*本記事は、以下noteの転載になります。
https://note.gaudiy.com/n/nd3dcf7d64ce8
もし、最先端の学知が、リアルタイムで社会を動かす力になったら?
私たちの生活は、ビジネスは、社会は、どう変わっていくのでしょうか。
誰もが “好き” や “夢中” で生きられる社会「ファン国家」。
この壮大なビジョンを掲げ、Gaudiyが創業以来こだわり続けてきたのが、アカデミアとの共創です。ビジョンを机上の空論で終わらせず、現実社会に実装していくために、私たちはアカデミアの理論とビジネスの実践を通じた「知の融合」を大切にしてきました。2025年5月にはプレシリーズCラウンドでの資金調達も実施し、この共創を加速させていきます。
今回、Gaudiy CEO石川の呼びかけでお集まりいただいたのは、メカニズムデザイン、ゲーム理論、人工生命といった、未来社会の設計に不可欠な学知をリードする、5人のトップ研究者の方々です。
彼らがGaudiyとの協働に見出す価値とは。そして、日本の産学連携が抱える課題と、その解決の糸口はどこにあるのか? ディスカッションの内容をお届けします。
目次
- 産学連携の意義は、学問を現場で使い、磨くこと
- 産学分断は「時間的制約」と「言語の違い」にある
- スタートアップと研究者をどうマッチングするか
- 民間企業とアカデミアを行き来する人材を増やす
- Gaudiyという“実験場”を使って実現したいこと
産学連携の意義は、学問を現場で使い、磨くこと
Gaudiy石川(以下、石川):本日はお集まりいただきありがとうございます。まずは自己紹介を兼ねて、専門の研究分野と、Gaudiyとの取り組みについてお話しいただけますか。
坂井豊貴さん(以下、坂井):慶應義塾大学の坂井です。専門領域は社会的選択理論・メカニズムデザインで、2019年からGaudiyの経済設計顧問をさせていただいてます。大学で働きながら、会社を起業して、経済学のビジネス実装に取り組んでいます。
僕は昔、商業劇団で活動していたことがあります。演劇をやるにはお金がかかりますし、チケット収入だけではかなり生活が厳しいです。そんな役者や劇団を支えたいと思ってくれるファンの方は多くいたと思いますが、当時はチケット以外にお金を使うルートもなかった。それで僕は大学4年生のときに、これでは食っていけないと思って役者を辞めました。
その後、経済学者になりましたが、ファンと役者がもっと支え合える仕組みがあればいいのに、といった想いはずっと胸に残っていて。だからGaudiyのビジョンである「ファン国家」には、すごく共鳴するんです。
具体的に携わった一例は、「Gaudiy-Sakai方式」という新たなNFTオークションの設計です。オークションの過程でNFTの発行枚数を決める、という理論的に新しい挑戦をしましたが、ユーザーさんからの評判も非常によく、僕の代表作のひとつとなっています。
慶應義塾大学・坂井豊貴 教授
石川竜一郎さん(以下、竜一郎):早稲田大学の石川です。Gaudiyの石川さんと同じ苗字なので、石川さんのことは「ゆうやさん」と呼ばせていただいてます。僕の名前は「竜一郎」なので、そう呼んでいただけたら(笑)
僕はゲーム理論・情報経済学を専門としていて、Gaudiyとの接点としては、2020年からコミュニティサイエンス顧問として関わりはじめました。
SNSやコミュニティにおける炎上や誹謗中傷を、ゲーム理論を用いて科学的に分析・理論することを共同研究しています。坂井さんとは以前からの知り合いで、ここでもご一緒できてとても嬉しいです。
