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中村洋一郎が聞く!『現社員が語る、世界最高の健康経営:ジョンソン・エンド・ジョンソンの取り組み』

赤ちゃん用品やバンドエイドで知られるジョンソン・エンド・ジョンソン社(Johnson&Johnson。以下、J&J)。医療機器や医療用医薬品でも世界トップを走り続けている同社が、健康経営においてもリーディングカンパニーであることはご存知でしょうか。

驚くことに、J&Jの健康経営は1800年代に端を発します。そして1900年代後半にはすでに”Live for Life®”という全社的な取り組みにまで発展しました。(参考記事、英語

今回は、J&J本社(アメリカ・ニュージャージー州)に勤務するロン・ビンルアン氏に、J&Jの健康経営を社員視点で鋭く評価していただける機会をえました。

ビンルアン氏は、世界有数の通信機器メーカーから2018年にJ&Jに転職。現在は経営戦略部門の一員として、世界に広がるJ&J拠点横断での業務効率化に従事しています。

アメリカ国内はもとより、世界の他エリアでどのようにJ&Jの健康経営が実践され社員がそれをどう活用・評価しているか。J&J本社のカフェテリアでじっくり話を聞いてみました。

アメリカ・ニュージャージー州のジョンソン・エンド・ジョンソン本社。隣には名門Rutgers大学もある。(写真提供:Wikimedia Commons

2020年までに10万人の社員の心身の健康を最高レベルにまで引き上げる

ーーJ&Jが現在、もっとも力を入れている健康推進施策はどのようなものでしょうか?
社内でいま最も推進されているのは、HealthForce 2020ですね。心身の健康に資するプログラムを提供し、2020年までに、14万人の全ての社員が、いままでで最も心身の充実した状態に至ることを目指しています。

ーー具体的にどんな取り組みが展開されているのでしょうか?

例えば、このカフェテリア。20/80のヘルシーチョイスが一目瞭然だったと思います。
*20/80のヘルシーチョイス:各食品分類において最低80%は健康的な商品とし、嗜好品は多くても20%に留めるという会社ルール。嗜好品を”チョイス”と呼ぶ例えば飲み物。

ソーダ(炭酸飲料、清涼飲料水)などのチョイスは全体の20%。それ以外は水やお茶など、健康に配慮した飲み物という構成になってます。健康的なものは手に取りやすい、目立つ場所に置くという工夫もしています。

会社からの意識啓蒙も盛んです。例えば、ウェルネスに関するメッセージが週一回程度の頻度で届きます。

ーーアメリカ国外の支店でも同様でしょうか。

先日、フィリピン・マニラのJ&J拠点に、他の部門メンバーとともに出張してきました。国によって保険制度等のヘルスケアシステムが異なるので、全ては同じにできませんが、Health Force 2020はマニラでも積極的に導入されています。

フィリピンのJ&Jでは、週に一度社員にフレッシュフルーツが配布されます。フィリピンは果物が豊富なのになぜだろう、と思いましたが、厳密な生鮮管理が求められるフレッシュフルーツは貴重で高価になるそうです。会社のサポートで、社員が安心してフレッシュフルーツを食べられています。

こだわりはオフィスデザインにも

ーー食事以外はいかがでしょうか。

建築、デザイン面でいうと、新しい施設には施設の周りをウォーキングできるように小道が設計されています。勤務中も歩くことでリフレッシュできるし、ウォーキングしながらミーティングもします。

歩くことはとても推奨されていて、社内メールでも、歩きながら話し合おう、なんてメッセージが日常的に届きます。


ーーウォーキングって、川沿いの散歩道みたいな感じですか。

いや、そんな立派なものではありません。会社の周りをぐるっとまわって歩くことができる、ちょっとした散歩道です。

これがとても機能的なんです。ずっと座って考えると限界があるし、気分転換に少し外に出て足を動かすだけで、座っていると反発を感じてしまうような内容の話でも、聞く耳をもてたりするんです。心のバランスがとれるというか。


ーーそれはとても大事な休息ですね。

朝7時前から賑わうオフィス併設ジム

ーー社内にジムがあるようですがどの程度使われていますか。
例えば私の一日のスケジュールですが、まず、朝4時半には家を出ます。


ーー朝の4時半はアメリカでも早いほうですよね。

そうです。車で通勤していて5時15分ごろには会社に到着して、すぐにジムに行きます。ジムで体を動かしてからシャワーを浴びて、朝食をすまして、朝7時前にはデスクについて仕事を始めます。

