BARE NOTE STUDIOの黒木郁己です。普段はホテルを中心とした空間作りを行なっています。
今日は最近増えているアパートメントホテルについて、その背景や今後起こりうる未来について考えながら、次のホテル作りに繋げていこうと思う。
※ちなみにサービスアパートメントとアパートメントホテルには、ライセンスや契約形態、出店戦略などの違いがあり、今回はアパートメントホテル(旅館業)に絞って話をさせていただく。
アパートメントホテルの台頭と急増の背景
初めてアパートメントホテルに(意識して)泊まったのは、8年前にゴールドコーストへ行った時のこと。
僕はオーストラリアのスーパーが好きで、旅行に行く時は料理ができるようにキッチン付きのホテルを選ぶことが多い。この時も、キッチン付きの宿泊施設を選んだ。
高層マンションのような設えで、フロントは無く、セルフチェックインで入室する。室内にはキッチン、洗濯乾燥機、リビング、ダイニングがあり、ベランダにはBBQセットまで置かれていた。
ほとんど家のような機能を持ちながら、個人運営の民泊とは違う、サービスの統一感を感じたのを覚えている。
当時、日本にはまだアパートメントホテルはほとんどなく、個人で運営する民泊が主流で、不動産開発会社もそこまで注目していなかったように思う。
その後、2018年の民泊規制もあり、その需要の受け皿となるようにMIMARUなどのアパートメントホテルが台頭し始めた。弊社のilli Staysも2019年にスタートした。
当時、外資や国内大手デベロッパーは、どちらかというとラグジュアリーホテルの開発をメインに行っており、アパートメントホテルにはまだそこまで大きな関心を示していなかった印象がある。
潮目が変わったのは、コロナ明けの2022年頃だった。
円安の進行やコロナ明けの需要回復によって、インバウンド数は過去最高を更新し続ける一方、ロシア・ウクライナ戦争や中東情勢の不安定化などの影響もあり、建材費、物流費、人件費は揃って上昇し、建築費は急激に高騰していった。
その結果、ファンドや開発事業者は、これまで成り立っていた不動産開発の収支が合いづらくなっていった。
アパートメントホテルは比較的広めの客室に、キッチンや洗濯乾燥機など、「暮らすための機能」が備わっていることが特徴だ。
利用者は部屋の中で食事も洗濯も完結できるため、ロビー、フロント、レストランなど、通常ホテルで必要とされる機能を最小化することができる。
つまり、開発・運営側から見ると、「高収益を生む空間」に集中しやすい構造になっている。
利用者にとっては「より自由で生活に近い滞在体験」を提供しながら、開発・運営側にとっては「建築コストと運営コストの双方を抑えられる」。
収益性と需要がマッチした結果、現在、各社(BARE NOTE STUDIOも含め)がアパートメントホテルの開発を進めている。
宿泊特化型ホテルが増えた時代を遡ってみると
少し遡ってみると、宿泊特化型ホテルが急増した2000年代~2010年代にも、似たような空気があったのではないかと思う。
当時は、都市部における土地取得コストが高く、限られた容積の中で、いかに効率よく客室を配置し、収益性を最大化するかが重要視されていた。
また、現在ほどインバウンド需要や体験型宿泊への関心は強くなく、宿泊需要の中心はビジネス利用だったため、利用者もホテルに対して「寝る場所」としての機能性を求めていた。
さらに2000年代に入ると、日本でもREITや不動産ファンドが急速に拡大し始める。
2001年には東証にJ-REIT市場が開設され、不動産は「保有するもの」から「金融商品として運用するもの」へ変化していった。
ホテルも例外ではなく、
・どれだけ効率よく客室を配置できるか
・どれだけオペレーションコストを抑えられるか
・どれだけ安定したNOIを出せるか
という視点で評価されるようになる。
その中で、客室をコンパクト化し、共用部を最小限に抑え、高稼働を前提に収益性を高める「宿泊特化型ホテル」は、都市部の土地効率や投資ロジックとの相性が非常に良かった。
つまり宿泊特化型ホテルは、単なるデザイントレンドではなく、「都市部における土地効率」と「不動産の金融商品化」という時代背景の中から生まれた業態だったのだと思う。
ただ、その後市場が成熟していく中で、単なる“効率性”だけでは選ばれなくなっていく。
例えばアパホテルは、自社予約経済圏である「アパ直」を強化することでOTA手数料を削減し、徹底的に無駄を排除した。
一方でドーミーインは、温浴施設や夜鳴きそばなど、宿泊以外の体験価値を積み上げることで独自のポジションを築いていった。
つまり、市場が成熟していく中で、各社は単なる「効率」だけでは戦えなくなり、それぞれの思想や体験をホテルに宿し始めたのだと思う。
IRRだけではない、ワクワクするホテルを作っていきたい
illi Toas Tokyo-Tranomon
これは、今のアパートメントホテル市場にも近いものを感じる。
現在はまだ、「広い」「キッチンがある」「洗濯乾燥機がある」という機能価値だけでも十分に需要が存在している。
ただ、供給が増え続ければ、やがてその機能は当たり前になる。
実は最近、ラグジュアリーホテルも含めて、予定調和的なホテルが増えている印象で、正直、どこに泊まってもあまりワクワクする滞在に出会える機会が少なくなっていた。
このnoteを書こうと思ったのも、そんな少しの寂しさから。
もちろん、投資として成立することは大前提だし、僕自身も事業としてホテルを作っている以上、収益性を否定するつもりは全くない。
ただ、IRR(内部収益率)だけを起点に設計されたホテルが、人をワクワクする存在であり続けるのかという問いは、常に頭のどこかにある。
BARE NOTE STUDIOには「Product is Everything」というバリューがある。
まだ夢半ばではあるが、これからも僕たちは様々な経験を経て、機能性の先に問われる、「どんな時間を過ごせるのか」「どんな空気感があるのか」「なぜそこに泊まりたいのか」「どんな人たちと出会えるのか」という、もっと感覚的な価値を磨いていきたいと思う。
SydneyのThe Eve Hotel視察