早稲田大学・石川竜一郎 教授
伊藤穰一さん(以下、JOI):伊藤穰一です。デジタルガレージ社の共同創業やMITメディアラボの所長などを経て、現在は千葉工業大学(以下、千葉工大)の学長を務めています。石川さんには2023年に初めてお会いして、それ以来、web3や生成AIなどのテクノロジーから政治、哲学、文化まで、いつも色んなことをディスカッションさせていただいています。
Gaudiyさんとは、千葉工大の変革センターで生成AI関連の共同研究に取り組んでいて、産学連携を通じたイノベーションの創出をめざしています。
千葉工業大学学長・伊藤穰一
池上高志さん(以下、池上):東京大学の池上です。僕の専門分野は複雑系・人工生命で、コンピュータを駆使して生命をシミュレーションすることにずっと取り組んでいます。
「人間とは何か」「機械に意識は宿るのか」といったテーマを探究したり、アンドロイドを活用したアート活動をしたり。千葉工大の変革センターの一員として、僕も交流させていただいています。
東京大学・池上高志 教授
岡瑞起(以下、岡):2025年3月まで筑波大学の准教授をしていた岡です。今年の4月から、Gaudiyに正社員として参画しています。
Gaudiyとは2023年から千葉工大の変革センターの一員として関わりはじめ、現在は、AIチームのみなさんとともにLLMエージェントの研究開発をしたり、共同論文の執筆なども進めています。専門は「人工生命」で、池上さんにもポスドクのときにお世話になりました。
元筑波大学・准教授 / Gaudiy AI技術責任者 岡瑞起
石川:最初のテーマとして、みなさんが考える「産学連携の意義」についてお伺いしてみたいです。
坂井:僕の考えはシンプルで、学問を現場で使い、磨くこと。たとえば僕はレーティング(点数づけ)を専門分野のひとつとしていますが、企業と一緒にECサイトのレーティング・アルゴリズムの設計をすると、自分に足りていない部分に多く気付かされます。
学問は広く使える一般性を志向する傾向がありますが、企業での取り組みは個別事情への配慮という、特殊性も大事です。だから僕は、理論と実践、研究と臨床のように、両者が互いを磨く必要があると考えています。
JOI:僕も坂井さんと同じで、セオリー(理論)とプラクティス(実践)はどちらが欠けてもダメなんですよね。セオリーとしては正しくても、プラクティスを通じたフィードバックがないと、おかしな方向に行ってしまう。特にスタートアップは、ビジネスの現場として非常にリアルで、フィードバックのサイクルも早いと感じます。
池上:それは思いますね。僕、昔は産学連携にまったく興味がなかったんですよ(笑)企業の人たちはお金儲けしか考えてないだろうと思っていたし、周りを見ても、産学連携に興味を持っている研究者はほとんどいなくて。
でも、あることをきっかけに、その考えが変わったんです。以前、2本のシリンダーを使って乱流をつくる装置をつくっていたときに、理論どおりにやっても全然だめで。アメリカの知人に相談したら「ああ、それはシリンダーの間を1センチ幅に開けるんだよ」と。たったそれだけで解決できたんです。
その経験から、現実世界でないとわからないことが絶対にある、と思うようになりました。生命そのものも、もしかするとプラクティカルなノウハウの集積にすぎない可能性も捨てきれないじゃないですか。だから実践は重要なんだと思います。
産学分断は「時間的制約」と「言語の違い」にある
石川:セオリーとプラクティスの両輪、すごく大事ですよね。にも関わらず、その連携がうまくいかないのはなぜだと思いますか?