帰りは17時前にはオフィスを出たいけれど、最近遅くなってしまってます。これが今の課題。娘が産まれたので、できるだけ娘が寝る前に帰り、娘の顔を見て、妻の手伝いをしたいのですが、そういかないことも多くあって……

月曜から木曜まではこのスケジュールで、金曜は在宅勤務です。この週一日の在宅勤務というのは、自分と妻にとってとても大事な日で、仕事はしつつ家にいるので必要に応じて家事、育児を手伝えます。

娘が昼寝したら、妻は散歩や買い物をしながら一人の時間を過ごせるし、シャワーだってゆっくり浴びられます。

ーー素晴らしい。1人の時間は大切ですからね。ところでジムにはトレーナーの方もいらっしゃるんですか。
はい、有料でパーソナルトレーニングを受けられます。ヨガやズンバなどのクラスは無料です。朝5時から夜19時まで利用できて便利なので、近所のジムには行かなくなりました。また、ジムからのメールでもいろいろな健康情報を知ることができます。

ーー朝5時のジムには他にも誰か来ているんですか。
これが想像以上に来ています。私がジムを出る頃には少し混み始めるほどです。

より働きやすい会社へ

ーーこれだけ健康意識の高い会社であれば、居心地もよく仕事しやすいのではないでしょうか。

すごく居心地がよいし、社員もいい人ばかりです。どんな会社や環境でも、自分に合わないチームや、自分が潰されてしまうときもあるとは思いますが、いまのところすごく気に入っています。

リーダーシップがいいからでしょうね。現在の上司は以前一緒に働いたこともあり、長年知っている信頼している方です。上司との関係がとても良好なので、とても働きやすいです。

社内全体を見ても、社員の半分以上が女性で、役員クラスでも多くの女性が活躍しています。人種も非常に多様です。


ーー上司の方は、リーダーシップやチームビルディングの研修などを受けているのでしょうか。それとも、リーダーシップの資質がもともとあるのでしょうか。

どちらもでしょう。弊社には、あらゆるキャリアを対象に、数多くの研修があるので、上司も様々な研修を受けています。研修で学んだことをすぐに活かせる人は研修後に目に見える違いを感じます。


ーーいままで勤務されたことのある企業と比べるとどうでしょうか。

以前は、世界有数の通信機器メーカーで働いていました。辞めたとき、「もうサラリーマンは絶対しない!」と強く誓ったくらいです。

ウェルネスとはかけ離れた企業文化で、自分のポジションは政治的な業務ばかりだし、気持ちよく仕事ができなかった。仕事で疲れ切っている自分を、妻も快く思ってなかったし、仕事を続けることに明らかに難色をしめしていました。

当時は学ぶ時期だと割り切っていたところもありましたが、ずっと続けられる環境ではありませんでしたね。

正面かつ包括的な取り組みがジョンソン・エンド・ジョンソン流

ジョンソン・エンド・ジョンソンの健康経営について率直な意見を共有してくれたロン・ビンルアン氏(右)

健康経営の形は一つではない

ーーカフェテリアを無料化したり、社内にゲームエリアを設置するといった工夫を行っている企業も多く見られるようになりました。

離職防止のためにこれらの取り組みは有効だと思います。ゲームでリラックスすることもパフォーマンス向上に効果があるかもしれません。
ただし、J&Jが重視しているのはあくまで社員の健康です。その副次効果としてパフォーマンス向上を見ている。

離職防止に関しても同様です。社員が辞めない理由の一つに、社員を思いやる会社の姿勢があると思いますが、会社が重視しているのはあくまで社員の健康だと感じます。

ーーおもしろい意見ですね。健康経営の形は一つではない。何を重視するかで施策が大きく変わるんですね。


資産形成まで含むwhole healthなサポート

ーー社員の資産形成面もJ&JはケアしているとJ&Jホームページ上の記事で読みました。
私も最近知ったのですが、すごく助かりますよね。自分の収支や貯蓄の話なのに資産形成って本当に複雑ですよね。

専門家以外誰も理解できていないんじゃないでしょうか。皮肉っぽいですが、意味があって複雑にしているかもしれない、って思うほどです。

J&Jが健康という概念を、心身の健康からさらに社員の資産形成にまで広げていることは大変嬉しく感じています。

ーーなかなかできることではないですね。

本当にそう思います。一般的に健康というと、心と身体の健康を指します。でもJ&Jでは、健康といば、身体、心、スピリチュアルなど、ホールヘルスとして捉えてくれるので、とても安心できます。

