メンバーインタビュー、今回は「サクセス編」。
行政サービスの変革に向けて、Bot Expressが考える“サクセス”のあり方について、シニアパートナーサクセスマネージャー 乾と代表取締役 中嶋が語り合いました。
AIの時代において、あえて「人」が介在する意味とは何か。
Bot Expressが大切にする、自治体との伴走の在り方を深掘りしています。
中嶋 一樹 株式会社Bot Express 代表取締役
Salesforce、日本オラクル等でエバンジェリストとしてキャリアを重ね、前職のLINE在籍時に日本初のLINEを使った行政サービスとなる粗大ごみ申請(福岡市)の仕組みを実現。 2019年に株式会社Bot Expressを創業。「お客様は住民、自治体はパートナー」という理念のもと、共鳴していただけるパートナーと最高の住民サービスを提供することをミッションとして事業を推進。
乾 友輔 株式会社Bot Express シニアパートナーサクセスマネージャー
リクルート、LINE Fukuoka、ROUTE06にて事業企画・プロダクトマネージャーとして従事。 「日本の行政サービスのデファクトスタンダードを塗り替える」というミッションに惹かれ、2025年4月より現職。 パートナー自治体と共に最高の住民サービス提供のあり方を考え、作っていきたい。
目次
1. AIでは代替できない価値。自治体DXを支える「伴走」という力
2. 正解なき現場。「伴走の質」をどう組織で高めるか
3. 競争から共創へ。テンプレートがつなぐ自治体間の知見と実装力
4. スケールより信頼。「住民からのありがとう」で証明する行政DXの価値
5. 可視化・洞察・AI活用。人が介在する意味を問い直す、新しい伴走とサクセスのこれから
編集後記
1. AIでは代替できない価値。自治体DXを支える「伴走」という力
乾:
先ほどはプロダクトの話をしましたが、それを実際にパートナー自治体とともに進めていく役割として、Bot Expressでは「パートナーサクセスマネージャー(以後PSM)」がいます。パートナーに向き合ってサクセスに導いていくというところについて、プロダクトだけだと解決しないところも存在するかと思っています、PSMが実際に介在する価値や意味について、中嶋さんはどのように捉えていらっしゃいますか?
中嶋:
そうですね。一番大きな価値は、洞察力だと思います。システム開発の流れは昔からあまり変わらず、要件定義→設計→構築→テスト→リリースというプロセスですが、要件定義は基本的にユーザー側の役割とされています。ただ実際には、うまく要件をまとめられるユーザーはほとんどいません。それは知識や能力の問題ではなく、そもそも要件定義自体が非常に難しい作業だからです。
自治体であれば、課題は庁内に点在しており、それを解像度高く言語化・構造化する必要があります。そのプロセスには、相手の頭の中から情報を引き出し、整理していく力が求められます。これは今のAIでは代替が難しく、信頼関係と対話を通じて初めて成立する領域です。そうした意味で、ヒアリングや図式化、言語化を通じて要件を一緒に組み立てていけることこそが、サクセスマネージャーに求められる力だと思います。
2. 正解なき現場。「伴走の質」をどう組織で高めるか
乾:
なるほど。PSMが、パートナー自治体と向き合いながら課題や要件を整理し、実装まで伴走していくことで、成功に導いていく。その中で、全員が同じようにサクセスに向き合える組織をどう作っていくかは、組織運営として非常に重要なテーマだと感じています。その点について、中嶋さんはどのように考えておられますか?
中嶋:
正直、組織運営は難しいと感じています。人によって、相手とどう向き合い、何を話すかは全く違いますし、会議での対応ひとつとっても、鋭い洞察を返せる人とそうでない人の差を見て、「どうすれば全員がこうなれるのか?」と考えることはよくあります。ただ、まだ明確な答えは見えていません。
今取り組んでいることのひとつが、すべてのミーティングの録画です。
パートナーとの打ち合わせも、社内のやりとりも、すべて記録していて、振り返りや分析ができる状態にはしています。ただし録画の量は膨大です。その中から「何を学び取るか」「どこをピックアップするか」は、本人のセンスや主体性に委ねられています。誰かが「ここを見て」と指示してくれるわけではなく、日々自問自答しながら「自分に今、何が必要か」を考え続けることが求められる仕事です。
言い換えれば、これは一種の自己開発や研究活動。マテリアルは揃っていても、それをどう活かすかは自分次第なんです。そこにもう少し後押しができるような仕組みをつくれたら、という思いも持っています。
3. 競争から共創へ。テンプレートがつなぐ自治体間の知見と実装力
乾:
ありがとうございます。Bot Expressに入社してすごいと感じたのは、PSMが自治体と向き合い、サクセスを共に考え実行していく仕組みだけでなく、自治体同士のコラボレーションからも新たな価値が生まれている点です。
住民票取得や引越し手続きなど、全国どの自治体でも共通する手続きは多くあります。そういった業務に対して、自治体ごとの取り組みや工夫をベースにベストプラクティスが蓄積されていくと、それが横展開されていく。競争とコラボレーションが同時に起きる、非常に可能性のあるマーケットだと感じています。
そうした中で、プロダクト提供の枠を越えて、自治体同士が学び合う“コミュニティ”としての捉え方も重要になってくると思います。この点について、中嶋さんはどのように考えていますか?