池上:前提として、物事には、すぐにプラクティカルなものへと変換できない「基底の知*」があり、その発見を目指すのが学問です。だからこそ、実践とのあいだにギャップが生まれやすく、それぞれの専門性も大きく異なってくるのだと思います。
*基底の知…物事の基礎や土台をなす、より根源的な知識
その上で、「時間的制約の違い」はあると思いますね。たとえばアートのエキシビジョンで、あと12時間で始まってしまうときに、プログラムを修正しないといけない事態が生じて。そんなときに理論がどうだとか言ってられないじゃないですか。この制約が、プラクティカルな世界の特徴だと思います。
岡:GaudiyでAIチームと一緒に共同研究するときにも、それは感じますね。やはりビジネスはサービスを出さないと始まらないので、研究者みたいに、ひとつひとつ丁寧に時間をかけてリサーチできない。セオリー的には最適な手法でないときもあるけれど、最速でリリースしたからこそ新しい世界が拓けるし、その学習データからまた新たな研究が生まれることもあって。そこはセオリーだけでは辿り着けなかった世界だなと思います。
もうひとつ私が思うのは、研究者たちは外に伝わる「言葉」を知らないので、自身の専門領域に閉じている方がラクなんですよ。外の人と話すときは、普段と違う説明の仕方が必要になったり、同じ領域であれば共通認識を得られている価値が理解されづらかったりする。
なので外の世界とのコミュニケーションでは、ギャップを埋めようとする「サービス精神」がどうしても必要になると思っていて。大抵の研究者はそれは面倒くさいし、時間がないからやらない。だから産学連携が進まないんじゃないかなと。
坂井:それは非常にわかります。また別の観点では、研究者がドメイン知識を得られるか、得ようとするかも、すごく大事な要素だと思います。たとえば僕は、モノを高く売るオークションの仕組みを設計することはできますが、その知識を不動産の売買で活かせるかでいうと、できないんです。不動産業界やその企業について勉強をしないと、どこでどう活かせられるかがわからない。この重要性を認識している人が、とても少ないと感じます。
竜一郎:そこをブリッジできる人の存在も圧倒的に少ないですよね。
坂井:本当にそうです。そのブリッジできる人に、研究者自身がなる方がよいとも思うんです。研究者の専門知というのは、その人にしかわからない部分が多くある。だから本人が、現場の人と丁寧にコミュニケーションを取り、ドメイン知識を得にいくしかないと思います。
もっとも避けるべきは、研究者がいつまでたっても「先生」というポジションに居続けて、お互いに距離を詰めようとせずに、結果としてイノベーションが生まれないことです。
だから僕は、産学連携をプロボノではなくビジネスとしてやるべきだと思っています。研究者はきちんとお金をもらって対価を出さないといけないし、企業サイドはきちんとお金を払って真剣に取り組む。
石川:坂井先生と長らくご一緒させていただいてるなかでも、理論と実践をうまく融合させるには、その姿勢がとても大事だなと僕も感じています。
スタートアップと研究者をどうマッチングするか
石川:僕はアカデミアの方々と話すのが好きなんですが、先生方の感覚として、学問をビジネスに役立てようとするスタートアップって少ないですか?
竜一郎:我々のような研究者に、積極的にアプローチしてくれるスタートアップは、そう多くないと思います。逆に聞きたいんですが、石川さんはなぜ積極的に声がけしているんですか?
石川:僕は、坂井さんにDMして仲良くなれた、という最初の成功体験が大きいかもしれないです(笑)
坂井:あれは石川さんがよく僕を見つけてくれましたよね(笑)新しいNFTオークションの仕組みづくりに対して、僕のオークション設計の知識とGaudiyのNFTに関するドメイン知識がうまく噛み合わさったという。
岡:どうやって坂井先生を見つけたんですか?
石川:X(旧Twitter)です(笑)真面目に話すと、坂井先生の書籍を読んで、お声がけしました。
池上:僕は、マッチングはスキル以上に、個と個としてうまく付き合えるかどうかだと思ってます。石川さんはおもしろいから、個人的に付き合える。いま一緒に研究しているアーティストの方も、専門分野がどうとかは気にしたことなくて、単に気が合うかどうか。それだけです。
岡:マッチングでいえば、例えば私がJOIさんを介さずに石川さんに出会えたかというと、やはり難しかったと思います。普段は自分のコミュニティに閉じがちになってしまうので。その意味での仲介役がいると助かります。
石川:JOIさんの繋ぎ方もすごくよかったですよね。「AIエージェントの研究開発をしてるなら、人工生命がマッチすると思う」という入り方で、仕事につながるテーマ設定をした上で紹介してくれたから、初対面でもネクストアクションにつながる話ができた。
岡:そうそう。どこが接点になるかって、なかなか見極めるのが難しいですけど、JOIさんは卓越してますよね。そういうマッチングアルゴリズムをつくってほしいです(笑)。
民間企業とアカデミアを行き来する人材を増やす
石川:JOIさんは海外の大学事情もよくご存じだと思いますが、日本における産学連携の課題を挙げるとしたら、なんだと思いますか?
