザインだったといいます。

花城「テレビで紹介されると『テレビに出ました』というポップを作り、売上部数が伸びると10万部を15万部に修正する。そんな地味な作業なんですけど、これをやると驚くほど売れるんですよね。そのうちタワーレコードに出向いて、買いたくなるポップをつぶさに研究するようになりました。すると、また売れる。これが初めての『デザインってすごいじゃん!』という気付きでしたね」


その後企画力を買われた花城は、学生アルバイトながら編集部へ異動。のちに5万3000部を売り上げる書籍『宇宙授業』を世に生み出します。また小児科に通うクラウンのストーリーを綴った書籍『ホスピタルクラウン』ではTBSでドラマ化されるに至りました。

花城には当時の社長から言われた、今でも大切にしている言葉があります。それは、「作って半分・届けて半分」という言葉。営業と編集のどちらも経験したことで、良質なコンテンツを作ることと同じくらい「どうしたら伝わるか、どうしたら売れるか」を考える癖が染みつき、現在の仕事につながる原体験になったと話します。

BCGDVは、「ハッカソンの長期版」

もう一つのターニングポイントは、通信会社のモバイルデザインを辞め、単身渡ったフィリピンでの出来事。

当時はまだ一般的ではなかったハッカソンに、花城は留学先のフィリピンで初めて参加。デザインとエンジニアリングとビジネスの3本柱でチームを組み、3日間で開発しピッチにこぎつけるという実践型のコンテストでした。このハッカソンを経て、花城はその頃勢いを増していたFacebookやGoogleのサービスは、ここにいるような人たちによって作られていたのだと実感したといいます。

花城「ハッカソンに参加してから、自分の瞬発力を意識するようになりました。自分がデザインに取り組む横で、エンジニアがコードを書いては消すというスクラップ&ビルドを繰り返していて。そこで、デザインのプロセスは自分のプライドのためにあるものではないということに気付いたんです。もっとオープンに開発していった方が効率がいいなって」


多くの場合、自分の担当領域がある程度完成してからチームに共有します。一方、このとき花城が会得した“オープンな開発”は、いわば作業中のGoogleスプレッドシートやGoogle Docsで編集している過程が常に共有されている状態。見られていることでの気恥ずかしさはありつつも、その方法によって無駄のないアジャイルな開発が可能になるというのが花城の発見でした。

花城「僕、BCGDVってハッカソンの長い版だと思ってるんです。エンジニアとビジネスサイドとデザインサイドの3本柱が一丸となって、同じプロジェクトルームに入る。もちろんハッカソンのような粗さが残るレベルではなく、どのロールも完璧に作り込みます。例えばベンチャーアーキテクトは分厚い100ページぐらいの事業計画書のパワポを作るし、デザイナーもリリースできるくらいまで細かい箇所まで作り込む。ただ開発スピードを重視して、ハッカソンのようにオープンな環境で開発をしている点がBCGDVとの共通点だと思います。

それにスピードによって得られるのは、スピードだけではないんです。ユーザーに響くかどうかを常に意識しながら意思決定を続け、作ってはユーザーに試してもらう。この繰り返しなので、“ユーザーに響くか”を最優先するマインドが染みついているんです。すると、アウトプットも自ずと磨かれてくるんですよね。この方法を取り入れてから、悠長に企画をしている場合じゃないなと思うようになりました(笑)」

あらゆるビジュアル化を担うのがエクスペリエンスデザイナーの役割

花城は、BCGDVのデザインには「ヒューマンセントリック(人が中心にある)」の考え方が核にあるといいます。これまでのキャリアでユーザーテストは幾度となくしてきものの、ユーザーインタビューを徹底的に行ってユーザーの生活からアイデアの種を見つけるプロセスは入社後に身に付いたのだと話します。

ユーザーインサイトを見つけるためには、まずユーザーの自宅に訪問し、ひたすら観察をします。口頭だけのインタビューではなく、実際に生活の様子を目で見て、視覚的な情報をインプットすることが大切なのだといいます。