中嶋:
今、デジタル庁などでも全国共通の手続きを作ろうという動きはありますが、やはり一気に共通化するのは現実的に難しい。というのも、「ほとんど同じだけれど、少し違う」という点が各自治体にはあり、その違いが調整しにくいポイントになっているからです。
完全に共通化された形を押し付けるのではなく、テンプレートがありつつも、自由にカスタマイズできる設計が大事だと考えています。乾さんが「レバレッジが効く領域」と表現していたように、共通する部分をベースにしながら、自治体ごとのカスタマイズ余地を残すことで、実際に展開可能な仕組みになると思います。
多くの自治体では、ゼロから何かを作るのは得意でない場合も多い。でも、ベースがあれば“少し手を加える”ことは十分できるんですよね。そのときに、最初に作った自治体が他の自治体に「どうやって運用してるのか?」と聞かれることで、自治体同士が自然に学び合う関係が生まれてくる。
私たちが回答することもできますが、同じ自治体職員から聞く方が、実務としても納得感があることが多いと思います。そうしたテンプレート起点の交流やつながりが、オーガニックで有意義なコミュニティを形成していくのではないでしょうか。
乾:
やはりBot Expressのプロダクトの特性として、「共通パッケージをそのまま使いましょう」ではなく、自治体ごとの人口規模やシステム環境に応じて、ベースがありながらも柔軟にカスタマイズできるという点が、非常にフィットしていると感じています。その上で、集合知を蓄積し、活用できる仕組みがあることが、この取り組みを広げていくうえで大きな意味を持つのではないかと思います。
中嶋:
まさにそうですね。今後は、全国で活用できるテンプレートをもっと増やしていき、それをマーケットプレイスのような形で、自治体同士が自由にシェアできる仕組みが必要だと感じています(もちろん有償ではありませんが)。ただ、そのテンプレートが本当に価値を持つには、最初にそれを作った自治体が、実際に成果を出していることが大前提だと思います。使われていない手続きがどれだけあっても意味はなくて、「住民にしっかり利用され、負担を減らせているかどうか」までスタディし、成功事例として共有されることが重要です。
その過程で生まれるノウハウや考え方は、その自治体の中にしっかり蓄積されていくと思いますし、一定の成果を出した自治体は、今度は全国に提供する立場にもなっていく。これは、自治体職員にとっても大きなモチベーションになるはずです。単にミスなく業務をこなすだけではなく、自分たちの取り組みが住民に使われ、「ありがとう」の声が届き、他の自治体からも「そのやり方を教えてほしい」と言われる。そうした経験が、仕事のやりがいや誇りにつながるのではないかと思っています。
4. スケールより信頼。「住民からのありがとう」で証明する行政DXの価値
乾:
私たちが今どこにいて、これからどこを目指すのかについて少しお話しできればと思います。現在、GovTech Expressは300を超える自治体で導入されていますが、私たちはさらに多くのパートナー自治体に使っていただき、行政サービスのアップデートに取り組んでいきたいと考えています。その中で、「全国の自治体の過半数に導入していただくこと」を、ひとつのマイルストーンとして設定しています。この目標に込めた意図や、そこから見えてくる未来について、中嶋さんはどのように捉えていますか?