JOI:大きな課題として、ファンディングストラクチャー(資金集めの仕組み)があると思います。たとえばアメリカだと、リサーチャーとして企業から報酬を得ながら、Master(修士)やPhD(博士)を取る人も多い。だからアメリカでは、大学教授がPhDを雇って自分のチームを作ることができるんですよね。
岡:日本でも大学教授をしながら起業すれば、PhDのチームを作れないこともないですが、それにはかなりの労力が必要で、現実的に難しいですよね。
JOI:そう。加えて、日本では民間企業とアカデミアを行き来する人が少なくて、それが産学連携を阻む一因になっていると感じていて。PhDを持っていても民間企業で役に立たない社会になっているから、民間にいきたい人は、MasterやPhDを取るために何年もの時間を使えないんです。
人材をもっとクロスオーバーさせることができれば互いにリスペクトが生まれ、より理解し合おうという土壌ができるけれど、それが日本社会には形成されていない。
だから僕は、企業経営をしながらMasterやPhDを取得できるような場を、もっと日本の大学で作っていきたいし、そういう環境が普通になってほしいと思います。
坂井:そうなるのが理想的だと思いつつ、大学機関や企業を変えていくのは、日本では難しいとも感じています。いま時点においては、大学と企業という組織同士の連携よりも、研究者個人が企業と直接連携できる道を探るほうが、産学連携の理想形に近づけるんじゃないかと思ったりもします。
石川:産学連携の「学」は、大学だけじゃないってことですね。
Gaudiyという“実験場”を使って実現したいこと
石川:最後に、Gaudiyというプラクティカルな場を活用し、研究者として実現したいことを、それぞれ聞かせてください。
岡:私は、GaudiyのAIチームが描くビジョンに共感していて、社会シミュレーションを実現したいです。AIを伴った社会システムではどんなことが実現できるのか、それを探究したいですね。
池上:僕は、新たな価値観をつくりたいなと。お金を増やしたい、長生きしたい、も人それぞれの価値観だと思うんですが、そういうものってナチュラルに生まれるものじゃないと思うんです。「いまの社会の価値観を変えたい」という思いが石川さんにもあると思うので、一緒にやってみたいです。
竜一郎:いいですね。僕はあたらしいコミュニティをDAOでつくりたいと思っています。DAOは自由度が高く、どんな形にも作り込めるのが良いところだと思っているので、そのコミュニティのなかで人々がどのように行動するか、いろんな実験をしてみたいです。
坂井:僕はやはり、オークション設計や、マーケットの仕組みづくりに取り組んでいきたいです。「ファン国家」のように、特定のコミュニティでお金を得ることができれば、既存社会にうまく適合できてない人でも生きやすくなる。誰もが居場所をもてる経済の仕組みづくりに貢献したいです。
JOI:僕はいま大学にいるので、千葉工大の変革センターでGaudiyさんと取り組んでいる共同研究を中心に、民間企業とアカデミアの人が交流する機会や場を増やしていきたいです。そこから互いを理解することで生まれるイノベーションがあると思います。
石川:Gaudiyとの今後の共創と、日本の産学連携の未来に向けた多くのヒントをいただけた気がします。これからも「ファン国家」の実現に向けて、引き続き連携を進めさせてください。本日はありがとうございました。
文・編集:山本花香、撮影:@Tommy