花城「なぜ視覚的な情報を重視するかというと、ユーザー自身が自分のことを本当に理解していない可能性があるからです。例えば、健康に気を遣っていると口では言っていても、家に砂糖入りの缶コーヒーが山ほどあったり、ゴミ箱にカップラーメンのゴミがあったりする。運動を心掛けているのに、ヨガマットは埃をかぶっていたりする。本人は自覚していなくても、生活の様子が物語っていますよね。

でも、それを責め立てたいんじゃないんです。『どうしたらこの人にもっと健康的な食事を提供できるか』『どうしたら日々の運動量を認識して、習慣化できるか』を考えるんです。本人が言っていることとやっていることのギャップ、つまりペインポイント(悩みの種)を見つけ出すことが訪問の目的ですね」


ペインポイントを見つけ出すと、今度はプロジェクトメンバー全員でアイデア出しをし、プロダクトにつなげていきます。エクスペリエンスデザイナーは、モックアップを作ったりイメージビデオを撮ったりしながら最終的なプロダクトデザインを担います。けれども、役割はそれだけではありません。メンバー全員が共通のゴールに向かうことができるよう、課題を言語化したり図解したりしながら、“あうんの呼吸”を明確なものにしていくのです。そうすることで、エンジニア、ビジネスサイド、デザインサイドの3本柱が齟齬なくコラボレーションできる土壌ができあがります。

課題もプロセスもプロダクトも、あらゆるフェーズでのビジュアル化を担うのが、エクスペリエンスデザイナーの仕事なのです。

課題とデータベースから、アイデアが生まれる

エクスペリエンスデザイナーにも色々なタイプがいます。例えば映像を得意とする人、例えばブランディングを専門とする人、例えば海外の事例に詳しい人。

花城「そこにいる増山さんは、感動させるのが上手なんですよ。ピッチのときに、オリジナルのムービーを作ってきたのが印象的でした」

増山慶彦は、花城の少し後にBCGDVに入社。花城と同じエクスペリエンスデザイナーで、グラフィックや印刷物の制作経験が豊富なことが強みです。

増山「BCGDVってイノベーティブな提案が多いので、ピッチを聞いている側も決定するには勇気が必要なんですよね。失敗したら、自分たちの責任になってしまうので。それでも、そこの恐怖を乗り越えないと新しいものは生み出せません。感情的に励ますことができたらなという思いで、僕はピッチの演出にいつもこだわりますね」


「アイデアは課題があるから出るもの」。花城はそう語ります。

何もない中から突然アイデアが生まれるのではなく、課題があって、自分のデータベースがあって、その先に生まれるのがアイデア。ただし、自分がどのようなデータベースを持っているかによって、生まれるアイデアの数や質は変わってきます。

花城「自分のデータベースを広げるための、アイデア出しのメソッドがあります。“STEEP(Social, Technological, environmental,Economical, Political trendsの略)”と呼ばれる手法なのですが、高齢化社会だとかAIだとか、世の中のトレンドをテーマに思考を広げていく方法です。例えば『ヘルスケアの5年後』というテーマ設定をすると、医療費問題、年金問題、遠隔医療、バイオテック、色々な話題が出てくるんですよね。

何もない中でいきなりアイデアを出すなんて、デザイナーを何年もやっている僕でも無理です。まず課題があってそこから治療法を導き出していくという、ある意味医者的な方法なんですよね」


良いデザインとは何だろう。その問いに対し、花城はこのように答えました。

花城「プロダクトデザインの良し悪しは、ユーザーが判断するものです。デザインはアートではないので、個人的な主張を込めることはまずありません。定義するとすれば、ユーザーのペインポイントを改善できたものが、良いデザインということになるかなと思います。

デザインはデザイナーだけのものではありません。プロセスをオープンにすることで、途中経過を見た別の職種の人たちが『もっとこういうイメージだった』と軌道修正してくれたり、『これなら○○の地域でスケールしそうだ』とビジネスアイデアを膨らませてくれたり、みんなで創り上げていけるんですよね。中に閉じこもっていないデザインって、だから素晴らしいなと思います」

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