中嶋:
もともと私たちは、「日本の行政サービスのデファクトスタンダードをアップデートしたい」という思いからスタートしています。そのためには、少なくとも全国の半数の自治体が私たちのサービスを導入し、住民に提供している状態が必要だろうと考えました。なので、過半数というのは、当初から大きなマイルストーンとして掲げてきたものです。
ただ一方で、事業として拡大を目指していく中で、本来大切にしてきた価値観が置き去りになりそうになる瞬間もありました。スピードを重視しすぎると、事業の拡大ばかりに目が向き、既存のパートナーへの価値提供がおろそかになってしまう恐れがある。
でも、本当に重要なのは、今使ってくださっている自治体の中で「ありがとう」の声が住民から届くような状態をつくることです。導入自治体が過半数を超えたとしても、その中に成果が伴っていなければ、日本の行政は本質的に変わらないと思います。だからこそ、私たちにとって一番大事なのは、既存のパートナー自治体に十分な価値を届けること。それを実現したうえで、導入数が過半数を超えたときに初めて、「日本の行政がアップデートされた」と胸を張って言えるのだと思います。
そのためにも、PSM一人ひとりが、自分の担当する自治体を“自分ごと”として向き合い、伴走していく。これが、私たちの事業の根幹にあるべき姿だと思っています。
5. 可視化・洞察・AI活用。人が介在する意味を問い直す、新しい伴走とサクセスのこれから
乾:
ありがとうございます。私も、ミッションステートメントの中に「事業拡大よりも今いるパートナーを優先する」と明記されている点がとても好きなんです。それが企業としてのスタンスとしてしっかり言語化されていること自体、すごく価値があると感じていますし、ある意味では勇気が必要な姿勢でもあると思うんです。でも、それこそが今のお話にあったような「本質を大切にする」姿勢にしっかりつながっているのかなと、改めて感じました。
中嶋:
昨日の1on1でも少し話した内容ですが、私たちの組織は今、成長フェーズにある一方で、課題も山ほどあります。その中でも特に大きいのが、PSMが自治体と向き合う際に、どれだけ深い洞察力を持てるかという点です。乾さんがこれまでのご経験の中で、そうした力を高めていくために有効だと考える取り組みや施策があれば、ぜひお聞かせください。
乾:
はい。いくつかあると思いますが、「パートナー自治体をどれだけ深く理解できるか」がすべての起点だと考えています。極端に言えば、“パートナー以上にパートナーを知る”ことがサクセスの本質であり、価値を出すためには不可欠です。
そのためには、今どんな業務が行われているのかを細かく整理・可視化し、パートナーと共通認識をつくることが非常に有効だと捉えています。そこから「この作業、そもそもいらないのでは?」という発見が生まれ、潜在的な課題や、あるべき手続きのかたちも見えてくると思います。
ただ、その深い洞察を持ちながらも、複数の自治体に向き合う必要がある今、すべてを人の力だけでやるのは難しい。だからこそ、AIを活用して我々の働き方そのものをアップデートしていく必要があると考えています。
たとえば、作業内容を自動的に整形してレビュアーに渡す仕組みや、初期レビューをAIで実施するなど、一定の品質担保や負荷軽減の工夫ができるはずです。
中嶋:
そうですね。例えば社内で書いているnoteの事例記事なども、私が最終チェックをしていますが、誤字脱字の修正などをしていて、「これはもう人間がやる作業ではないな」と感じる瞬間があります。一次レビューはAIに任せて、人が見るべきは“どれだけ熱量があるか、ちゃんと伝わるか”といった部分に集中すべきだと思うんですよね。
乾:
おっしゃる通りですね。「人が介在するからこそ生まれる価値」はどこなのかを見極めて、そこにリソースを注ぐことが、これからの働き方ではより重要になっていくと感じています。まだ始まったばかりですが、パートナーの皆さまとともに、サクセスを一緒に作っていけることを楽しみにしています。本日はありがとうございました。
2本のインタビューで紐解く、Bot Expressのプロダクトとサクセス、いかがでしたか。日本で暮らす人にとって、行政手続きは切り離せない存在です。子育てや介護など、行政の支援を必要とする人々にとっては、行政サービスそのものが、日々の暮らしを支える大切なライフラインと言えると思います。
その行政サービスは、今のままで本当に良いのでしょうか?
テクノロジーの力を活用することで、必要な手続きに一瞬でアクセスできる世界をつくる。多発する自然災害、少子高齢化による支援ニーズの多様化など、日々の業務に追われる自治体職員の負荷を減らす。Bot Expressは、住民と自治体職員それぞれに「行動変容」をもたらすことを目指して、事業を展開しています。
目標は、全国の過半数の自治体への導入。行政サービスの「ふつう」を変えていくためには、優れたプロダクトと、現場に深く伴走する力の両方が欠かせません。Bot Expressでは、共に日本の行政サービスを変革していく仲間を募集しています。この営みを、“ライフワーク”として向き合っていける方と一緒に、未来をつくっていきたいと考えています。
編集後記
本インタビューの企画・編集を担当した、PR・コーポレート担当の松尾です。前編でもご紹介した通り、乾さんは前職でも一緒に自治体DXに取り組んでいた仲間です。今回、Bot Express入社直後のタイミングでこのインタビュー企画を提案したところ、即座に「やりましょう」と返してくれた乾さん。その反応に、かつて一緒に働いていたときと変わらない、圧倒的な頼もしさを感じました。
乾さんは、自治体の課題に対して真剣に向き合いながら、熱量だけでなく現実的な仮説と思考で、成功までの道筋を丁寧に描いていきます。入社早々、30近い自治体を担当し、今後さらに現場の状況を深く理解しながら、さまざまな提案をしていくはずです。乾さんの取り組みが、新しい行政サービスを生み出す確かな力になると信じています。
もし何か壁にぶつかることがあれば、PR・コーポレート担当として、私も全力で乾さんに伴走していきます。パートナー自治体の皆さま、どうぞこれからの乾さんにご期待ください。