行動重視の仕組みが社員を動かす

ーー健康増進することのインセンティブは何かしら用意されているんでしょうか。

健康的な活動には、四半期に$100まで費用補助が適用されます。例えば社外のジムに一定の回数以上通っている社員は、ジム利用料の補助として会社から$100を受け取れます。家の近くのジムの利用料がこうやって少しでも節約できたらいいですよね。

ジムでなくても、ヨガスタジオでも、ダンススタジオでも構いません。健康的な活動をしている、という証明さえできれば、会社は活動費を$100まで補助してくれます。もちろんレースやマラソンの参加費にも使えます。

私は過去二回、世界最高峰の障害物レースとも呼ばれる、スパルタンレースに出ました。NYマラソンでも認められるはずです。


ーー四半期に$100は結構な大きな額ですよね。

会社としては莫大な投資ですよ。社員の多くが利用していて、その数は何万人単位ですから。


ーー行動重視が特徴のようですが、金銭的なインセンティブ以外にも行動を促す仕掛けはあるのでしょうか。

会社から社員にフィットビットを配布しているので、着用している社員を非常に多く見かけます。歩数を増やして体重を減らすことが目標ではなく、歩数が増やして健康的な自分になる、ここでもそのポジティブな姿勢が評価されます。結果でなくて、意識が重要視されています。
*Fitbit, Inc.の販売する時計タイプのウェアラブル製品


ーーその結果、パフォーマンスもあがるはずですよね。

それはとても重要なポイントですね。会社としてどれくらい数値を管理しているかはわかりませんが、社員が心身ともに健康であれば仕事のパフォーマンスが上がり、企業としてのパフォーマンスも高まるのは当然。社員の歩数が増えることが、会社のパフォーマンスに貢献する、というのは想像に難くないですよね。

いえいえ、社員の歩数と会社のパフォーマンスを直結できる方は決して多くないですよ。

成功の秘訣は時間をかけた文化作り

J&Jは100年以上前から健康推進に力を入れ、1970年代後半からは全社的な取り組みにまで発展させた、健康企業のリーディングカンパニーです。

ーーここまで成功できたのはなぜだと思いますか。

これまで健康経営に成功し続けた、というよりは、「いま」成功している状態なのではないでしょうか。

この分野は結果を得るのに時間がかかります。企業規模にもよりますが、数年程度では企業文化の大きな変容は期待できません。時間をかけて取り組めば変えられると思いますが、急に変えるのは難しいものです。

ただし若い年齢層の社員は健康意識が高いので、時間をかけて継続的に取り組みさえすれば必ず、健康が企業文化に組み込まれるはずです。でも、それ以外に方法はありません。

「いま」と言ったもう一つの理由がリーダーシップです。以前から、J&Jには、健康意識の高い企業文化がありましたが、その文化を常にリーダーが体現しないことには社員はついていきません。

リーダーが健康第一であれば部下も自然とついてきます。リーダーが健康に興味がなければ、部下の意識だって下がります。文化は一日では出来上がりません。今日の気分はどうか、予防接種は受けたか等の声がけやリーダー自身の行動一つ一つが社員に少しずつ影響を与え、その積み重ねの結果が文化になると考えます。

ーー本当にそのとおりですね。実際、経営陣から高い健康意識を感じますか。

自分の部署のトップからは強く感じます。現在のCEOも同様です。健康意識がとても高く、健康への取り組みを精力的に行っています。

彼は軍隊出身で、体をすごく鍛えています。背は高くなく、筋肉質ではないですが体が引き締まっている。去年ここでイベントがあって、Tシャツを来て現れたんですね。そしたら身体を鍛えているのが一目瞭然でした。水泳も得意だそうです。60代のはずですが、本当に若々しいです。

執筆:中村 洋一郎(@Yoichiro32

中村 洋一郎(NY在住 人と組織のコンサルタント)|note
企業は人なり - 健康は生活習慣に宿る - 伝統とエビデンス - 身体との対話 - 米国栄養療法協会認定 栄養療法コンサルタント - Babson College MBA - 靴大好き - 一児の父 - ブルックリン在住 www.open-laboratory.com
https://note.mu/yoichironakamura
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